特集 : 「柔らかなシステム」としての高校教育の創造
 

やりなおしができる学校システム
─ 転入学・転科・再入学をめぐって─

三橋 正俊 

 
 はじめに

 私の勤務する中沢高校では、学年制をとりながらも、1年次2年次で合計7単位までの範囲内であれば、修得できなくても進級させる単位制を取り入れたシステムがある。例えば、1年次7単位落としたとしても進級させ、2年の1学期に追加認定制度を設けて、失った単位を課題やレポートによって取り戻すことができる。それに失敗しても、3年次に自由選択科目を7単位余計に履修することで、卒業に必要な80単位を修得することができる。しかし、7単位を超えて修得できなかった科目があったり、1科目でも履修できなかった科目があれば、原級留置すなわち留年ということになる。
 現実に中沢高校では、7単位までなら落としても進級できるという基準があっても、2年生に進級できなかった生徒が毎年、1学級を超える規模で存在する。学年末を迎えて進級できなかったために退学する生徒はそれほど多くはない。もっぱら、学校生活に適応することができず、欠席や大幅な遅刻・早退を繰り返していく中で、2学期の半ばを迎える頃には、進級のめどが立たなくなってしまう生徒が学年末を待たずに退学していくケースが多い。留年してでも頑張るという生徒もいるが、学校生活を中心に自分の生活を切り替えることができずに、翌年度も同じ繰り返しで、ついには退学に追い込まれてしまう。
 中沢高校に限らず学年制をとっている学校では、この1年生への指導が「勝負」となる。特に課題集中校と呼ばれる高校では、学習意欲が失われている、学校生活よりもアルバイトや仲間との遊びが楽しい、机に向かって勉強をする習慣がなかった、中には教師に対する不信感を抱いている生徒もいるなど、学校生活に適応することが困難な生徒が多い。さらに近年は、仲間づくりができず、集団での生活に極度の緊張を感じたり、集団生活そのものが嫌いな生徒が増えているように思う。中には「どうせ○○高校でしょ」と自らの人生を見限ってしまって今が楽しければよいと開き直っている生徒も見受けられる。学校や集団生活そのものに適応できない生徒と、学校生活そのものをマイペースで快適に過ごそうとする生徒の存在が大きな比率を占めるようになった。従って生徒の指導も、学校生活を続ける意欲を確認することから始めなければならない。学校生活に生徒を引き戻す指導だけでは対応できないため、生徒一人一人の進路について保護者を交えてじっくり話し合わなければならない。2学期ともなると、担任はそうした面談指導にかなりの時間を割かれることになる。
 高校進学を目的に組織され管理され続けてきた生徒は、本当に自らの人生を選び取ってきたのだろうか?高校を「行ける学校より行きたい学校へ」と選択してきたといえるのだろうか?昼間の普通の高校(全日制普通科)へ入ったものの、自分のやりたいことを容易に見いだせない高校生の姿がそこにあるように思う。様々な科目選択を通じて自らの進路を選ぶには普通高校はあまりにも選択幅が狭い。さらに職業や進学など様々な進路を考えさせる指導を充実しようとするが、生徒は自分がやりたいことが見えてこないいらだちを感じているのではないか。自分で選択し、失敗したらやりなおしがきく、そうした試行錯誤の許される高校教育のシステムが考えられないだろうか。その選択の幅は、広ければ広いほどよい。
 この高校にはなじめないので違った高校に行きたい(転入学)。昼間の学校ではなく夜間の高校や自宅で学習する高校へ行きたい(転入学)。普通科に入ったが専門学科で学んでみたい(転科)。学校を辞めて一度働いてみたい(再入学)。こうした要望は、従来の休学・復学や留学などといった一つの学校内で解決できる問題ではなく、学校間・課程間・学科間がからむシステムの問題である。もちろん現在でも、神奈川には転入学・転科・再入学ができるシステムはある。しかし、「やりなおしができる学校システム」として今一度検討し直して、どう活用することができるのか、またどう変えていかなければならないのかを考えてみたい。
 

