特集 : シンポジウム「入試が変わった!高校はどう変わる?」
 

第12回 教文研教育シンポジウム
第7回 教育研究所シンポジウム

入試が変わった! 高校はどう変わる?

1998年11月7日(土)於:神奈川労働プラザ3F 多目的ホール

 


◆シンポジスト
  河村佳行さん(平塚市立大住中学校教諭)
  石田和夫さん(県立平塚工業高校教諭)
  奥山久さん(県教育庁管理部総務室室長代理)
  鈴木彰さん(県教育庁指導部高校教育課主幹)
  
◆コーディネーター
  黒沢惟昭さん(東京学芸大学教授)

 

 このシンポジウムは、私たち教育研究所と県教育文化研究所(県教文研)と共催により開かれました。従来も共催という形をとってシンポジウムを開催してきましたが、今回は準備段階から何回も打ち合わせをもち、名実ともに共催となり、実現に至りました。両研究所はわずか100メートル足らずしか離れておりませんが、まさにパートナーシップを発揮し、一つの催し物を作り上げるという経験は初めてでした。この経験をこれからの教育改革運動に生かせればと思います。
 また、今回のシンポジウムで特筆されるべきは、教育行政にかかわるお二人がシンポジストに加わり、胸襟を開いて議論をしたことです。新入試制度の検証と高校改革の検証という、大きな課題をテーマに掲げたせいか、会場発言を交えた討論は十分深められたとは言いきれません。しかしながら、今回のシンポジウムで出された課題を整理し、さらに議論を積み重ねていけば、きっと明るい見とおしが切り拓かれていくのではないかと思います。コーディネーターの黒沢さんが最後にまとめられたように、今回のシンポジウムをスタートラインとして、夢の実現に向けて職場・地域から教育論議を盛り上げていきましょう。(参加者270名)

中野(司会):皆さん、こんにちは。今日はたくさんお集まりいただきまして、ありがとうございます。これより、第12回教文研教育シンポジウム、第7回教育研究所シンポジウム、「入試が変わった! 高校はどう変わる?」というタイトルで開催したいと思います。
 今回初めて小・中の研究所であります教文研と、高校の研究所であります教育会館・教育研究所がタイアップして主催ということになりました。従いまして会場には、小・中・高の先生方がおそろいになっていると思いますので活発な意見交流を期待しております。
 それでは次第に沿いまして、主催者あいさつということで、神奈川県教育文化研究所所長稲垣卯太郎さん、それから神奈川県高等学校教育会館・教育研究所代表杉山宏さん、このお二人からいただきたいと思いますので、よろしくお願いします。

稲垣:こんにちは。県の教文研の所長をしております稲垣です。
 きょうは、私たちの主催致しますシンポジウムに、お寒い中をお集まりいただきまして、ありがとうございます。
 私の所属する教育文化研究所と、高等学校教育会館・教育研究所とは、すぐそばに住んでおるんですけれども、シンポジウムを共同で開催することは今回が初めてであります。そこで共通の話題ということで、神奈川の後期中等教育を取り上げることになりました。
 たまたま高等学校の入学者選抜制度が新しい制度になってから3年目を迎えますし、少子時代を迎えて、県立高校の将来構想をどうするかということが、県立高校将来構想検討協議会から最終答申が出された時期でございます。したがって、入試と将来構想を話題としてシンポジウムをやりたい。それにはやはり行政からも参加してほしいということで、県教育委員会にお願いしたところ、快くシンポジストとしてご参加をいただました。中学側、高校側、そして行政、三者がそろってシンポジウムができることは画期的なことでありますし、教育の先進県と言われる神奈川ならではと考えているところであります。
 コーディネーターの黒沢さん、シンポジストの皆さん、そして会場の皆さんのご協力によりまして、このシンポジウムが成功することを心から祈念いたしまして、簡単ですけれども、あいさつといたします。よろしくお願いいたします。(拍手)

