高校生の「アルバイト」を単位認定できるか
自校の学習以外での単位認定をめぐる制度

中野渡 強志  

 
 

 2003年から本格実施される高校の学習指導要領が3月に告示された。それによると卒業に必要な修得総単位数は80単位以上から74単位以上(総則第2款1)になり、必修教科科目の単位数も、最低38単位から31単位(総則第3款1)に縮減された。合わせて学校外での「就業体験」による単位認定が強調され、生徒が卒業まで自校での学習時間帯が大幅に少なくなることも制度的に可能になった。
 「職業教育に関して配慮すべき事項」(総則第6款4)として「(3)学校においては、地域や学校の実態、生徒の特性、進路等を考慮し、就業体験の機会の確保について配慮するものとする。」と強い調子で表現しているとともに「職業に関する各教科・科目については、就業体験をもって実習に変えることができる」)総則第6款4の4のア)としている。
 さらに、新しく創設された「総合的な学習の時間」(卒業までに105〜210単位時間を標準)は「自然体験やボランティア活動、就業体験などの社会体験…」を積極的に取り入れる(総則第4款5の1)としている。
 「学校設定教科に関する科目」としてどの学校でも設けられることになった「産業社会と人間」でも「就業体験等の体験的な学習や調査・研究などをとおして」指導するとしている。(総則第2款4の2)
 このように「就業体験」による単位取得が、改定学習指導要領の特徴のひとつになっている。
 この「就業体験」に対する文部省や県教委の意欲は従来になく熱心なものである。
 文部省調査官が「インターンシップ」制度の関わりで高校生のアルバイトを奨励するような発言をしている。(注1)県教いは1999年1月4日、インターンシップの取り組みについて各学校に通知した。(注2)
 それは文部省からの通知(1998年12月16日)を紹介したものであり、内容は理科教育及び産業教育審議会か答申(1997年7月23日)に基づき取り組みの強化を図るものである。
 さらに、県教委は今年度より教科・科目として「就業体験活動」等を教育課程の中に位置付けることができるよう各学校に通知している。この通知によって「就業体験」をはじめ学校外での学習によって単位取得ができる道が大幅に拡大されることになった。
 それは、昨年(1998年)4月1日より施行された「学校教育法施行規則の一部を改正する省令(注3)」によってボランティアなどが単位認定されることによるものだ。
 この省令改正によって拡大された単位認定対象は次のとおりである。

  1. 大学または高等専門学校における科目等履修姓、研究生または聴講生としての学修。

  2. 専修学校の専門課程における科目等履修生または聴講生としての学修。

  3. 大学において開設する公開講座における学修、公民館その他社会教育施設において開設する講座にける学修その他これに類する学修で、高校教育に相当する水準を有すると校長が認めたもの。

  4. ボランティア活動、就業体験その他これに類する活動に関わる学修。

  5. スポーツまたは文化に関する分野における活動で顕著な成績をあげたものに関わる学修。

 先に記した県教委の通知によると(注4)、学校外における学修を単位認定する場合は、その他特に必要な教科「学校外活動」に、「その他の科目」として1.「校外講座」、2.「技能審査」、3.「ボランティア活動」、4.「就業体験活動」、5.「スポーツ・文化活動」を教育課程に位置付けるという事である。なお、この制度によって認定できる単位数は、20単位以内(学校間連携及び課程間併修による単位認定数と合計して20単位を超えない)とし(注5)、卒業に必要な単位数に含めることができるとなっている。
 従来は学校以外での学習成果を高校の単位を認定していたのは1961年に「学校教育法等の一部を改正する法律(注6)」等により技能連携による技能教育施設での学修(注7)と76年改定学習指導要領で可能となった大検(大学入試資格検定)合格科目(注8)、さらに実務代替により職業に関する科目の一部を履修したことにする(注9)などいずれも定時制と通信制に限られていた。
 その後93年3月省令改正により 1.他校での学習(学校、課程間併修)(注10)、2.専修学校での学習(注11)、3.技能審査を単位認定できるとし(注12)、全日制にも適用することになった。
 全日制に拡大される道をつけたのは89年改訂学習指導要領に新設された科目「課題研究」であった(注13)と思われる。
 このように、自校以外での学習成果が単位として認めることが拡大され、全日制普通科で20数単位、専門学科では半分程度、定時制専門学科においては(大検での単位認定を大幅に認めた場合ではあるが)、殆どの単位が自校以外で取得し卒業できることが制度的に可能になった。
 これらと主旨は別であるが、海外留学によって30単位まで単位を取得することができる制度がある(注14)

