『教育白書99』独自調査

「教務規定等に関するアンケート」
教務規定の改革で中退者は救えるか

はじめに

 神奈川県では、再び中途退学者・長期欠席者が増加傾向にある。1999年8月3日付『神奈川新聞』は、1998年度の県内全日制公立高校182校の長期欠席者(50日以上の欠席)の生徒数後率が過去最高(長欠席者数2,913人、長欠率1.96%)となったと報じている。県教委が8月2日に発表した異動状況調査によるもので、「退学率(2.27%、退学者3,360人)も高止まりしており、理由はともに『高校生活に熱意がない』『授業に興味がわかない』などが高い割合を占めている」とコメントしている。
 かつて生徒数の増加が続いていた1980年代には、、中退率自体は横ばい状態であっても、、中退者数は着実に増加していて、大きな社会問題にもなった。1987年11月に神奈川県高等学校教職員組合(神高教)は、高校教育問題総合検討委員会(高総検)の中に、高校中退問題対策プロジェクトチームを発足させ、短期間のうちに検討を重ね、1988年6月に『中途退学者を出さないために』と題する緊急提言をまとめている。同時に、高総研も『それぞれの自前の教育課程を』と題する報告書を出して、その中で「教務規定アンケート」結果を分析して、「民主性・合理性・公開性」の三原則による教務規定の改革を呼びかけている。
 1989年に文部省が「学習指導要領」を告示したことで、各学校では、卒業に必要な総単位数を80単位に削減。履修と習得の分離、単位制の弾力的運用などを盛り込んだ教育課程編成が始まる。「1科目でも収得できなければ留年」といった進級・卒業認定基準を含む教務規定の見直しが進められるようになる。特に課題集中校においては、単位不認定者の増加、長欠者の増加など、そのまま放置しておいては中退者が一向に減少しない問題を抱えていた。教育課程とともに教務規定の改革が急務であった。
 この改革の時期が神奈川県では、生徒数の急減期に重なり、1学年12学級、1クラス47〜48人といった過大校の解消がドラスティックに進行する。課題集中高を手始めに、10学級、8学級と募集学級数が削減され、40人学級の導入も始まる。神高教に1991年度から課題集中校対策会議が設置され、県教委交渉の中で、小集団学習、生徒指導に関わる教員定数の加配が実現されていった。こうして、1990年代前半は、課題集中校を中心に、教育課程・教務規定の改革と教育条件整備が同時に進行して、それまで上昇していた中退者数および長欠者数が1990年をピークに減少傾向へ向かうことになった(図1)。
 しかし、この減少傾向もわずか5年でストップしてしまう。1996年度から中退者数が、1997年度から長欠者数が再び増加傾向を示すようになった。生徒数が減少しているにもかかわらず、中退者・長欠者の増加はなぜ始まったのか?この傾向は今後も続くのだろうか?この変化の要因を知るためには、生徒の学校観の変容にも関わる幅広い分析が必要であると考えられる。ここでは、教務規定のあり方とどのように関わっているのか、11年前の高総検が行った「教務規定アンケート」と今回教育研究所が行った独自調査とを比較検討しながら、明らかにしたい。また今回は、生徒の異動状況と教務規定の改革状況が学校間格差とどのように関連しているかを視野に入れた分析を新たに付け加えた。


1.分析に用いたデータについて

 教育研究所が行った「教務規定アンケート」に関する独自調査は、1999年1月に実施したものである。生徒の異動調査を同時に行っているため、1997年度の実績に基づいて回答していただいた。県立の全日制普通科高校142校を対象にアンケート用紙(資料1)を配布して、神高教各分会の教務担当者を中心に回答をお願いした。155校より回答が寄せられ、回収率は81.0%に達した。面倒なアンケートに答えてくださった方々に感謝します。
 高総検が行った前回の「教務規定アンケート」調査は、1987年6月に実施したものである。県立の全日制高校167校を対象に行い、72校から回答を得て、回収率は43.1%であった。調査対象年度は1986年度で、今回の調査の11年前にあたる。
 今回の調査は11年前との比較を考慮して、前回のアンケート項目を生かしながら作成した。集計にあたっては、前回と比較する部分については前回と同様としたが、今回の特徴として校種別集計を行ったことがあげられる。校種別は学校間格差を考慮して、ある予備校の偏差値データをもとに、進学校・中堅校・課題集中校とした(表1)。( )内の数字は、構成比を表している。

  県立高校 回収校数 回収率
 進学校 33(23.2) 31(27.0) 93.9%
 中堅校 62(43.7) 49(42.6) 79.0%
 課題集中校 47(33.1) 35(30.4) 74.5%
 計 142 115 81.0%