杉山:私は、高等学校教育会館教育研究所の杉山でございます。
 今日の話題になっております高校入試の問題、あるいは高校教育の問題、こういうような問題は、一つ一つ取り上げて静止した状態でじっくり観察したり、考えたりという形の行き方も当然行わなければいけないことだと思いますが、私どもがつくり上げている社会の事象というのは、同じ次元で広がりがあったり、あるいは時の連続の中で生まれてくる。あるいはさらに成長していく。そういうことがございますので、流れの中でものを見るという形もあわせて一つやっていただければと思っております。今日の話し合いもそういうような形でいっていただければありがたいなと考えているところです。
 私どもの研究所も、本日のこのシンポジウムを行うということがわかりましてから、お尋ねの電話をいただきました。きょうのシンポジウムに対するお尋ねとあわせて、「おたくの教育研究所はどういうことをやっているんですか」と、そういう質問もございました。そういうやりとりの中で、「なぜ教育研究所なんていう名前にしているんですか」ということが、ちらっとお話の中に出てまいりました。もっとも、そのことについてお話し合いをする前に話が別の方にいってしまって、電話が切れてしまいましたので、その件はそれで終わってしまったんですが、どうも受けた感じですと、教育研究所なんていかめしい名前に何でしているんですかと、そういう意味のように受け取れました。
 しかし、私どもは日ごろ教育研究所、教育研究所と言っているものですから、改めて何で教育研究所と言うんですかと言われたときに、一瞬「えっ!?」という感じが致しました。人間、物の考え方はできるだけ客観的に考えようと思っても、やっぱり自分の立っている基盤があるので、おのずから考え方というのはどうしても幅が狭くなってしまうことが多いと思います。ある人にとって当り前のことが、他の人にとって不思議なことも多いと思います。せっかくのこういう機会ですので、いろいろな立場の方から、いろいろなご発言をいただければと願っております。よろしくお願いいたします。(拍手)

中野:ありがとうございました。この後のかじ取りはコーディネーターの黒沢先生にすべてお任せしますので、会場の方の意見も取り入れながら、すばらしいシンポジウムをお願いいたします。
 それでは、よろしくお願いします。

 

