編 集 後 記


■ひとの話を聞くことが苦手な人間が増えてきたように思う。 「最近の若者は」 と嘆いているのではない。 むしろ高年者の方が、 ひとの話を聞かなくなっているように思う。 そんなところで、 『ねざす』 今号全体のテーマは、 「聞く」 である。

■ひとつ目の特集は昨年末の討論集会の記録である。 そのテーマは 「若者の雇用・労働の現実は?そして何が可能か?」 であった。 講演をお願いした東海林さんは言う。 「あの年 (派遣村の年) から何年かの取材を続ける中で、 女性派遣労働者たちがようやく口を開いてくれました」。 聞こうとし、 待たなければ、 声は聞こえない。 連合神奈川ユニオンの紙屋さんも神奈川の労働者の声を聞き取ってきた。 そして加藤はる香さんは若手の教員の声を集め、 思いを読み取ろうとした。 関連する論考を寄せてもらった大内さんは学生の声に耳を傾け、 今日の社会の大きな問題を浮かび上がらせた。 同じく論考をいただいた竹信さんは若者に居場所と相談窓口が必要であることを訴える。 悩みを聞いてくれるひとがいてはじめて、 悩む人ひとは声を上げることができる。

■ふたつ目の特集は 「教員の意識」 聞き取り調査、 まさに聞くことである。 高校の現場は大きくかわってきた。 その変化の中で教員はさまざまな悩みを抱えている。 アンケートに答えてもらう調査はすでにおこなった。 今回は生の声を集め、 そこから教員の思いを読み取ろうとした。

■現実に起きている事柄をまちがわずに読み取ろうとするならば、 多様な声に耳を傾けなければならない。 「SHIPにじいろキャビン」 の星野さんに学校への伝言をよせてもらった。 星野さんはセクシャルマイノリティーの問題に寄り添ってきた方である。 そして医療の現場で貧困の問題を見つめようとしてきた、 小児科医の和田さんからもレポートをよせてもらった。 貧困は医療の現場で見えにくいものである。 それを聞くことから話は始まる。 聞くことで、 貧困は見えるものになり、 信頼関係をつくることもできる。

■所員レポートは大学院生に関わるものである。 働く若者、 大学生、 そしてその先の大学院生、 彼らのかかえる問題は高校の現場でも理解し、 考えていかなければならないことである。 中でも大学院生の話はこれまで話題になることもなかった。 その意味で大事な視点に気づかされたと思う。

■小学校の事務職員の秋山さんから読者のページに文章を寄せていただいた。 学校にはさまざまな仕事をしているひとがいる。 その方々の声を聞くことが必要である。 それにより見えてくる新たなものもある。 そして、 学芸大学の村山さんから、 海外での研究発表の話を寄せていただいた。 授業研究の広がりについてである。 海外からの声にも耳を傾けることが大切だ。 それは次の海外の教育情報につながる。

■海外の教育情報はすでに19回目になった。 重なるテストによる消耗、 労働者の貧困、 これらはアメリカ、 イギリス、 日本で広がり、 社会をむしばんでいく。 そして移民との出会い、 異なる宗教、 異なる文化との出会い、 他者の話を聞く力の如何が全世界で問われている。

■ここで所員であった藤原晃さんと齋木真理子さんが研究所をはなれることになった。 残念ではあるが、 これからも研究所へのご支援をお願いしたい。 また、 新所員として辻直也さんと福島静恵さんをお迎し、 研究所に新しい力を加えることができた。

■最後に編集者、 本間の話に暫時耳をかしていただきたい。 私が編集後記を書くのもこれが最後になる。 これまで執筆者、 所員、 研究所のさまざまな関係者、 とりわけ読者の方々に助けられてきたことに、 この場を借りてお礼を申し上げたい。 この後は、 手島純氏に編集の仕事を引き継いでいただくことになる。 これからも研究所が多くのひとの声を受けとめ伝える役割をはたしていくことを願う。
  

(本間 正吾)



ねざす No55 2015年5月30日発行

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