6.通信制高校への思い「自由で自分のペースで学べるところ」
先に紹介した全通研のアンケートでの「あなたが通信制に入学してよかったと思うことはなんですか」という質問に対して、上位3つの回答をあげると、1細かな校則がない 2先生が親切に指導や相談をしてくれる 3友達と楽しく語り合える、となっています。私たちのアンケートでは、「前の学校と比べて、通信制高校での学習や生活についてどのような感想・考えを持っていますか」という設問への自由記述という形を取りました。その内容は、全通研アンケートの回答と照応し、通信制高校がこれらの転編入生にとって、前籍の高校に比べ大きなプラスの評価を与えられるものということが分かります。
自由記述の回答内容(この設問に「なし」あるいは無回答は、35でした。つまり有回答数は、165となります)を幾つかのキーワードを選んで分類してみました。キーワードは、(1)「自分」・「個人」・「自己」(2)「自由」(3)先生」・「教師」(4)「レポート・スクーリング」です。これらの具体的な回答内容の主なものを以下に示してみます。(1)「自分」・「個人」・「自己」
(このキーワードを含む回答数は62です)
#通信制での生活面
自己責任・自己管理への積極的な評価
- 自分の行動に責任を持って生活する習慣がつくので、広い範囲で充実し、満足感が得られる。
- すべて自分の責任でやることはとてもよい。やる気もでる。
- 毎日学校に行かないので自分の時間があるのがいい。
- 自由に学べて自分の常識で行動できるところがいい。
- すごく自由で、前より自分自身が幸せになれたような気がする。
- 個人を尊重してくれるのがいい。進学向けの講座があれば最高。
- 個人の個性を尊重しているところがよい。
- 時間に縛られない。自己管理をするようになった。
自己管理のむずかしさ
- 先生や友達と親しくなるには自分から積極的にならねばならない。
- ただ学校へ出るだけでなく、自分自身で考え行動しなければならないので難しい。
- 自己管理や生活習慣を保つこととに苦労している。人とのつきあいがあまりなく、自分からするのもやりにくい。でも一つの経験として今では良いと思う。
- 良いと思う。もっと自分でやる気を起こさないといけないと思う。
- 自分で行動し、律しないと堕落していくのでその辺が大変。(他に類似が4名)
- 自由な時間が増えたが、自分で管理するから、しっかりしなければと思った。(他に類似が3名)
人間関係の面で
- 学校にいろいろな年齢や立場の人がいて、そういう人と交流し自分も成長したと思う。
- 人間関係がギスギスしていず、自分には向いていると思う。
#通信制での学習面
自分のペースでの学習
- 分からないところは分かるまで教えてくれ、自分のペースで学習できる。
- 自分のペースで学習できるので、自分にはあっている。(他に類似が16名)
- 自分のペースで勉強できるのがいちばんよかった。毎日学校に行かなくてもいいので自分の時間を持て心にゆとりができた。しかし強い意志をもたないと卒業できない。普通の高校の1年より通信の4年間の方がプラス。
- マイペースでやれるのでよい。自分を見つめ直せた。
全日制との比較
- 全日制のように席に座り、時計とにらめっこで3年間を過ごすのでなく、レポートは易しいが、どの教科も自分のがんばりで単位が取れた気になり満足した。
- 全日制の方が勉強が楽。自分から勉強し友人を作らないと進まない。孤独がついてまわったが、人生の上でいい勉強をしたと思う。
- 全日制に比べると勉強のレベルがかなり低い。進学したい人には全日制があっている。人付き合いが苦手な人や、自分の時間が持ちたい人には通信制が良い。
通信制の学習では自主性が必要であることへの積極的な評価
- 全てが用意されている受動的な学習ではなく、自分の意志で学べるので、発見や感動が多い。
- 月2、3回学校に行き、あとは自主的にレポートというのは感心した。自分にやる気がないとできないし、学ぶ意欲のある人が来るのですごく良い。周りにも同じような人がいるし、入学して良かった。
- 自分の意志で通学・勉強するので、普通に通っている子と比べると自主性が強くなった。
- 自分自身の努力が求められ、のびのびと学習できていい。
学習の大変さ
- 通信制はほとんど自分でやらないといけないので大変。(他に類似が3人)
- 自宅学習で続けることができるか心配で、自分でしっかりやろうと思っている。
- 毎日学校に行かないので初めは楽な気持ちがあったが、勉強をほとんど自分の力で進めるので、意外に辛い。毎日のように勉強しないと、レポート作成ができないので進んで勉強する姿勢が身に付く。
- 自分の持っている時間とやる気さえあれば、勉強はできると思った。卒業することで自分に自信がつくと思う。
- 自分で勉強するのは大変だが、自由だし、先生とも近く感じる。
- レポート提出と月2回のスクーリングは楽だが、自分で意欲的に取り組まないと、留年するかやめてしまうのでかなりシビア。
その他