 文部省の検討経過

「学校間の『格差』あるいは『序列』は、現在、学生生徒を偏差値によって区分けし、国民の多くに抑圧感情と閉塞感情を与えている、日本の教育の病理のいわば最大の問題点である」と指摘したのは、文部大臣の諮問機関である中央教育審議会(中教審)であった。これは、1989年4月に発足した第14期中教審が1990年12月に発表した『学校制度に関する小委員会審議経過報告』の一節である。この中で「第2章 高校教育の現状」と題して、「第3節 不本意入学・中途退学の増大」を現状の問題点の一つとしてあげている。やや引用が長くなるが、問題意識に共通する部分もあるため、読んでいただきたい。

  第三に、現在の高等学校では転校、学科変更、復学などについて適切な対応措置が講じられていないことが挙げられなくてはならない。進学した学校に満足できない生徒の中には、校内での学科の変更や他の高等学校への転校を望むものも少なくない。そうでなくても、中学校段階で普通科か、職業学科か等の進路を決断することが困難なことを思えば、入学後に進路変更がしたくなってもおかしくはない。しかし、いずれの場合も、入学後の転科や転校は容易でないのが現状である。 
 また、高校教育が本来とっている単位制が、教育条件や生徒の指導の都合もあって十分活用されていないのも問題である。学年制が硬直的に運用されているために、わずかな科目を落としただけでも留年を余儀なくされ、それが契機になって退学したり、学習意欲を失い、非行に走るというケースもまま見られる。
 これからの時代に特に大切なのは、中途退学者に対して復学を容易にする措置である。彼らが学習したくなったときには、いつでも学校に戻ってこれるようなルートを設けておくべきである。

 こうした問題点の指摘の上で、「第3章 改革の基本的方向は何か」の「第3節 学校・学科間の移動をしやすくする」の中では、「公私立を問わず途中年次における一定数の編入学定員を用意する」ことが提案されている。そのため学年ごとの定員を設けないという案も検討されたが、「高校入学後も受験競争を継続する傾向を誘発しはせぬかとのマイナス面」が指摘され、編入学定員の枠は小幅なものにするということになった。そして、「移動後には、移動前の修得単位を従来より弾力的に認定する配慮」が大切であると付記している。「第4章 改革の具体的方策」では、上記以外に「単位制高校の整備や定時制・通信制教育の充実」を提言している。「高校教育が本来とっている単位制」のあり方そのものをどうするか、学年制の中にどのように浸透させていくかという抜本的な検討はなされず、単位制高校と定時制・通信制高校を進路変更の選択肢に加えた案を掲げるだけで新味のないものに終わっている。
 この問題は、第15期中教審に至って、「柔らかなシステムの実現」という形で引き継がれることになる。もともとは、学校5日制と大学教育の改革に諮問の中心があるために、1996年7月に学校5日制を柱とする第1次答申が出され、1997年4月にメンバーが改まった第16期中教審の発足直後の6月に「柔らかなシステムの実現」を盛り込んだ第2次答申が出された。「第2章 大学・高等学校の入学者選抜の改善」の「第3節 高等学校入学者選抜の改善」で多様化・多元化を特徴とする入試改革で高校の多様化や「特色ある高校」づくりを推進する一方で、「過度の受験競争を緩和するため、高等学校教育への様々なアクセスを可能とし、高等学校教育全体を柔らかなシステムにしていくことは極めて重要である」としている。だが、具体的な方策の提言内容は、第14期中教審の域を出ていない。第2次報告は続けて、「こうした観点から、生徒が積極的な進路変更を希望する場合に学校間あるいは学科間の移動を容易にしていくことや、保護者の転勤や帰国等に伴う編入学や転入学について特別定員枠を設け、これを受け入れていくことなどを一層積極的に認めていくべきである」という。この答申では、「中高一貫教育の選択的導入」や「飛び級」の導入に重点があって、学校間格差の問題など教育の「病理」の分析は不十分で、「柔らかなシステム」の提言も言葉だけのものに終わっている。

 

 神奈川の検討経過と現状

 神奈川県高等学校教職員組合(神高教)は1987年11月に高校教育問題総合検討委員会(高総検)の中に、高校中退問題対策プロジェクトチームを発足させ、翌年6月に『中途退学者を出さないために』という緊急提言をまとめている。当時審議を終了した臨時教育審議会(臨教審)の提起した単位制高校は、中退者の「受け皿」に過ぎないと批判しながら、学区制度まで含む広範囲な改革提言を行っている。その中に、「すべての学校に『再入学規定』を」として、先進的に実施されていた県立五領ヶ台高校の「再入学規定」を紹介している。この神高教の再入学に関する主張が、1987年12月に県教委の設置した神奈川県後期中等教育検討協議会(後中検)に反映されていく。「生涯学習社会における高等学校教育の役割」と副題が付けられた第2次報告は1991年5月に出されたが、第14期中教審の審議の動向にも合わせて、不本意入学者のための転学・転科と中途退学者の再入学について具体的に盛り込まれた。その後の神奈川の改革の基調を示したもので、長くなるが引用したい。