 本県入試改革の検証を

黒沢:紹介いただきました黒沢でございます。どうぞよろしくお願いいたします。
 主催者側のごあいさつにもありましたように、高校の先生と、義務教育の先生が一緒になり、また行政側の方々と現場の先生方が一緒になって討議を行うことは、考えてみるとちょっと不思議なんですけれども、これまでなかったようで、今日はそのスタートラインということで、私は大変期待をしています。教育研究者として又県民として非常にうれしく思っている次第です。
 ただし、コーディネーターという大変重要な任を私が果たせるか不安も大きいのですが、シンポジストの皆さんを初め、会場の皆さんのご協力によりまして、きれいにまとまらなくても、これからの改革の一つのステップになれば、大変うれしいと考えています。そして、参加された皆さんも最低一つぐらいは参加してよかったなという思いを持ってお帰りいただければ、私としては大変うれしいなと思います。
 そのように考えていますので、余り細かい点について問い質すというふうにならないで、できれば現在の高校入試の仕組みが、問題点も含めてよりよくわかるような、そういうことを今回の目的としております。さらにできればその点にとどまらないで、今後の高校のあり方を一般論ではなく、やや具体的にお話が進めばありがたいと思います。その期待がどこまでうまくかなうかどうかは、私の力と、皆さんのご協力に待つしかないわけでございます。
 まずは、タイムスケジュールを、予め簡単にお話致します。
 最初にきょうの問題点について私の考えを述べさせていただきます。その後、シンポジストの4人の方から時間が少なくて恐縮ですが、10分程度でそれぞれの立場からのご意見をいただくことにします。それから従来のシンポジウムですと、そこですぐ会場の方からご意見を頂くということになるのですが、今回の事前の取り決めでは、コーディネーターの私の方から若干の質問をさせていただいて、その後にそれを組み込む形で、10分では話せなかった内容を敷衍したり、補足して頂きたいと思います。それで前半部分は一応終わりに致します。
 予定としては大体3時40分ごろから、会場の皆さんの方からご意見をいただいて、うまくまとまるかどうかはわかりませんけれども、お出しいただいたご意見を、私の方でアレンジして質疑応答を続けるという形で進めていきたいと思います。
 最後にコーディネーターとして私がまとめることになりますが、まとめることができるか大変不安です。そこで感想程度になるかもしれませんけれども、次回へ続いていくという意味で、何とかまとめたいと思います。この会場の関係で、閉会の言葉を含めて4時45分には終わりたい、いやどうしても終わらなければいけないという約束になっております。皆さん、恐らく興奮されていろいろしゃべりたい方が、興奮されなくても、しゃべりたい方が(笑)いっぱいいらっしゃるかと思うんですが、ぜひ時間の制約の点のご配慮をお願いしたいと思います。
 それでは本日のテーマ・論点について私の考えを申し上げます。
 顧みますと、戦後しばらくの間、私どもが育った青少年時代は日本全体が貧しくて、いわゆる「配給品」だけで満足していた時代でした。しかし、日本が高度成長を遂げて以来、非常に豊かになりました。そのため、配給品だけではなかなか満足できない人々が多くなった。つまり、個性化とか、もう少し広く言えば「自由化」でしょうか、そういう流れが出てきました。そうした風潮のなかで、学校の個性化とか特色づくりとか、そういうことが高校についてもいわれるようになりました。入口である入学試験、選抜についても多様化、個性化、特色化が出てきたと思います。
 そして、私どもの貧しい時代の「平等」ではなくて、平等ももちろん尊重するんですけれども、いわゆる形式的な平等、みんなが全く同じという画一という「平等」ではなくて、多様化によって実質的な平等を図っていこうという流れが、高校問題、入学試験でも出てきているのだろうと思います。私は、そういう考え方自体は基本的には賛成ですけれども、しかし、現実の学校現場の中で果していわれる通りになっているのだろうかということも問われなくてはならないと、私は考えざるをえません。恐らく臨教審以来、そうした多様化の流れが加速度的に出てきていると思います。
 ところで、その後に14期中教審が答申を出します。この中教審は高校問題を集中的に扱います。その中で、日本の高校問題の一つが学校間格差にあるということを指摘しました。この指摘は私の考えていることと一致しまして、大変興味を持って何回もその答申を読んだことを想い出します。
 その格差の是正については、従来は、学区を縮小するとか、総合選抜の実施によって格差を是正していこうとしてきました。これは格差是正にかなり効果があったと思いますけれども、しかし14期中教審は、格差の是正ということは提言したけれども、具体的な方法としては学区の縮小とか総合選抜は全く触れなくて、むしろそういう方法には否定的だったと思います。そうではなくて、多様化をどんどん進めていくことを提言しました。つまり、生徒が多様化し、保護者の価値判断も多様化していくことに対応して学校の内容も、入学試験の方も多様化していけば、それぞれの多様的な選択によって学力(偏差値)による一元的格差というものは次第になくなっていくだろう−こういう処方せんだったと思います。
 そういう流れの中で、本県の入試選抜も、改革としては全国的に見れば、かなりおくれて実施されたのですが、総合的選考とか複数志願制が実際に行われたのです。
 その総合的選考が、私が先ほど申しました特色づくりとか、個性化という流れの中で出てきた具体的な選抜の方法なんです。以上に述べましたこの方法の理念と、現実は果してどうなっているのだろうかということが今日の一つの論点だと思います。
 もう一つは、皆さんもご承知のように、第1希望と第2希望、いわゆる複数志願制度ですね。これについても現実は理念どおりになっているのかどうかを検証したいと思います。先程言いました総合的選考と併せますと二つでございますけれども、一応この二つに的をしぼって高校の立場、中学の立場、そして行政の立場からの主張をかみ合わせながら論議を進めていきたい、こんなふうに考えておりますので、よろしくお願い致します。
 それでは、以上のような背景を考え、二つの論点に絞りながら各シンポジストから順にご意見を承って参りたいと思います。

 

