特集 : シンポジウム「高校生は今!」
 
 生徒に合わせる学校システム

河村:感想ということになるかと思うんですけれども、中学校側として送り出す立場では、目標として希望者全入を見据える中で、理想に近づくために、何かいろいろ細かい課題が出てくることは否めないと思うんです。しかし、今出てきている課題は、そこに向かっているとは現時点ではちょっと思えない状況にあります。何か先の見えるような道筋が示された中で見えてくる課題であれば…ということです。 それから中学校現場は非常に忙しくて、いろいろ課題意識を持っている方は多いんですけれども、向き合う余裕がない。実際にはもう既に進路の準備が始まっています。そういう中で生徒そのものへの問題点とかを考える余裕もなく動いているような実態もあります。新しい制度が3年目を迎えて課題をかかえながらも、何となく慣れてきてしまっている。そんな雰囲気も感じています。ですから、高校だけではなくて、中学校側からも課題を指摘していく声を上げていかないといけないんだということを改めて感じています。

石田:一つは、アンケート調査については是非慎重にして頂きたいと思います。例えば先程お話したように、新入生と面接をして、「君が本校を受けたのは自分で決めたのか」という質問をします。そうすると、大抵の子が「自分で決めました」と言うんです。「あっ、そう。どうしてこの学校がいいの」というふうに次の段階にいくと、中学校の先生が、「おまえの行けるところはこの学校と、この学校と、この学校と三つある。自分で選べ」で自分で決めた。こうなってくるんです。すべてこれで来たとは思いませんよ。思いませんが、そういう子が次から次へと出てくるんです。4月に入ってきた子どもたちに面接をすると、そういう話がポンポン出てくる。1遍のアンケートでは真実は見えないと思います。 さらにそのアンケートですら、読み方で大分違ってきます。同じアンケートを市民団体が分析をしますと、県教委とは大分違います。それと、見る視点が違うと変わってくるだろうということもつけ加えて、ぜひ慎重にお願いしたいと思います。
 あと、多くの先生方が私と同様のことを言われているので繰り返しませんが、特色をそれぞれの学校がつくって、生徒を振り分けるというのは、学校に生徒を合わせているんですね。そうではないのだろう。やはり学校側が、来た生徒に合わせるようなシステムをどうつくっていくのかということの方が大事じゃないか。選抜から選択へと言いながら、今日の話は選抜、選抜のことばかり出ていましたね。選抜色一色なんじゃないでしょうか。冒頭で言いましたように、入試というものもなくすことができるように、やはりそっちの方に向かっていかなければならないでしょう。
 仮にたくさんの学校がそれぞればらばらの特色をつくって、そこに生徒が行くというのであれば、なおさらのこと入試で競争をさせることをやめない限り、その趣旨は生かされないだろうと私は思います。(拍手)
 

 このシンポをスタートラインに

黒沢:どうもありがとうございました。今日は皆さんから活発なご意見がたくさん出されまして、本当にありがとうございました。最初に申しましたように、今日のシンポはほんのスタートラインと考えますので、言い残した問題があろうかと思いますけれども、それは今後への楽しみに致しましょう。
 小学校の先生から保護者の方、中学校、高校、それから大学の先生に至るまで発言者は多岐にわたりました。また、幸いにも塾の方から、大変ユニークなご質問等をいただきました。
 私が最初に申しましたように、格差というものが現存していて、これを何とか是正しなければならないのだということでは、共通の理解があったと思います。14期の中教審以来いろんな答申が出ていて、それに沿う形で県も“軟着陸”を図ったのが、今回の入試選抜の実施だったと思います。この具体的成否については意見が当然ながら分かれまして、100%でなくてもそういう方向に今後も向かっていくという意見と、そうではなくて、非常に大きな問題を残しているんじゃないだろうかという反対意見です。これはそれぞれの立場の違いでやむを得ないと思います。今後ともこの点は現実に基づいて立証しながら、様々な立場の人々の見解を頂きたいと思っています。
 なお、私学の問題も出ましたし、それから障害者の問題についての意見も出ました。けれども、詳しく論ずることができませんでした。また、「内申」の問題についてはもう少し深く考える必要があると思いますし、中退者の問題をどうするか、小・中学校では不登校の問題です。それから単位制高校や総合学科のことについても意見としては出たんですけれども、煮詰まりませんでした。
 またリターンマッチというんでしょうか。一端選択した後に、また違うところを再選択できるのかどうかということも望まれながら、ご意見としては出たんですけれども、討議に至りませんでした。
 私としては、本当はまだこれから40分ぐらいしゃべりたいんですけれども、(笑)、もう時間がございませんし、皆さんを制止してばかりいましたので、今度は、自分を制止しなくてはなりません。いろいろな問題が残りましたけれども、行政の方と現場の人が認識と意見の食い違いはありながらも、同じ土俵に登って議論を始めたというところに、今回のシンポの意義を認めてよろしいのではないでしょうか。
 今後もこのような議論を何回も繰り返してやりながら、行政に現場が協力して先程から繰り返しています。「格差の是正」が少しでも進めば、21世紀の神奈川の高校に期待が持てます。そういう方向へ私どもとしては力を尽くすべきじゃないでしょうか。
 コーディネーターの務めがうまく果たせませんでした。いろいろご不満の点があったかと思いますが、時間が来てしまいました。
 またいずれ何らかの機会に、今日の総括を新聞紙上などに公表して、改めて皆さんにお知らせすることができればと思っています。
 以上でございます。シンポジストの皆さん、会場の皆さん、ご協力本当にありがとうございました。(拍手)