 ア 転学・転科について
 現行制度によると、県内の転学については、現在、限られた事由の場合を除いてはほとんどの全日制高等学校は認めていない。現在の高等学校になじめず悩んでいる生徒が中途退学をしていくのを防止するための方策の一つとして、現行制度の柔軟な運用や制度の見直しをすることにより、一定の条件のもとで、普通科の高等学校相互間だけでなく、職業科と普通科、あるいは職業科相互間の転学・転科を認めることについて具体的に検討する。
 イ 中途退学者への対応について
 中途退学者を高等学校へ再び受け入れることについては、現在、全日制の課程ではほとんど行われていない。中途退学していった生徒はそれぞれさまざまな理由があってやめていったわけであるが、特に、経済的・健康上の理由から学業を続けられなかった生徒については、通学が可能になった場合、再び高等学校教育が受けられるように配慮する。
 また、学習意欲や目的意識を失って高等学校を退学していった生徒についても、本人が再び学ぶ意志をもち、本人と周囲の事情が変化して、高等学校で学習していくことが可能になった場合、中途退学をした高等学校はもとより、他の高等学校においても、一定の条件のもとで中途退学者を受け入れられるように制度を活用し、再び高等学校において学習できる機会の保障を図る。

 さらにこの報告では、「これからの定時制・通信制の課程の改善について」ふれて、「全日制の課程の就学形態になじめないため、進学してこなかったり中途退学をしたもののために、全日制の課程とは異なる就学形態をもった学習の場とすること」と指摘している。
 この報告を受けて県教委は、1992年7月1日に「神奈川県立高等学校全日制の課程への転入学の取扱いについて」と題する教育長通知を出している。「県内における転居を伴わない転入学対象者」が新たに転入学対象者に加わり、「運用基準」では「転科または専門コースからの変更を含むものとする」とされた。しかし、その場合「教育的配慮を必要とする特別の事情」が条件とされ、その証明のために「教育センターの専門相談員との相談」指導が必要とされ、「いじめ」など極めて限られた場合しか認定されないようになっている。さらに、同じ日付で「神奈川県立高等学校への中途退学者の再入学の取扱いについて」と題する教育長通知が出されている。「再入学対象者」は「高等学校を中退した後、退学の理由が消滅した者」であり「高等学校において、学業を再び続けようとする目的意識の明確な者」であるとの2つの条件を満たさなければならない。その上、再入学の対象校は「再入学希望者が中途退学した県立高校」とされ、第2次報告の「他の高等学校においても」受け入れるという内容から後退したものとなっている。そのため、県教委が1991年10月に設置した神奈川県高等学校教育課題研究協議会(高課研)は、1993年4月に出した『高等学校(全日制)への進学機会の在り方について』の中で、「転学・転科への対応」と題して、入学後「積極的な理由から進路変更を希望するものに可能な限り対応すること」と要請している。しかし、再入学についてはふれられることはなかった。
 このような経過を踏まえて、県教委は1997年2月28日に教育長名で、上記2つの通知の一部改正を通知している。転入学については、県立高校だけではなく、市立高校、私立高校とも協議の上、「教育的配慮を必要とする」生徒については、県内どの高校でも転入学の受け入れが可能となった。「運用基準」についても、「その事情に応じて」の条件が付け加えられて、「教育センターの専門相談員との相談」指導を必ず受けなければならないということではなくなった。再入学については、県内に在住する(定時制・通信制では県内に勤務先がある)中途退学者が、中途退学した高校以外にも再入学の希望を提出することができるようになった。合わせて、同日付けで「神奈川県立高等学校定時制の課程・通信制の課程への転入学の取扱いについて」の教育長通知を出している。1986年2月の教育長通知から大きく変わった点はないが、県内の在住者または勤務先が県内にある者であれば、県内、県外を問わず高校の在籍者で「特別な事情」がある者については、転入学者選抜を志願できることになった。