 入試制度改革の流れ

鈴木彰:改めまして、高校教育課の鈴木でございます。よろしくお願い致します。 
 私、今日3点ほどお話をさせていただきたいと、こう考えております。まず第1点でございますけれども、入試制度の改革の流れということでお話をさせていただきまして、第2点でございますが、入試制度の概要、第3点目といたしましては、2回実施されました新制度の検討につきまして、アンケートをもとにして若干お話をさせて頂くということでございます。
 まず第1でございますが、入学者選抜制度、入試の制度の改革の流れでございますけれども、これにつきましては、平成3年10月に設置されました神奈川県高等学校教育課題研究協議会という非常に長い名称でございますけれども、略して高課研と言っております。まずこれからお話をさせていただかなければいけないかと、こう思っております。
 報告の出されたのが、平成5年の12月でございまして、報告の概要につきましては、大きく分けまして2点ございます。まず第1点は、選抜資料の見直し、第2点につきましては、多様で弾力的な選抜方法です。これが報告の骨子かと考えております。
 まず、第1点目の選抜資料の見直しにつきましては、学習検査、つまり、ア・テストでございますけれども、これにつきましては選抜資料としない、という報告でございます。それから学力検査につきましては、多様で弾力的な扱いができるようにする。それから選抜資料につましては、調査書と学力検査の結果については、両者が均衡がとれるようにするといった報告を受けてございます。
 第2点目でございますけれども、多様で弾力的な選抜方法ということで、ここに受験機会の複数化等ということで報告されてございます。「等」と言いますのは、受験機会の複数化や、受験生の希望により、第2希望を認めるといった志願のあり方について積極的に検討する必要がある、ということでございます。それから、選考の方法につきまして、各高等学校独自の判定方法をあらかじめ公にして実施することが望ましい。
 こういった2点につきまして報告がございました。
 この報告を受けまして、平成6年1月の段階で、教育庁内に教育長を委員長と致しまして、公立高校入学者選抜制度検討会議といったものが設置されました。そして平成6年7月18日に、神奈川県公立高等学校入学者選抜制度改正大綱が制定されたということでございます。
 この制度の制定の趣旨ですけれども、報告書の引用の部分を読まさせていただきます。まず一つてございますが、生徒一人ひとりの個性や能力、適性を多面的にとらえ、調査書の評定や学力検査などのいわゆる数値のみではなく、生徒の特性や、長所に着目した選抜制度とすること。2点目でございます。そのために生徒一人ひとりが自らの進路希望に基づいて学校選択ができるような選抜制度であること。こういう2点が制度制定の趣旨でございます。
 この趣旨を踏まえまして、選抜方法として、志願に当たりましては、第1希望及び第2希望の二つの高校を志願することができる。それから第1希望の募集人員は入学定員の80%、第2希望の募集人員は入学定員の20%、つまり、一つの学校を80と20、こういう枠を設けるということでございます。それから学力検査につきましては、1回ということを定めたわけです。
 それから選考の方法といたしまして、調査書の評定と学力検査の比率につきましては6対4とする。高課研の報告では、均衡がとれるようにということでしたけれども、その比率につきましては、6対4ということで定めてございます。
 第1希望の選考の方法につきましては、調査書の評定及び学力検査の結果に基づき、第1希望の募集人員の70%までを合格者と決定する。つまり、従来の数学のもので合否を決めていくということでございます。それからその後の30%につきましては、調査書の評定、それから学力検査の結果、調査書の評定意外の記載事項を活用して総合的に選考する。こういう制定をしたわけでございます。
 第2希望の選考につきましては、残り20%の合否ですけれども、これにつきましては、第1希望の30%の選考と同じように総合的な選考をするということでございます。
 それに基づきまして、実際入学者選抜の実施要領といったものを定めながらきたわけでございます。
 