- 自分の意見を述べるレポートが多かった。細かいことを覚えるより、大まかなことを教わってよく考えて意見を述べる授業の方がいい。
- 自分がスクーリングに出たりレポートをしっかりやる必要があり、続けることが大事。
これを見ると通信制高校では、生活・学習面で、誰かの指示待っていてはだめであり、意識的に自分をコントロールしていないと続けていけないことが良く分かります。それをやり抜いていくことは、孤独であるし、困難だが、達成すれば大きな自信となり、そこに積極的な価値を見いだしている、といえましょう。今の多くの全日制・定時制の高校とは対照的な学校のあり方は、戸惑いも多いようですが、生徒たちは「自由」の意味を体得していくようです。つぎにこの「自由」ということではどういう回答をしているのかを見てみましょう。
(2)「自由」
(このキーワードを含む回答数は30。(1)で出てきたものを除いて、以下まとめます。
#単純に「自由」。
- 自由でよい。(他に4名)
- すごく自由だと思った。
- 時間が自由になった。
- 自由な感じがして大変によい。
- 自由なところ。(他に1名)
- 自由でやりやすい、気楽。
- 自由がきく、身体によい、楽しい、学習・授業もすごくいい。
#考慮すべきことがありつつ、自由。
- 自由な雰囲気だが、勉強するには強い意志が必要。
- 学習は自由でいいと思うが、怠けてしまうことがあるので、強い意志が必要。
- 日曜しか行かないので、先生や友達とコミュニケーションが取りにくい。大変ではあるが、自主的に何かをやれて自由でとてもいい。
- 病気でも学習しやすくよかった。自由な雰囲気はとても印象的だが、自由を履き違えている生徒もいた。
- 全日制の方が友人関係などは楽しかったが、通信は自由で楽。
#内容を伴う、自由への評価
- 時間が自由に使えるのでやりたい勉強ができる。
- 勉強内容も簡単で、量も少ないから自由な時間をたくさん持てるようになった。
- 自由な時間が多く、やりたいことができる。
- 勉強内容も簡単で、量も少ないから自由な時間をたくさん持てるようになった。
- 自由な時間が多く、やりたいことができる。
- 最初は学歴にこだわっていたから抵抗があったが、今は自由な感じでいじめもないし、すごく気に入っている。
- 働きながら勉強でき、学校へ行く時間が少ないから、自由に、のびのびできる。
- 自由に使える時間が多くて、やりやすい。いろいろな人がいて面白い。
- 規則がないから自由に過ごせる。
- 個人の自由を尊重しようとする姿勢が見られるし、同じ境遇の人がいて勇気づけられる。
- かなり自由なので、いい感じだ。教師も丁寧に教えてくれるので結構満足している。
こうした転編入制にとっては、通信制という制度がもたらしている「自由」をどのように自分のものとし、どう活用するかが大きな課題であり、それを収得できず、姿を見せなくなる生徒の方が実はずっと多いのです。その一方で「自己管理をするようになった」、「自己管理が重要」と述べているように、「自由」とは「自律」や「自己責任」を意味することを、理解してくれている生徒ももちろんいます。
次に、これまでのアンケートの回答からもうかがえますが、教師に対する見方はどうでしょうか。(3)「先生」・「教師」
(このキーワードを含む回答数は8.(1)と(2)に出てきたものは除く)
- すごく良いと思う。先生に「やれ」といわれるよりもやる気になる。
- 校則などがなく、のびのび学習できる。先生が話をちゃんと聞いてくれる。
- 人との会話は少なくなるが、伝えたいことはきちんと先生にいえるし、話し合えるので良い。
- 一年からだとレポートが相当の量になる。美術などはレポートが中心になり先生からの指導が上手く伝わらない。体育、保健はレポートの書く量が多すぎる。
- 日曜しか行かないので、先生や友達とコミュニケーションが取りにくい。
これらの回答には、通信制のメリットとデメリットがよく示されています。通信制の教員といえども、全日制・定時制から転勤してきた人も多いし、特に生徒に親切だったり、生徒のことを深く配慮しているわけではありません。それにもかかわらず、教師に対するこのような評価は、通信制という制度がもたらしたものとしか考えられません。
生徒を集団としてみて、対応するのではなく、個別的に、その生徒の固有の事情に応じて、対応するしかない仕組みが通信制にはあります。また、教師のところに来る生徒は、それなりに、学習意欲がある生徒ですから、教師との話もスムーズに進み、生徒の方でも教師のいうことには耳を傾ける用意があるのです。ただ、そういう生徒でも、前籍の学校では、必ずしも教師のそのような対応が望めなかったとすれば、それは、やはり今の全日制・定時制のもつ構造的な問題といえるのではないでしょうか。
通信制のもつ以上のような特徴は、デメリットと裏返しです。学校に来る機会が少ないからこそ、教師とのコミュニケーションが貴重とされ、個別的な対応も期待できる半面、そもそものコミュニケーションが取りにくく、学習でのつまづきも生じやすいのです。
通信制の学習の核であるレポートとスクーリングについては、どのような意見が見られるでしょうか。次にそれをまとめて見ましょう。(4)「レポート・スクーリング」
