■学校は「おしゃべり天国」?

 今回の調査で最も興味を引いたのは、【5−8】「高校生がやってはいけないと思うものをすべて選んでください」という設問の回答結果でした。設問項目にあるものはすべて「学校社会」では「いけない」とされているものですが、最も支持率が高かったのが「器物破損」の100人中70人というのには驚きました。「教師を殴る」より物を壊す方が悪いというのはどういうセンスなのかと首を傾げざるを得ません。「教師への暴言」となると支持率は半分を切っています。以下支持率の高い順に列挙してみると、2位が「対教師暴力」「カンニング」で100人中69人しか(も?)支持されていないという結果になっています。
 次いで「カンパ」「暴力」「土足で教室へはいる」「授業中携帯電話をかける」と続き、最も支持率の低かったものが、「授業中のおしゃべり」で21人となっています。「喫煙」より「飲酒」の方が支持率が低いのは、「打ち上げ世代」としての感覚や飲酒に甘い日本社会の反映でしょうか。
 調査結果の一つの特徴として、全般的に、課題集中校グループの生徒の方が、非課題集中校グループの生徒より、「やってはいけない」と回答した項目が多いという結果となっていますが、
これはどう説明したらよいのでしょうか。課題集中校グループの生徒の方が「倫理観」高いというわけではないでしょうが、全項目を「やってもよい」あるいは[いけない」と答えた生徒の割合に両者に大きな違いがないだけに不思議な気がします。
 「授業中の中抜け」「授業中のたち歩き」「授業中の漫画」「授業中ウオークマンを聴く」などが揃って低い支持率である状況は、教室の風景を思い浮かべると頷けるものですが、教室の秩序を維持するのが小学校段階でも難しくなっている状況とパラレルな関係にあるといえます。いまや、「生徒が整然と机に着席して教師の授業に耳を傾けている風景」など、映画のスクリーン上か小説の中にしかないのではないでしょうか。
 さらに、「無断欠席」や「無断早退」の支持率の低さを考え合わせると、「気が向いたときにちょっと立ち寄って教室を覗いてみて、友だちとおしゃべりやら情報交換をして、面白くなくな
ったらフラリと帰ってしまう」というスタイルの生活を送っている生徒の一群を想定してしま
います。学校は、明治以来続いてきた「立身出世」のために勉強する場所としての役割を終え、
社会的な常識やモラルを培う場所としての機能も喪いかけており、今や同年齢の友人たちとの交流の場としての機能が中心になりつつあるのでしょうか。


■アルバイトの中に「手応え」のある現実がある?

 【6−1】で放課後の過ごし方を聞いたところ、「アルバイト」と「友人と遊ぶ」が群を抜いて多くなっていて、学校生活で満たされない空白を友人との交流とアルバイトに求めていることがわかります。それにしてもアルバイト経験者が8割という数値は、やはり異常な高さではないかと思えます。彼らは、学校では気ままに過ごしていても、アルバイトという「社会」の中では時間に縛られながらまじめに働いているとみるべきでしょうか。
 1週間平均16,3時間働き、月平均4万7千円の収入を得ているという統計が出ていますが、高校生で月に4万7千円の小遣いを使えるというのは大人の小遣いより潤沢といえます。アルバイトで得た収入の使途はさまざまですが、ほとんどは遊興費か、服や靴など身の回り品の購入に当てられています。時代を反映したポケベルやPHS・携帯電話の購入費や使用料に当てているケースも目立っていますが、基本的には消費文化の中にとっぷりと浸かっているようです。高校生のアルバイトが、企業にとって安上がりな労働力として利用されていることは衆知の事実ですが、彼らが自ら稼いだ金を今度は惜しげもなく消費してくれることによって、高校生は企業にとって二重に「おいしい存在」なのかもしれません。企業が流行の発信源として、購買力のバロメーターとして特に中高生の女子に注目しているのが納得できるような結果です。 
 【6−3】「今欲しいものは何ですか」という設問の回答にも消費社会の影が色濃く反映されています。単刀直入に「金」と答えた生徒も3割近くいますが、服、靴、バイク、車等々、消費文化の産物が並んでいます。世界の中でもトップレベルの高度消費社会である日本の中で成長してきた生徒たちにとって、最も手軽に充足感を得られるのは「物」を所有することなのかもしれません。そして、世の中で一番頼りになるのは「金」であることも彼らはよく知っています。【6−4】「今してみたいものは」という問いに、「特にない」と回答した生徒が2割以上いるのも、安易に夢や希望を語ることの空しさを知っているためなのかもしれません。「焼き肉食い放題」「世界征服」という茶目っ気たっぷりの回答もありますが、概して身近で手頃な回答内容になっています。