4.高校への不満の中で〜学校体制への不満の大きさ

前籍校への不満・悩み
友人関係・雰囲気 67
学習・授業 38
先生 47
生活指導 51
通学時間 34
その他 18
なし 31
na 17
303

 今の高校生の多くは、一件従順です。過去のいくつかの局面のように、言論による批判も力による不満の激発もあまり見られない高校の現場です。
 むしろ昨年の研究所の独自調査が示しているように、「学校に適応していない」と思われる生徒たちは、自らの内部に沈潜したり、自己の周囲にしか関心を示さず、学校などな気が如くの、あるいは学校を見限っている四言うな言動をします。その彼らから、学校のあり方を変えていく建設的な批判をくみ取ろうとするのは、そもそも矛盾した、無い物ねだりの要求といえるかもしれません。
 しかし、私たちにとって、「学校改革」が意味のあるものだとするならば、それは、「飛び級制」や「中高一貫」のようなエリート養成的な要素をもつ新たな制度ではなく、あくまで、多くの「普通」の生徒の思いを踏まえたものでなければならないはずです。このような彼らの思いをまとめあげるのは、とても難しいことですが、それを欠落させることは許されません。
 通信制に転編入学した生徒たちは、とりあえず学習を継続させる意志を持った人々ですから、彼らは「学校への不適応」を起こし、学校を完全に見限ったのとは若干違うでしょう。先にも述べたように、多くの中退者の中ではかなり例外的な存在といえましょう。その意味で、このアンケートに答えてくれた人たちは、「普通の中退者」とはいえないかもしれません。それでも、彼らの声を聞き、思いを知ることは、高校を変えていくためには一つのステップとして、とても大切なことでありましょう。
 つぎに、彼らがどのような不満や悩みを抱えて通信制以前の高校生活を送ってきたかを以下で見てみましょう。この設問への解答も複数回答ですが、複数の「不満、悩み」をあげたのは、有回答者のうちおよそ25%になりました。まず基本の内容を以下の統計で確かめてみましょう。
 右表のように「学習・授業、先生、生活指導」という学校の体制に対する「不満・悩み」を上げた数は、総計で146となり、「友人関係・クラスや学校の雰囲気」よりもずっと多くなっています。これらの内容を具体的に拾ってみましょう。

(1)学習・授業に関して

(2)先生に関して

(3)生活指導に関して

 こうして列挙してみただけでも、現在の学校の中で生徒たちが行きにくくなっている状況はうかがいしれます。
 ところで、研究所の1997年度調査の時、調査対象の「学校不適応と思われる」生徒たちに同様な質問をしました。それを見るとおよそ半数近くが「特に不満はない」と回答していました。これについて私たちは、「生徒がほとんど学校に関心払っていない」からなのか、高校が「大きなプレッシャーを感じることなく生活できる居心地の良い場所」なのか、と述べました。
 通信制に転編入してきた生徒たちの中で「不満なし」あるいはそれに通じる「無回答」と答えた数は合わせて48に過ぎません。となると今の学校が「居心地の良い場所」とは、少なくとも通信制への転編入生についてはいえないようです。この点を校種に考慮してクロス集計してみると、公立高校をやめた人(全体で141人)で、やめた理由に「友人関係・雰囲気」を上げた人は述べ数で46人、「学習・授業、先生、生活指導」をあげた人は同じく42人になり、私立高校を辞めた人(全体で47人)についてはそれぞれ述べ数で19人、同じく9人となっています。私立は生活指導が厳しいという通念からすると逆の結果になっているようです。
 年齢との関係はどうでしょうか。傾向として確かめられることは、20歳以下の若い層ほど、「先生」と「生活指導」への不満が高く、学校からの働きかけでやめた人は、「友人や雰囲気」、次いで「生活指導」への不満・悩みをあげています。
 1988年長さとの比較をしてみましょう。調査報告では、「前の学校に在学中、不満に思っていたこと・悩んでいたことを書いてください」という設問への記述解答が、1先生について 2学習・授業について 3生活指導について 4その他の学校生活(友人・クラスなど)についてという4項目にわたって列挙されています。そして、1を記述した人が265人中1342は98人3は108人4はごく少数だった、と書かれています。記述されている内容(生徒の不満)はそれほど大きな違いはありません。これはこれで学校というものが10年間では簡単に変わらないということを示しているのでしょう。
 しかしそれ以上特徴的なのは、今回の調査では、「友人関係・クラスや学校の雰囲気」を選んだ生徒が極めて多いこと、さらに「なし」・「無回答」と答えてた生徒が1988年に比べるととても目立つことです。「友人関係等」の不満の代表的な内容を以下に掲げてみます。