(注1)〜(注14)
 

 おわりに

 自校の学習以外での単位認定が従来に比べて大幅に拡大してきたことを資料を添付しながら整理してみた。タイトルのような「アルバイト」を単位認定する学校が、にわかに出現するとは思われないが、「就業体験」をどの範囲まで認めるかを検討するとき「アルバイト」をどうするかは避けて通れない課題になると思われる。
 自校の学習以外での単位認定についての個々の制度についての評価は、今回は紙面の都合で述べられないが、技能連携について神奈川ではかつて職業訓練所および企業(現場実習)と連携した技能高校があったことに触れておきたい。
 1963年度胃腔設立された7校(横浜・川崎・平塚・大船・相模原・秦野・追浜)の技術高校はわが国最初の本格的な連携方式を取る学校として全国的に注目されたが、多くの制度的な矛盾などを抱え1976年3月に廃校になりわずか13年で消滅したことを教訓として捉えておく必要があると思われる。
 一方、今の学校のあり方で良いのかといった意見もある。
 学校のあり方とその学校を卒業するまでに必要な単位をどのような手段で取得するかは大きな関連がある。多くの全日・定時制高校では卒業まで必要な単位を、生徒が学校で授業を受けその担当教員の試験で一定の点数をとることによって取得するといったことが大勢である。
 そうした学校の仕組みになじめなく退学し通信制高校に編入した生徒のアンケート(『教育白書98』「自分をのばせる自由な学校をめざして」1998.9.30)のなかで、生徒が求める学校として「今は机だけの勉強を教える場になっている。人間のぶつかりあえるところが少ない。規制して枠にはめるのではなく、自主性が必要、個性を大事にできる学校」といった違憲があった。また「学校とは何を学ぶために行くのか。本当に学校は必要なのか。それに代わるものはないのか。学校があって当たり前という考え方を問いたい」といった学校の存在そのものを問う意見もあった。
 さらに『ねざす』No.22(1998年10月)は、特集「『柔らかなシステム』としての高校教育の想像」として“やり直しができる学校システム”を提起している。その中で、7単位を落として進級できる基準があっても学習意欲を失い、進級できない生徒が退学していくという実態が、報告されている。そうした生徒や何らかの事情で退学した生徒が、社会に出て様々な経験の中でどうしても高校の資格だけを取っておきたいといった場合、もう一度トライできる学校としてまず定時制高校があることが述べられている。
 私の勤務している相模台工業高校にも、一年間に何人かそういった生徒が編入してくる。
 できるだけ受け入れようとして普通高校からの編入に対しても、工業科目に読み替えてはいるがそれも限度があり学年が進むと困難な面が出てくる。
 全日制公立高校で毎年3000人を越える退学者がいることを考えると「やり直しができる学校システム」として更なる改革が必要とされている。
 相模台工業高校としては当面、自校以外学習としての「大検」と「資格取得」を卒業に必要な単位として認めるとともに、以前の学校で取得した単位をできるだけ認めるために単位制を導入することに下。このことが、学校に来てればといった受動的な学習から自ら選んで学ぶといった能動的・主体的な学習のきっかけになればといった期待も込められている。
 学校そのものを問う生徒や学習意欲を失っている生徒を前にして、高校改革は待ったなしで迫られている。
 安易な「自校以外の学習」の導入は、かつてと同じ誤りを繰り返すことにもなるが、自校以外で主体的に学んだ学習が生かせる制度として考えられる面もあるのではないだろうか。

(なかのわたり つよし 県立相模台工業高校教諭、教育研究所所員)

<<<ねざす目次
<<<24号目次>>>

次へ>>>