 新入試制度の概要と検討

鈴木彰:すべて説明すると大変でこざいますので、定時制・通信制につきましては、従来どおり1校志願ということでございます。全日制につきまして、特に普通科の説明をさせていただきます。
 中学校、それから高等学校の先生方には、この制度はもう十分ご理解をいただいているわけですが、本日は小学校の先生もいらっしゃいますし、保護者の方も参加されているということですので、説明させていただきます。
 一般入試の志願のところから説明をさせていただきますが、第1希望と第2希望の2校を志願します。つまり、この部分は複数志願制と言われるかと思っております。ただし、同じ学校を第1希望、第2希望校とすることができるということでございます。
 学力検査は、先ほど申し上げたとおり、1回でございます。これにつきましては、第1希望校で1回のみの受験ということになります。普通科については5教科、その他の専門学科等につきましては、3〜5の教科数で学校が定めるということで受験することになります。
 選考でございますけれども、普通科の選考方法については、仮に定員を100名という形でお考えになって頂きますと、100名のところを80名と20名という形で定員を分けてございます。そのうちの70%(全体の56%)については、いわゆる6対4の数字だけで選ぶということでございます。残りの部分につきましては総合的選考ということですが、これにつきまして若干説明をさせて頂きたいのは、まず第1希望で、その総合的選考の対象者になるのは、6対4に並べたものを、定員のところで一旦合否の判定をしまして、101名以下の生徒さんについては、その時点で不合格、第2希望の学校へ回される形になります。残った44名から24名を総合的選考によって選び出す。こういう形でございます。
 不合格になった生徒さんにつきましては、第2希望校の方の選考の対象者になります。第2希望校につきまして、志願が非常に多い場合は、学校長の判断で、ある点数で、一部切り、まずその辺で合否の決定をして頂きます。残った部分について総合的選考で選ぶということになります。こういう形の制度でございます。
 最後の第3点目でございます。新制度の検討ということですが、結局は2点に絞られてくると思います。まず第1点目は、総合的選考についての検討、第2点目、複数志願制についての検討、この2点が検討の重要な部分になろうかと思っております。
 まずこの検討に当たりまして、私どもは教育関係者からそれぞれご意見を頂きました。さらに、平成10年度、実際に高校に入学された34校、1,399人の受験生と保護者を対象に、アンケートを取らせて頂きました。本日はそのアンケートをもとに、総合的選考、複数志願制について若干触れさせて頂きたいと思います。それらの結果を見まして、私どもは、総合的選考の理解が得られてきているのではないかという立場に立ってございます。アンケートの項目に、「成績と個性や調査書を含めた選考の組み合わせがよい」という部分がございまして、これにつきましては受験生の50%、保護者の68.5%が賛成をされています。ちなみに昨年も同様のアンケートをしておりまして、その場合、受験生は38.3%、保護者につきましては50.5%ということで、かなりの率で賛意を得ていると言えるかと思っております。
 なお、この部分につきましては、選考方法の明確化というものが一層求められていると思っております。アンケートの中に「個性、長所の評価基準があいまいである」といった受験生、保護者の意見もございます。
 次に、複数志願制でございますけれども、これにつきましても、先ほどと同様に複数志願制の理解が得られてきている、という考え方でございます。アンケートによりますと、受験生で63.7%、保護者の方で64.8%の賛意を頂き、1校志願よりも複数志願制の方がよいということかと思います。ちなみに昨年は受験生の39.6%、保護者の48.2%でございましたので、この部分についてはかなりの賛意が得られていることでございます。
 続きまして、複数志願制については、同一校志願率が上昇しています。ちなみに昨年が77.7%、ことしが83.1%でございましたから、5ポイントほど伸びているということでございます。この辺のところで関係者の意見として、複数志願制が機能しなくなったのではないか、との指摘もございます。こうしたアンケート、それから関係者の意見ということで、現在まとめてさせて頂いているわけですが、私どもでは、この制度が比較的理解されてきているのではないかと思っております。

黒沢:どうもありがとうございました。アンケートに基づいて3点の問題設定のもとに、結論としては、「県民の理解が得られている」というのが行政の立場であるという結論だったと思います。ご質問があろうかと思いますが、それは後に回わしまして、お二人目の奥山さんにお願いしたいと思います。

 

