■高校へは来てみたけれど…

 高校選択の様子を尋ねた【5−1】の回答には面白い結果が出ています。非課題集中校グループでは、「自分の学力にあった高校だったから」が最も多くて49人中27人、次が「親や先生に勧められて」「自宅に近かったから」が同数で11人、次いで「他に選ぶ高校がなかったから」と続いています。これに対し、課題集中校グループは第1位が「他に選ぶ高校がなかったから」で51人中29人、続いて「自分の学力にあった高校だから」の24人で、この二つの項目が他より群を抜いています。課題集中校に入学してくる生徒には学校選択時にほとんど選択の余地はなく、不本意入学の割合が高くなっている実態が反映された結果となっています。

 しかし、ともかくも入学した高校で7割近い生徒が「高校をやめたい」と考えている実態は、調査対象が一定の傾向を持った生徒であることを差し引いても考えさせられる数値ではないでしょうか。中でも、「いつもそう思っている」生徒が2割以上もいる事実には驚かされます。【5−3】「やめたいと思いつつも学校を続けている理由」をみると、「今の社会では高校ぐらい出ていないと通用しないから」がトップで35人、次いで「次の進路(大学や就職)への通過点」が23人となっていて、高い高校進学率と学歴社会の中で「取り敢えずは高校へ」という意識がうかがわれます。3番目に多い「親が辞めさせてくれない」も、保護者が自らの生活の中でそうした社会の状況を切実に感じているためではないでしょうか。また、【7−8】で「社会でイヤなこと」を尋ねた項目に、「学歴社会」と答えた生徒が多かったこと、「勉強できないと成功しない」「中卒でも平気な社会でない」「勉強・経済力がないとダメ」といった率直な回答の中に生徒が感じている学歴社会の圧力を読みとることができます。
 しかし、そうした学歴社会のコースに乗るためには、「授業を受けて勉強する」という彼らにとって「苦行」ともいうべき試練に立ち向かわなくてはなりません。学校生活の様子を聞いた【5−4】の設問をみる限り、遅刻・欠席の多さと授業態度には積極的に試練に立ち向かおうという姿勢は感じられません。この100人でクラスを形成したらいったいどういうことになるだろうかと考えてしまいますが、この状況を笑えない実態が課題集中校にはあるのです。年間200回も遅刻している生徒は朝のHRにはまずいないことになります。担任が生徒と接触をはかろうにもはかれない実態があるのです。

ア  だいたいどの授業も聞いて、ノートも取っている
イ  授業は聞いていないことが多いが、ノートは取っていることが多い
ウ  好きな科目だけ聞いて、ノートも取っている
エ  どの授業も聞いていないことの方が多い
オ  どの授業も聞いていないことの方が多い
カ  気が向いたときだけ聞いている
キ  授業中教室にいないこともある
ク  ほとんど寝ている

 授業態度の様子はほとんど予想したとおりの結果となっていますが、非課題集中校グループに比べて、課題集中校グループに「だいたいどの授業も聞いてノートも取っている」「ノートは取っている」の比率が高いのは、授業を何とか成立させるために「ノート提出」を生徒に課している教員が多いためではないでしょうか。「授業中教室にいないこともある」「ほとんど寝ている」生徒の数を少ないとみるか多いとみるかは意見の分かれるところです。


■学校での楽しみは休み時間の友だちとの語らい

 毎日の「授業」を耐えてやり過ごしている生徒の唯一とも思える息抜きは、休み時間の友だち同士の語らいということになります。【5−6】「学校でどんなときが一番楽しいですか」という設問の回答はほとんどはそれに当てられています。「授業」に関する回答を寄せた生徒は、中学時代と同様2人だけにとどまっています(「体育の授業」「物理の授業」)。一番お気に入りの場所は、「教室」が圧倒的多数で、「トイレ」や「廊下」がこれに続いています。神奈川の県立高校の貧弱な施設的状況を考えると、肯かざるを得ない結果ではありますが、学習するのも、食事をするのも、くつろぐ場所も、居眠りする場所さえ教室の机と椅子しかないという実態は何とかならないものでしょうか。行政には、生活空間としての学校の施設面での整備にこそ力を尽くして欲しいところです。「日の当たる教室の自分の机の周りに集まって、とりとめもない雑談をしている瞬間」が生徒にとって最も至福の時ということになるのでしょうが、なにやら少し寂しく悲しい気がしないでもありません。
 生徒たちは、学習に必要な最低限度の設備しかない環境で、1日の大半を過ごしているわけですから、居心地がいいわけはありません。その学校も、決して美化が徹底されているわけではありません。【5−7】「学校や先生についてどんな点が不満ですか」という問いには、半数近くの生徒が「特にない」と回答していますが、この数値をどう読むべきでしょうか。生徒がほとんど学校に関心を払っていない結果だと読むべきか、神奈川の県立高校が施設的には貧弱ながらも、大きなプレッシャーを感じることなく生活できる居心地のよいと場所だとみるべきなのか難しいところです。
 不満な点としてあげられている項目で気になる点をいくつか列挙すると、「学校が汚い」「朝早い」「自由すぎる」「先生弱い」などがあって、学校の美化が徹底されていないのは、非課題集中校も課題集中校も大差ない感じがします。「自由すぎる」「先生弱い」は課題集中校グループにのみある不満で、生徒指導的に抑えの効かない学校や教室の状況を反映しているのではないでしょうか。また、教師の態度や授業に関する不満は非課題集中校グループに多くなっています。