中野:黒沢先生を初め4人のシンポジストの皆さん、どうもありがとうございました。もう一度拍手をお願いします。(拍手)
 今日の議論を聞きつつ、いつも頭の中にあるのは、神奈川県の財政状況は非常に厳しいということです。語られた中身は非常に壮大ですけれども、厳しい状況の中で、この時代を乗り越えていくために、私は教育行政がリーダーシップをとって、新しい何かをぜひ示してほしいなという気持ちでいっぱいでございます。もちろん現場にいる私たちも頑張らなければいけませんけれども、まずはそういうところから1歩も、2歩も踏み出して頂ければという意味で、教育行政のお二方には是非エールを贈りたいと思います。頑張ってください。
 それでは、横浜市の教育文化研究所所長の小畑さんに、閉会の辞をお願いいたします。

小畑:ただいまご紹介をいただきました、横浜市の教育文化研究所所長の小畑です。 
 今日は、レジュメにありますように二つの団体の主催ということで、横浜でやるから、横浜市の教文研も共催しろというお話でございました。私どもは横浜市内に小・中、それから養護学校の皆さん、大体1万数千の方々を対象にしていろいろな行事等を行っているわけです。その分野の中で、教育相談の分野に最近高校中退の問題を保護者の方々がたくさん持って来られます。これは高等学校の方でもおやりになっているでしょうけれども、何でこんなに来るんだろうと思っていたんですが、先程から議論されていますような結果でこういう問題も出てくるわけです。
 そんなことで、きょうはどんなお話になるのかなと思って、ここに座ってメモを使って全部書いていました。私が十分熟知しないこともお話になっていらっしゃいましたが、参考になるだろうと考え、私ども機関誌にも載せたいと思って書いていました。結論的に言って、メモを書いていて、そう簡単にいくような問題は一つもないんですね。今、神奈川県の高等学校の教育がこの方向でいけばうまくいく、進路指導もうまくいく、現実に課題集中校などをつくったのは高等学校の責任ではなくて、これは考えたら、中学校側の進路指導に責任があるわけでしょう。そういうふうに過去何十年間もやってきたのです。私もその1人ですけれども、「あそこに行けばいい」とだんだん輪切りにしていっちゃう。だから、高校側の責任だと思っているようだけれども、私は中学校も責任をとるべきだと正直思いました。
 これは稲垣さんと先ほど話していたのですけれども、こうなったらみんなガラガラポンで入れたらどうだろうか。(笑)本当ですよ。こんなに学校か余って生徒も減ってきてしまって、そしたらガラガラポンでやっちゃうのはどうか。もっと言えば、小学区制にして、その地域の学校に行くというふうにしたらどうか。昔そんな話をしたこともあるんですけれども、そうしてしまえば格差是正になります。中には、怒ってくる保護者もあるでしょう。大きなところはパラレルにしなきゃいけない。それは何でもやれということではなくて、本当のことを言うとそうなるということです。こんな考え方も将来成り立つかもしれませんね。今後5年か10年の間に。そんな話をしてメモをとっていました。
 何はともあれ地元横浜でご開催を頂き、又本当にたくさんの方々にご来場いただき、ありがとうございました。開催地として厚く御礼を申し上げたいと思います。
 私は、2週間程前に横浜市美術館の所用で出かけていたアメリカから帰って参りましたが、そのときに通訳をやってくれた男性がこういうことを言ったんです。これは参考になると思うんですが、日本では「夢」という言葉はどう解釈しているのかと聞くんです。金田一さんの字引を引いて、意味は現実の生活において起こり得ない睡眠中の意思の伝達だ」(笑)、調べてこういうふうに書いて出した相手がマイケル・ジョーダンというバスケットのスーパースターですよ。年俸41億。彼がその通訳に「日本じゃどんな考え方をしているの」と。「眠った後だ」「とんでもない。夢というのは実現するんだ。こういうふうに書き直すべきだ」こう言われて私に話したので、私もびっくりして、やっぱりドリームというのは必ず実現するんだということを知りました。今ちょうど私達がそういうドリーム、夢を追おうとしているときだから、必ず実現するんだという気持ちで取り組みたいと思います。このマイケル・ジョーダンの話を最後にしまして、きょうの閉会の言葉といたします。
 どうもありがとうございました。(拍手)

(まとめ・綿引光友、ただしこのまとめは、県教文研がまとめたものに若干の削除修正を行った)

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