 

 現在のシステムの問題点

 1997年4月に県教委は、県立高校将来構想検討協議会(将来構想検)を設置して、生徒減少期の県立高校の適正規模・配置等に関する検討を開始した。折しも1997年6月には、第16期中教審の「柔らかなシステムの実現」が盛り込まれた第2次答申が出され、将来構想検でも再びこの問題が取り上げられることになる。1998年3月に『これからの県立高校のあり方について(協議経過の中間まとめ)』が出されたが、「これからの県立高校のあり方」として「多様で柔軟な高校教育の展開」を掲げている。「特色ある高校」づくりとともに、「生徒にとって学びやすく、さまざまな学習機会の成果を生かせるような高校教育」を推進するとしている。「柔軟なシステムの実現」として、「単位制の趣旨を生かした学年制の運用」などとともに、「転入学・編入学の弾力化」の項目が加えられている。そして、転入学については、現在の制度の上にさらに、「進路変更などの積極的な理由によって、転学を希望した場合にも対応できるよう、転入学の機会の一層の拡大が望ましい」と述べている。「学科間の移動や専門コースと一般コースの間の移動」についても同様である。再入学については、「趣旨の周知と適切な活用を図ることが必要である」と指摘している。果たしてこれだけで十分なのであろうか?「やりなおしができる学校システム」に向けて何が必要なのかを、論点を整理しながら、改めて吟味してみよう。

(1)進路変更を理由に転入学・転科ができる
 現在、どのくらいの生徒が転入学の制度を利用しているのか。1997年度の『神奈川の教育統計』によると、1995年度・1996年度公立高校全日制および定時制の転入者数・転出者数は次の表の通りである。ただし、1997年2月の教育長通知以前の数字であることに留意していただきたい。

教育研究所編『神奈川の高校 教育白書98』より

  転入者数(転入率)

転出者数(転出率)

1995年度全日制 282人(0.16%) 536人(0.31%)
1996年度全日制 267人(0.16%) 529人(0.33%)
1995年度定時制 322人(4.94%) 39人(0.60%)
1996年度定時制 362人(5.62%)

70人(1.09%)

*転入・転出率ともに年度当初在籍生徒数からみた割合である

 転入者数は、県外からの転居による転入者とおそらく再入学者も含む数字であるが、「教育的配慮を必要とする特別な事情」で転入学をしている生徒は、全日制についてはごくわずかしかないことが想像される。定時制については、全日制からの「進路変更」を理由とする転出者を多数受け入れていることが考えられる。今後は、特に全日制高校で、将来構想検も指摘する「進路変更などの積極的な理由」を転入学の事情として認めていく必要がある。また、学科間・コース間の移動についても、この数字の中に含まれていると思われるが、極めて少数であろう。県教委の推進する「特色ある高校」づくりによって、入学後その高校が自分に合わなかったという生徒が現れてくる可能性も高い。そのために、不登校に陥ってしまったり、中途退学してしまう生徒も少なからず存在する。こうした入試選抜による悲劇の救済策として、入学者募集定員内に「転入枠」を位置づけるとともに、「進路変更」による転入学を認める具体的な制度化が必要である。

(2)定時制・通信制高校から全日制高校への転入学
 全日制高校から、定時制高校ばかりではなく、通信制高校へと転入学する生徒はかなりの数に上っているとみられる。しかし、逆に定時制・通信制高校から全日制高校へ転入学を希望しても、現在は不可能な状態である。県教委の説明によると、入試選抜制度が異なっているからという。全日制高校で不登校だった生徒が、通信制高校で学びを回復し、改めて全日制高校で学びたいという場合は、全日制高校へ再入学するか、入試選抜を受け直すかしなければならない。また、全日制高校へ行きたかったが定時制高校でしか受け入れられなかったという生徒は、改めて全日制高校の入試選抜を受験しなければならない。課程間の移動が一方向でしかない点は、「さまざまな学習機会」を用意する観点から、換言すると、さまざまな学習形態を自ら選ばせるという観点から、問題ではないだろうか。さらに、高校が単位制を基本としていると考えるならば、入試選抜制度のあり方を根拠に、課程間の単位の互換を認めないということには疑問が残る。単位制高校・総合学科高校ならどうなるのだろうか?