 1998年調査ではこうしたことが「ごく数人」だったとすれば、今の高校生たちの現状には、暗黙のうちでの過度の同調の強制と他者との違いを出すことの恐れ、そして人間関係の底の浅さなどがつのっているのでしょう。こうした学校生活の中で無気力になった人は、「無回答」を今回選んだのでしょうか。また「なし」と答えた人はそのような学校をもう見限っているということなのでしょうか。「友人、クラス、学習、先生どれをとっても申し分ない学校だった」というような回答はあまりにも少ないのですから。

5.やめたことをどう考えているか〜「後悔はしていないが、進路の悩みがある」
 全国高等学校通信制教育研究協議会(全通研)が1998年3月に関東地区の全10校の都県立の通信制高校の生徒を対象にして実施したアンケート調査によると、転編入生845人のうち「通信制に入学してよかったと思っている」と答えた生徒が70%、「どちらともいえない」が24%、「通信制でない学校に入学した方がよかった」が3%という結果が報告されています。設問の角度は違いますが、私たちの調査からもこれは頷ける結果といえます。
 私たちは、「今から振り返って、前の学校をやめたことをどう思いますか」と聞きました。その結果は以下のようでした。

学校をやめて後悔は?
している 55
していない 95
何とも思わない 31
その他 15
na 4
200

 ここに示されているように63%の人が前の学校をやめたことを後悔していないか、なんとも思っていません。後悔に値する学校ではなかったということなのでしょうか。「後悔している」と答えた人のうち、通信制に何らかの不満・不安を持ち、「なじめない」と答えている人が11人います。この割合は、「後悔していない」人のそれぞれがわずか3人であるのに比べ、相当高くなっています。全日制・定時制とはかなり異なる通信制の環境が、必ずしもよい結果をもたらさない人たちもいるのでしょう。
 1988年調査によると、「前の学校をやめたことをどう思いますか」という回答は、「後悔している」が165人中の64人(24.1%)で、「後悔していない」が124人(=46.8%)、「なんとも思わない」と「無回答」がその残りとされています。この傾向は今回もおおむね同じでした。さらに分析者は、「『後悔していない』は比較的10代の男子生徒に多く、『後悔している』は就職等で高卒の問題に直面した経験のある20代以上の人に多い」と述べています。こちらについては今回の調査では、「後悔している」のは10代が26人に対し、20代以上が29人となり、1988年調査に近いかもしれませんが、「後悔してない」のは10代の女子49人、男子23人の計73人、20代以上が20人となり、前回調査と異なり、10代女子がもっとも多くなっています。

 しかしやめたはいいものの現在の学校歴社会では、ことはすんなりと運びません。「前の学校をやめて、困ったこと、気になったことは?」という設問へは、20%の人が複数で解答しています。

やめて困ったことは
就職 74
進学 46
世間体 34
友人関係 12
親との関係 20
その他 21
なし 26
na 19
249

 就職関係で困ったということの具体的な内容を見てみると、やはり「就職には高卒資格が必要」なこと、「中退者を見る白い目」をあげている人が目立ちます。前記の全通研の調査の中に通信制に入学した理由を聞く設問があり、その回答として「高校卒業の資格が必要だから」を選んだ人が、846人中718人と最大を占めていることともこれは符合しています。
 中退した人にとっては、世間の見る目や親との関係はかなり深刻なものもあり、たとえば、「高校中退は回りもバカな子という目で見る」、「中退して10年以上たつが未だにいわれる」、「(中退して)社会人になって事ある毎に問題が出てきた」、「親に見離された」、「家を出された」などの回答もありました。学校歴をとりまく日本社会の深い病理が象徴的に現れているといえましょう。また、進学にかんしては、たとえばいまだにいくつか大学や専門学校が、推薦入学の条件から通信制高校をはずしているという現実もあるのです。