これから進められようとしている「学校づくり」は、たとえば大師高校が、普通科から総合学科に変わったときのような、単独校の「学校づくり」とは、根本的にことなっている。それでは、どんな「学校づくり」になるのか。
かつて、百校計画が進展している時期、新設校の開設にあたっては準備室がつくられ、新設校要員として少数の職員が配置された。そして、新入生つまり第一期生を迎えるときには、カリキュラムも、教務上の規定も、生徒指導上の規則も、細部は別としても概要はすでにできあがっていた。そして、転勤、新採用の教職員が補充されていく、というかたちになっていた。何もないところからつくる新設校の場合は、こうしたかたちをとらざるを得なかったかもしれない。
今回の「改革計画」のもとでの「学校づくり」は、百校計画のときの新設校とも、大きく違った条件をもっている。それは、「統合」「再編」の対象となる学校が現に存在し、そこには経験を積んだ教職員集団が存在しているということである。この教職員の知恵を集め、過去の経験を踏まえて学校がつくられていくならば、生徒の現実に対応できる新しい学校をつくる道が開けてくるだろう。だが、残念ながら、「改革計画」の作成者は、この道を進もうとはしていないようである。
発表された「改革計画」の中には、「新しいタイプの高校等の設置」計画が、次のようなかたちで示されていた。
新しいタイプの高校等の種類 |
前期計画 |
後期計画 |
普通科高校 |
単位制による普通科高校 |
4校 |
4校程度 |
フレキシブルスクール |
3校 |
|
専門コース設置校 |
3校 |
3校程度 |
総合学科高校 |
6校 |
8校程度 |
専門高校 |
総合技術分野の高校 |
2校 |
|
総合産業分野の高校 |
1校 |
|
国際分野の高校 |
− |
1校程度 |
福祉に関する学科 |
1校 |
|
その他学科 |
− |
3校程度 |
中高一貫教育校 |
|
2校程度 |
一見したところでは、なかなか立派な計画である。もし、各高校現場の工夫と努力の積み重ねの結果、この計画にたどり着いたのであれば、それなりに生徒の実態にあった現実的な計画になる可能性もあるかもしれない。だが、この計画に、現場の声はまったく反映されさていない。県全体にこれぐらいの数があれば、という「適正配置」を根拠にして、タイプ別に学校数を並べてできた机上のプランにすぎない。だが、その「適正配置」の根拠はない。そもそも、このような学校のタイプに応じて、子どもたちが分化しているわけでもない。また、どんなに多彩なタイプの学校を並べようとも、子どもたちが選択し、入学できる学校は、たったひとつである。そして、いま「選択」という言葉をつかったが、定員制を基本とするいまの学校システムのもとでは、どんな選抜方法をとろうとも、子どもたちは「入学できる」学校を「選択」することしかできないのである。結局のところ、この「設置計画」は各学校のタイプに合わせて、子どもたちが類型化される結果に終わってしまうだろう。
さらに、ご丁寧にも「改革計画」には、「再編による新しいタイプの高校等の概要」という、各学校ごとに書かれた文書が付け加えられていた。「再編」されるある学校の「概要」を、校名等を伏せて参考までにあげておく。
学区名
再編対象校名
再編後の形態(総合学科高校) |
1.新校の概要(予定)
(1) 設置場所 移転先校名と住所
(2) 設置年度 新校開校予定年度
(3) 課程・学科 単位制による全日制の課程 総合学科
(4) 学校規模 720名 18学級(1学年6学級規模)
(5) 通学区域 県内全域
(6) 再編スケジュール 学級減の開始年度、新校開校年度
2.設置の趣旨
(1) 改編のねらい(「統合」対象校の特色等を並べる)
(2) 想定される生徒像(後述参照)
3.教育課程の展開
(1) 基本方針
○高校在籍3年以上、必履修科目を履修し、74単位以上を修得することで卒業
○必履修科目・原則履修科目・総合選択科目・自由選択科目で構成
・必履修科目 新学習指導要領に示されている必履修科目
・原則履修科目 産業社会と人間 課題研究(総合的学習の時間)
・総合選択科目 環境科学系列 情報ビジネス系列
社会福祉系列
国際文化系列 造形文化系列
・自由選択科目 生徒の特性に応じた科目、教養的科目・発展的科目など
○教育課程の弾力化の推進
・2学期制による学期ごとの分割履修と修得単位の認定
・集中講義、体験活動による単位認定等を実施など
(2) 進路指導・生活指導
○ガイダンス、カウンセリングの充実
○異年齢集団によるホームルーム活動など特別活動の工夫
○チューター制による生活指導など個別指導の充実
4.主な施設設備(予定) <改修により対応予定※>
ホームベース(ロッカースペース)
ガイダンスルーム、カウンセリングルーム
共用学習室、選択科目学習室…記念コーナー
※今回6校が建て替え予定になっている。 6校以外は改修で対応することになる。 |
この「概要」は、再編対象となる各学校ごとにつくられている。しかし、項目ごとの内容は、ほとんどパターン化されており、同じタイプの学校であれば、言葉すら同じになっている。たとえば、「想定される生徒像」という項目があるが、総合学科であれば、「幅広い普通科目や専門科目から主体的に科目を選択し、自己の特性や適性を見いだす学習や将来の進路を展望した学習をしたいと考える生徒」という表現に統一されている。また、4校ある単位制普通科の場合は、2校が「複数の分野を総合的に学びたい生徒や主体的な選択により、進路希望や適性に応じた科目を重点的に学びたい生徒」、他の2校は「(郷土、環境、芸術など具体的分野名をあげた上で)などの分野を重点的に学びたい生徒や主体的選択により、適性や進路希望に応じた科目を学びたい生徒」という二つのパターンになっている。実は、前の2校はそれぞれの学区のトップ校と見られている学校であり、後の2校はむしろ反対の位置に見られているような学校である。いわゆる「学校間格差」を念頭において、微妙に表現を分けたのだろうか。
また、この「概要」は「系列」「選択科目」にまで言及している。その内容は、パターン化されている一方で、学校ごとに微妙に「特色」を持たせるかたちにもなっている。たとえば、総合学科を予定している学校を比較すると、ある学校の「系列」は、「環境科学・情報ビジネス・社会福祉・造形文化・国際文化」とされ、別の学校の「系列」は、「自然環境・社会科学・情報科学・生涯スポーツ・生活福祉・国際文化」とされている。いったい何を根拠に、こうした「系列」をつくったのだろう。
この「概要」を該当校の教職員が知ったのは、具体的な学校名が発表されてからであった。こんな「概要」がつくられていることさえ、現場は知らなかった。教育課程の中身、生徒指導・進路指導の方針にまで踏み込みながら、現場の声を聞くこともなく、外にいて得られる情報だけで、パターン化された言葉を並べたてて、この「概要」はつくられた。そして、「改革計画」の中には、わざわざ「学校運営等の改善」という項が設けられ、校長のリーダーシップが強調されていた(「改革計画」P.48)。とすると、この計画の作成者は、こう考えているのだろうか。どんな学校をつくるかは、あらかじめ決め、各学校ごとに「概要」を作っておく。そして、校長は、リーダーシップを発揮し、その「概要」から逸脱することなく「学校づくり」を実行する。だが、こんな道をたどってできる学校の行き着く先はどこだろう。現実からかけ離れた学校、計画作成者の夢の残骸、残るのはこれだけではないだろうか。