(3)生徒・保護者への周知徹底
 再入学について将来構想検は「趣旨の周知と適切な活用を図る」と指摘しているが、このことは転入学にも当てはまることである。再入学はもとより、転入学の学科間・コース間の移動についてどのくらいの生徒・保護者が知っているか、おぼつかないものがある。これらの規定については、休学・退学などの学則とともに生徒手帳には具体的に記載しておくべきではないだろうか。教員も生徒の相談に応じる場合、生半可な知識では十分な指導を行えないこともある。再入学については、中途退学した高校へ戻ったというケースは聞くが、果たして他の高校で迎えてくれたケースがあるかどうかは分からない。もっともこの規定は1997年度から適用されたのであるから、生徒・保護者への周知徹底をはかることで、制度の活用が今後はかられていくことも考えられる。

(4)カリキュラムの違いを超えて
 転入学・転科について、実際にはあまり活用されていない。私は各高校のカリキュラムの違いに大きな問題があるように思う。教育長通知の転入学の「運用基準」では、このことを認めた上で、「教科・科目の履修、進級・卒業の認定に必要な単位数について、弾力的に取り扱うように配慮する」と述べている。例えば、各高校で学年制がとられていて、1年間で履修し修得すべき単位数が異なっていても、最終的に卒業に必要な80単位が残りの在学期間に修得できる見込みがあるならば、転入学を積極的に認めるべきであろう。また、普通科の生徒が専門学科の2年次に転入学する際に、1年次の専門科目を履修していないということは大いにあり得る問題であるが、教科・科目の読み替えを活用すべきである。同様に、総合学科では1年次に「産業社会と人間」を設置しているが、普通科の生徒が履修していることはまれであり、そのための措置を検討しておくべきではないだろうか。普通科の専門コースへの転入学についても同様である。逆に、普通科への転入学については、学習指導要領の必修科目の38単位が履修されているかどうかが問題になる。現在、教育課程審議会(教課審)では学校5日制に合わせ、卒業に必要な単位数・共通必修科目の単位数・専門科目の必要単位数を削減する方向で検討している。転入学・転科の条件は概ね改善されていく方向にある。従って、カリキュラム上の問題は、各高校に受け入れようという「姿勢」さえあれば、クリアーできるのではないだろうか。
 

 おわりに

  「やりなおしができる学校システム」を目指して様々に検討してきたが、終始念頭を離れなかった問題がある。それは、学校間格差の問題である。「特色ある高校」で各高校が蛸壺状態になってしまって、一度その中に入ってしまえば、進路変更もままならない状態におかれてしまうのも問題ではあるが、それを解決しても次は、進学校、中堅校、課題集中校と序列化された現在の神奈川の高校の格差状態の中では、転入学するにも学校が限られてしまうという問題が生じる。これがいわば「格差の壁」であるとすれば、この「壁」をどう考えたらよいのだろうか。中には、転入学制度を利用して入試選抜で入学できなかった高校に、「進路変更」といって再チャレンジしようという生徒も出てくるかも知れない。これも「壁」を突き崩す一つの試みではある。「やりなおしができる学校システム」を活用するケースとして認める必要がある。このことを問題視して、改革を滞らせるべきではないであろう。
 この「格差の壁」として現実に機能しているのが、転入学に際して各高校が課す学力検査である。高校現場では、カリキュラムの違いよりも、学力検査によって学力差があらわになり、門前払いを受ける生徒が出て来る可能性が高い。「本校の勉強についてこれない」これが、受け入れを拒絶する最後の「壁」となる。確かに、同一科目でも内容・進度とも高校によって格段の差がある。従って一般的にいうと、転入学については、受け入れ校が序列の下の学校へと偏っていくことになる。上位校にチャレンジするという生徒はほとんど現れないと考えられる。この「壁」を突き崩すには、学力検査の廃止しかないだろう。
 そして「転入枠」内であれば受け入れる。各高校にこの「心構え」ができれば、「やりなおしができる学校システム」は、将来の生き方に希望を見いだせないまま悩んでいる生徒に、違った生き方を試してみる機会を提供することができる。現に課題集中校では、「誰でも受け入れます」ということで従来もやってきている。しかし、これが全高校に広がることで、「やりなおしができる学校システム」は「格差の壁」に少しでも風穴を穿つことができるものになるのではないだろうか。

(みつはし まさとし 教育研究所員・県立中沢高校教諭)

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