(3)「登校したくなかったことがあるか」の比較

 グラフ5は、「登校したくなかったことがありますか」という項目への回答結果を、比較したものである。「良くあった」という回答の比率は、83年度以降、前回の97年報告の調査までは、着実に下がってきた。ところが、今回の調査で、その傾向は変わった。今回は、「ときどきあった」という回答には、大きな変化はなかったが、「よくあった」という回答の比率は上昇し、「ない」という回答の比率は低下した。しかも、「良くあった」という回答の割合は、前々回の88年を上回るまでの数字になってしまった。
 「登校したくなかったことが良くある」という回答を、「進学校」「中堅校」「課題集中校」の3つに分けでグラフ化してみたものが、グラフ6である。「進学校」にあっては、88年の調査においていったん減少し、その後は増減ありながら、ほぼ横這いといってよい状況であった。それに比べ、「中堅校」「課題集中校」の場合には、88年の調査以降、「登校したくなかったことが良くある」の比率が、一貫して上昇を続け、とくに、「中堅校」の場合の上昇幅は大きく、「課題集中校」の水準にほとんど近いところまできているのである。

 さらに、「登校したくない、と思ったことがあった」と回答したものが、実際に登校したか、登校しなかったか、という点を聞いた結果が、グラフ7である。ただし、この質問は、88年の調査と今回しか行われておらず、比較はこの2調査の間でしか行うことができない。
 結果は、大幅な減少、しかも学校間の格差は、比較的小さい。しかし、これをそのまま受け取るわけには行かない。というのも、グラフ8で分かるとおり、この間に「長期欠席者」の数が大幅に上昇しているからである。
 これは矛盾である。もちろん、「登校したくなかったことがある」と答え、さらに「実際に登校しなかった」と答えた回答者が、そのまま長期欠席者になるということではない。現実に存在する長期欠席者の多くは、このアンケートに参加することすらできなかっただろう。ここで「登校したくなかったことがある」と答えた生徒たちは、長期欠席者手前に踏みとどまった生徒というべきかもしれない。「登校したくなかったことがある」と答えた者の8割近くは、「それでも登校した」、少なくとも彼ら意識の上では、頑張って登校したのである。そんな頑張る生徒の比率は、大幅に増えている。だが、彼らの頑張りにもかかわらず、客観的数値の上では、長期欠席者は急増しているのである。ここに事態の深刻さがある。


(4)高校生のモラル意識

 グラフ9は、「高校生がやってはいけないこと」を聞いたものである。この調査項目は、本県救助の『教育白書97』の調査と同一のものである。だ足し、『白書97』では、「不登校の生徒、2学期までの欠席日数が20日を越えている生徒」「学校に登校するが、なかなか授業には参加しない生徒」「その他」の3グループに分けで、対面聞き取り調査を行ったものであった。また、対象校は、「課題集中校」8校、「非課題集中校」9校と、全体のバランスからいえば、「課題集中校」に偏った調査であった。これは、97年の調査の焦点が「学校不適応」生徒に絞られていたという理由による。この点で、今回の調査とは、ずれが生じている。しかし、調査の結果には、大きな違いは認められなかった。「高校生がやってはいけないもの」が何であるかという意識についていえば、調査対象生徒の範囲による影響も、この3年間の変化もあまり関係がないように見える。ただ、カンニングについては、今回の調査の方が、「やってはいけない」という回答が多くなっている。他方、携帯電話、授業中の化粧、授業中のおしゃべりについては、逆の結果になっている。しかし、これをもって、授業に関するモラル意識の低下、と言うのは早計であろう。漫画を読む、飲食をするなどの項目では、むしろ「やってはいけない」という回答が増えているのである。
 83年と88年の調査でも、「『非行行為』と思うもの」を選ぶ項目があった。ただし、80年代のこの2つの調査の選択肢と、今回および『白書97』の選択肢の間には、かなりのずれがある。そのため、確実に比較可能なものは、『飲酒』『喫煙』ぐらいに限られてしまう。
 飲酒を「非行行為」と見なす生徒は、、83年は12.7%、88年は10.9%であった。これに対し、97年の場合は、39%、今回は35.7%であった。また、同じく喫煙については、83年は28.8%、88年は27.0%であった。これに対し97年の場合は、51%、今回は、50.7%であった。この部分だけでは、モラル意識の向上とも言える結果になっている。
 また、使っている言葉が違うので、参考程度に比較にしかならないが、83・88年の「授業さぼり」という選択肢と、97年と今回の「授業中の中抜け」も比較しておく。「授業さぼり」を「非行行為」と認識したのは、83年12.1%、88年12.0%であった。97年と今回の調査で、「授業中の中抜け」を「やってはいけない」と答えたのはそれぞれ41%と36%であった。
 これらの部分的な比較から見る限りでは、80年代と90年代の間で、生徒ののモラル意識はむしろ向上しているとさえ言えるのかもしれない。しかし、比較可能項目も少なく、用語の統一もされていないところでの、心許ない比較であり、これ以上この点の言及することは控えておく。


(5)いま神奈川の高校で何がおきているのか。

 神奈川県の公立中学校の卒業生は、1988年がピークであった。その前後は、12クラス規模の大規模校がならび、各クラスの定員も47名から48名におよんだ。この時期が、神奈川県の高校教育が、最悪の条件を強いられた時期であった。だから、中途退学者の率が、上昇していったのも一応は頷けるところである。その後、中学卒業生の数は減少へ向かっていく。それとともに、学級規模、クラス規模も縮小された。同時に、「課題集中校」への教員加配等の施策もとられ、神奈川の高校が置かれている条件には、一定の改善を見ることもできた。そして、90年をひとつのピークとして、中途退学者の比率、長期欠席者の比率ともに低下し、落ち着く方向が見えてきていた。高校生の意識についてのこれまでの調査からも、学校への満足の傾向などの意識にも一定の改善を認めることができた。
 ところが、ここ数年になって、中途退学者の比率、長期欠席者の比率がともに、急角度で上昇している。一方、研究所が行った今回の調査も、「学校への不満傾向」の比率、「登校したくないことがあった」という比率の上昇を知らせるものであった。他方で、中学卒業生の数は、さらに減少を続けている。その意味では、高校を取り巻く外的条件は、一層改善されているはずである。そしてまた、入試制度の「改善」と高校の「特色づくり」も一層進められたはずである。いま、神奈川の高校で何が起こっているのか、あるいは何が起こりつつあるのか、その進む方向を、も一度検討すべきときではないだろうか。
 第二部では状況をもっと詳細に検討するため、今回の調査の各項目について、特に学校間の格差に焦点を当てながら分析を進めていきたい。