(このキーワードを含む回答数は、20。以下ではこれまでの回答と重複を避けます)
#レポート・スクーリングによる学習形態について。
- 大変。レポート、授業回数がはっきりしていて、適当にできない。
- レポートをやることで勉強の目的が明白なので、勉強しているという満足がある。毎日義務で学校に行くより、アルバイトや稽古事ができたりで、生活が楽しくなった。
- レポートは大変だが、もっとレベルの高い勉強をしてもいい。クラスで何か楽しいことをしたい。
- 毎日行く必要がないので楽ではあるが、レポートが大変。
- レポート授業は、先生によって大きな差があり、本当に自分のためになる科目もある。
- 仲間がいないと辛い。テストはレベルが下げてある。スクーリングは少ないがゆえに、スクーリングのある日はきついこともある。卒業者が少なく、通信制の辛さがある。
- 前籍校が通信だったので、すんなり入れた。スクーリングを大切にしたい。
- 全日制の頃は勉強だけでなく、友達と過ごすところだったので、通信はなじめない。スクーリングは理解できない教科もあるし、私語がうるさいときもある。
- 他人のレポートを丸写しにはあきれた。学校が生徒を縛り付けていないのはいいが、それにも限度がある。
- スクーリングが少なく、友達と距離をもってつき合えるが、本当に学校かと思うことがある。
- スクーリングがなければいい。
全日制・定時制の高校での講義形式の授業は、受動的な学習に陥りがちです。それに対し、レポートによる学習は、とにかく自分の頭と手を使い、勉強時間もきちんと確保して、それを地道に続けなければ、単位は修得できません。こうした学習の形は、今の教育の主流からは例外的です。それが通信性の基本的な学習スタイルであり、それになじんでいない転編入生たちが「全日制とは授業の仕方が違うので戸惑いが多い」と述べ、大変だと思うのは当然でしょう。またスクーリングもあくまでレポート学習の補助的な意味しかないならば、これが「学校か」と思う人がいても、それはそうでうなずけることではあります。通信制で、脱落する人が多く、卒業率も低いのは、そうしたことが理由でもあります。
回答の中に全日制との違いをなかなかうまく表現したものがありました。それは、「(通信制の学習は)簡単でも課題を終わらせないと次に進めないというのは大変だけど、よいこと。全日制はとりあえず学校にいっていれば、何とかなるような感じ」、あるいは「入学前は簡単に考えていたが、『今度やればいい』という気持ちでやっていると、卒業できないと思う。本当は全日制よりもずっと大変だと思う」というものです。このような回答は、通信制の子とをよく知り、随分なじんだ人のものといえるでしょう。また、学習への意欲もある人なのでしょう。学ぶことの基本と考えたとき、こうした例にみられるように、意欲を持って学ぶ主体があるならば、通信制という制度は、それに合致しているのかもしれません。ところが、この学ぶことへの意欲すら失っている(あるいは奪われてしまっている)生徒が多い最近の学校の状況を考えたとき、簡単に通信制のやり方を今の学校に当てはめるわけにはいかないかもしれません。
もちろん、この通信制特有の学習形態が、「自分のがんばりで単位が取れ、満足した」とか「進んで勉強する姿勢が身に付く」とか「自立心が出て、計画的に勉強できる」ことなどとして、積極的な評価もあり、切り刻まれた知識を与えられるだけの学習や、「覚える」学習ではなく、主体的に「考える」学習のあり方を、私たちが構想するときに大きな参考になるといえましょう。
通信制のもう一つの特徴として、多様な年齢・世代の生徒層の存在があります。もっとも前述したように、近年の通信制は、若年層が増えていて、かつてのように年配者が学校生活や学習をリードするという場面はほとんどなくなっているのですが、それでも年齢も学力も画一的な全日制の高校に比べて、はるかに多彩です。この点を転編入制はどのように受け止めているのでしょうか。これにかかわる回答を拾い上げてみましょう。
- いろいろな年代の方に接することができ視野が広がった。目上の方の人生豊かな話、年下の子に励まされたこともあった。通信制の醍醐味は、いろいろな年代が同じ高校生活を送っているところ。
- 学校にいろいろな年齢や立場の人がいて、そういう人と交流でき、自分も成長したと思う。
- いろいろな人がいて面白い。
- 年の違う人と勉強するし、いろいろな人がいるので楽しいかもしれないが、月2回会うだけだから、あまり仲良くなれないかもしれない。
- 目的を持っている人もたくさんいて、目から鱗が落ちる。多様な人が多いのが嬉しい。
全日制では、「原級留置」の生徒がクラスに入ると、教師は神経質になりがちです。
それに対して、通信制では「留年」という感覚は全日制とは全く違うので、年齢がまちまちの仲間とスクーリングやクラスで出会うことになります。生徒にとって、これはとても新鮮な経験なのでしょうし、意義も深いようです。否定的な回答はこのことに関してはありませんでした。