 県立高校の将来構想

奥山:奥山でございます。
 私の方からは、きょうのタイトル、「入試が変わった! 高校はどう変わる?」の「?」の方の説明をさせてもらえればと思います。
 お手元に、「これからの県立高校のあり方について」という、検討協議会の答申の概要を配らせて頂いております。これは9月21日に協議会の会長、平出彦仁先生から頂いたものを、コンパクトにまとめたものです。これだけを説明しましても30分ぐらいになりますので、今日はその中の本当に核心の部分に触れさせて頂きまして、後ほどの議論のきっかけにして頂ければと思っています。
 今、鈴木主幹の方からお話のありました入試の問題、これは非常に重要でございますが、入試の問題を考える場合に、視点をもう少し後ろの方にずらして、高校全体がどう変わっていくんだろうか、こんなふうな立場に立って頂きますと、手元にある「県立高校将来構想」がまさにうってつけじゃないかと思っております。特にこれから県立高校が変わっていくときの、基礎にある理念がこの中に盛り込まれております。
 皆様方もこういう新聞記事をご存知かと思います。手元でちょっと見えにくいんですけれども、「県立高校統廃合、来夏までに具体案」「20〜30校削減焦点」。「神奈川新聞」の9月22日付の記事です。こういうことを書いて出しちゃうわけです。これはうちの見解ではございません。「神奈川新聞」の見解なんです。ここにあるのは、あくまでも器の話なんです。協議会の平出会長からは昨年の4月に初めて協議会が開催された時、「統廃合ありきでこの協議会はやらない。私はこれからの県立高校の教育内容を中心にして議論していく」というお話を頂きました。ですから、今日こうやって皆様方の前に出て、私もお話をさせて頂くわけですが、資料に基づいてちょっとご説明しますと、1ページ目の「今後の高校教育に求められるもの」、ここがこれからの神奈川の県立高校の教育内容の根幹になってくる、こういうふうにご理解を頂ければよろしいと思います。それが入試の方にも影響しますし、単位制高校とか、総合学科のあり方にも大きな影響を与えてきます。そういう目でこの部分を見て欲しいと思います。
 今後の高校教育の教育内容は一体どんなものなのか。大きく三つに分かれております。
 最初は個が生きる教育です。これはいわゆる個性尊重の教育でございます。生徒が自分の個性を見出して、生き方を選択していくための自分探しを支援していきます。ここに盛り込まれている個性を尊重するということはどういうことなのか。これは私なりに解釈いたしますと、これまでのようにできない生徒を何とか引っ張り上げる、努力すれば報われるという日本の非常にすばらしい哲学があるんですが、それだけではこれからはなかなかうまくいかないんじゃないのか。それぞれ子どもたちが持っている個性に着目して、その個性をより以上に伸ばしていく。そういう教育をしていきたいということがここに出ていると見て頂ければと思います。
 そうしますと、さっきの形から先に入ってくる改革じゃなく、一体何を学びたいのか。その哲学がこの個性を尊重するという方向性になって出てくると思います。例えば皆様方、家を買うときに建て売り住宅か、注文住宅かを考えます。まずお金の問題があると思うんですが、まず建て売りと考えると思うんです。そうしますと、3LDKに入ってから、この部屋をどうしようかと悩むのです。ライフスタイルを考えずに、入ってしまった後に悩むわけです。そうではなく、自分はこういうライフスタイルがあるんだ。だから、こういう住宅に入るんだ。先に自分の考え、哲学ありきなんです。そうすれば「総合学科に私は行きます」「普通科がいいです」「僕は単位制の普通科高校に行きます」、そういうふうな選択肢が主体的に出てくるわけです。先生にはそれを支援して頂く。これが中心になってくるんじゃないかと思っています。
 そういった子どもたちのさまざまな個性に着目した場合、(3)にありますが、これからは学歴でなく、生涯にわたってどのような知識や技術を身につけて、豊かな人間性を養ってきたかが大切となる。これからはいかに学んだかという学習歴を重んじる価値観に転換していく。これがこの個性が生きる教育の柱になってきます。
 先ほど鈴木主幹もお話したとおり、多面的な能力を人間は持っているわけです。学力という一つの物差しで測って、子どもたちを序列化するのはもうそろそろ時代的に難しい。例えばこれは一つの例なんですけれども、王貞治と長嶋茂雄という野球人がいます。長嶋の方が成績は余りよくないんですよ。でも、人気という点ではどうでしょう。数値化すれば、王の方がホームランは多分たくさん打っています。人格的にもすばらしい人と聞いているんですけれども、、長嶋にも人気がある。数値化できない何かというのが個性じゃないかと思います。そういうことに着目した教育をぜひ皆様方、現場の先生方に取り組んで頂ければと、そういう意味を込めまして、個が生きる教育、これを一つの柱とさせて頂いております。

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