2.中退者と長欠者の増加、原級留置者の減少

 まず、中退者の今回と前回の比較(表2−1)を見ると、各学年及び学年計で中退者0名の比率が減少していることが分かる。つまり、中退者を出していない学年・学校が減ったということである。中退者0〜10名の範囲で見ても、学年計で前回62.4%だったものが、今回は58.2%と減少している。この間生徒数が5万人も減少していることを考えると、中退率が著しく増加(1986年度1.24%から1997年度2.29%へ)したことがうかがえる。その中で注目されるのは、1年間の中退者数が0〜10名の範囲で、前回86.4%だったものが、今回は74.8%と1割以上も少なくなっていることである。1年生での中退者が11名以上を超える高校が、1/4以上に及んでいることになる。1年生での中退者数の増加傾向が拡大したことが、大きな特徴といえる。

表2-1  中退者数

今回(1997年度)

前回(1986年度)

  1年 2年 3年 学年計
  %
(実数)
%
(実数)
%
(実数)
%
(実数)
0名 18.3
(21)
15.7
(18)
37.4
(43)
4.3
(5)
1〜10名 56.5
(65)
67.0
(77)
62.6
(72)
53.9
(62)
11〜20名 9.5
(11)
14.8
(17)
-
-
18.3
(21)
21〜30名 4.3
(5)
1.7
(2)
-
-
5.2
(6)
31〜40名 5.2
(6)
0.9
(1)
-
-
4.3
(5)
41〜50名 1.7
(2)
-
-
-
-
2.6
(3)
51〜60名 1.7
(2)
-
-
-
-
4.3
(5)
61〜70名 1.7
(2)
-
-
-
-
0.9
(1)
71〜80名 0.9
(1)
-
-
-
-
2.6
(3)
81名以上 0
(0)
-
-
-
-
3.5
(4)
  1年 2年 3年 学年計
  %
(実数)
%
(実数)
%
(実数)
%
(実数)
0名 30.6
(22)
29.2
(21)
41.7
(30)
15.2
(11)
1〜10名 55.8
(33)
51.4
(37)
54.2
(39)
47.2
(34)
11〜20名 9.7
(7)
11.1
(8)
4.2
(3)
12.5
(9)
21〜30名 4.2
(3)
5.6
(4)
-
-
2.8
(2)
31〜40名 9.7
(7)
2.8
(2)
-
-
6.9
(5)
41〜50名 -
-
-
-
-
-
1.4
(1)
51〜60名 -
-
-
-
-
-
5.6
(4)
61〜70名 -
-
-
-
-
-
1.4
(1)
71〜80名 -
-
-
-
-
-
1.4
(1)
81名以上 -
-
-
-
-
-
4.2
(3)


 長欠者の今回と前回の比較(表2−2)を見ても、各学年及び学年計で長欠者0名の批准が大きくダウンしていることが分かる。長欠者0〜2名の範囲では、学年計で前回55.2%だったものが、今回は12.2%と極端に減少している。11年前には過半数の高校で長欠者2名以内ですんでいたものが、現在では9割近い学校で3名以上の長欠者を抱えるようになったことが分かる。分布の最大頻度グループを見ると、前回では0名がどの学年でも最大頻度を示していたのに対して、今回では1年では1〜2名で34.8%、2年では3〜10名で55.7%、3年でも同じく3〜10名で39.1%と最大頻度グループを形成している。注目すべきは、2年生で長欠者0〜2名が前回70.6%だったのに対して、今回は33.9%と他の学年と比して大きく減少していることである。中退者が1年生に集中するようになったのに対して、長欠者が2年生に集中するようになったことが、このデータからうかがえる。

表2-2  長期欠席者数

今回(1997年度)

前回(1986年度)

  1年 2年 3年 学年計
  %
(実数)
%
(実数)
%
(実数)
%
(実数)
0名 17.4
(20)
9.6
(11)
28.7
(33)
3.5
(4)
1〜2名 34.8
(40)
24.3
(28)
30.4
(35)
8.7
(10)
3〜10名 29.6
(34)
55.7
(64)
39.1
(45)
49.6
(57)
11〜20名 12.2
(14)
9.6
(11)
0.9
(1)
20.9
(24)
21〜30名 2.6
(3)
0.9
(1)
0.9
(1)
7.6
(8)
31〜40名 3.5
(4)
-
-
-
-
4.3
(5)
41〜50名 -
-
-
-
-
-
4.3
(5)
51名以上 -
-
-
-
-
-
1.7
(2)
  1年 2年 3年 学年計
  %
(実数)
%
(実数)
%
(実数)
%
(実数)
0名 35.8
(24)
37.8
(25)
45.5
(30)
16.4
(11)
1〜2名 32.8
(22)
32.8
(22)
36.4
(24)
38.8
(26)
3〜10名 23.9
(16)
22.4
(15)
16.7
(11)
23.9
(16)
11〜20名 7.5
(5)
7.5
(5)
1.5
(1)
11.9
(8)
21〜30名 -
-
-
-
-
-
4.5
(3)
31〜40名 -
-
-
-
-
-
3.0
(2)
41〜50名 -
-
-
-
-
-
0.0
(0)
51名以上 -
-
-
-
-
-
1.5
(1)