- 神奈川県の若手教員の労働実態
神奈川県立高校の教員採用は、 2007年度以降段階的に増加し、 2014年度までに約2400人が新規採用となった。 その結果、 職場では青年教職員が近年急速に増加し、
50代が約 6 割を占める配置上のアンバランスは徐々に改善されているが、 一方で、 若い世代をとりまく課題も浮き彫りとなってきた。 そのような状況下、
神高教が2011年度実施した 「青年層教職員に関する勤務実態調査」 (回答数は約277人) では、 平日・休日合わせた超過勤務は平均54.7時間、
中には80〜100時間超という回答が存在した。 平日残業時間は34.2時間、 1 カ月の勤務日数を20日として平均すると、 1 日 1 時間42分となる。
中学校や高校現場の特徴であるが、 休日の超過勤務が目立ち、 2 割近くの青年層教職員が 1 ヶ月のうちで 「完全に休める日」 を 「0 〜 1日」
と回答しており、 超勤の理由としては、 教材研究等もの回答もあるが約 8 割が部活動をあげている。 「勤務状況の現状をどのように感じているか」
の問いに対する記述回答では、 切実な心身の疲労を訴える職員も少なくなく、 中には、 「仕事量が多すぎ、 教材研究の時間がまったく持てない。 少しずつ命が削られている。」
「日々の疲労感がとれず、 転職を考えたことも。」 「 1 ヵ月に休みなしは当たり前と思って自分では納得しているつもりだったが、 約 1 年睡眠障害のようになった。」
等、 悲鳴のような声も寄せられた。 この調査結果は、 毎年10月に行われる課題別予算交渉で、 青年教職員課題として超勤改善に向けたとりくみの強化を求める材料としてきた。
交渉には現場の若手数名も参加し、 現場の多忙状況など生の声で訴えてきたが、 対する県の回答は毎年ほぼ変わりなく、 課題として認識はしている。
引き続き、 管理職の労務管理の徹底に努めるといった感じで、 現場の勤務実態改善にはつながっていないのが現状である。 2011年11月の調査より
3 年が過ぎた。 さらに若手が増えた職場での労働実態調査を行い、 実行力ある勤務実態改善を求め、 引き続き交渉・協議をすすめたい。
- 全国の若手教員の労働実態 −中学教員の超勤は平均82時間!!−
日教組による青年部職場実態調査 (2014年実施 回答数3,068人、 うち高等学校398人) では、 「あなたは、 超勤をしていますか?」
という問いに対し、 95%が 「はい」 と答え、 全国の若手教職員のほとんどが超勤を自覚していることがわかった。 平均超勤時間は、 61.97時間、
高等学校は、 神高教調査より約 5 時間多い59.5時間であったが、 中学校は82時間という驚くべき結果が出ている。 超勤時間別人数分布を見ると、
過労死ラインである80時間以上の超勤を行っていた人は全体の32%にのぼり、 そのうち100時間以上は、 17%であった。 この調査でも、 中学校・高校では超勤の理由に部活動をあげた人は多い。
また、 昨年 7 月に参加した、 「日教組関東ブロック全国青年討論集会」 では、 20代の小・中学校の若手教職員より、 「10時ころまではあたりまえ。」
や、 中には、 「夜中の 1 時まで残っている。」 「月の超勤が140時間を超えている。」 と驚くべき超勤実態の話を聞いた。 更に、 その様な状況をどう感じているかと質問したところ、
「明日の授業のためなのでしかたがない。」 「終わらない自分の問題。」 など意見が寄せられ、 超勤を自分の責任とする若者の感覚を目の当たりにした。
神高教の調査の中でも、 「子どもたちのためやむなしの状況。」 「まだ要領を得ていないため仕方がない。」 との意見は多く存在している。 昨年 6
月に発表された中学校教員を対象としたOECDの国際教員指導環境調査では、 日本の教員の超勤時間は53.9時間となり、 調査に参加した34カ国中最長だったことが明らかになっている。
堺市立中学の26歳の教員の過労死認定は、 大きく報道されたが、 私たちが健康に安心して働き続けるために、 今回の調査で平均超勤時間が平均82時間となった中学校教員をはじめとした若手教職員の勤務状況改善は急務である。
職場では、 衛生委員会等を活用して勤務改善要求を重ね、 管理職による現場での労務管理の徹底等、 国や、 地方自治体としての対策も求めていく必要がある。
- 世代間断層の発見
2011年の神高教調査では、 「民間企業より極端に優遇されていると感じる。」 「自分は恵まれているほう。」 と、 民間に比べて恵まれていると認識している若手の意見が多数あった。
一方、 50代のベテラン層からは、 ここ数年、 退職金カット、 給与カットもあり、 「もはや我々の生活は危機的状況となっている」 「ストをなぜしないのだ!」
といった強い主張が発信される。 そのような状況下、 青年層とベテラン層の間には、 現状に対する意識の大きな断層ができていると感じてきた。 その断層を隔てて、
ベテラン層は青年層に対し、 「全然わかっていない。」、 青年層はベテラン層に対し、 「権利ばかりで、 仕事しない。」 といった意見が飛び交う。
この状況は、 組合の組織拡大の大きな支障になっていると感じてきたが、 この大きな断層のズレに梯子をかけ、 若手とベテランのうまい関係を築いた職場もある。
しかし、 多くの職場で、 この危機的状況に気づき、 どうにかしようと梯子をかけてもなかなかうまくいかず、 断層の上で職場の組織拡大に奮闘するベテラン話を聞く。
しかし、 あと数年も過ぎると若手からはなかなか受け入れられずとも、 主張することで自らの、 そして職場の労働条件を守ってきたベテラン世代が退職を迎える。
その後、 このままでは、 民間より恵まれていると、 たった月約 7 時間分の教職員調整額 4 %で、 50時間以上の超勤を受け入れ働く職場になりかねない。
若手へのオルグでは、 「労働組合がよくわからない」 「権利などには興味がない」 という発言をよく聞く。 丁寧に説明するがどうもピンとこない反応から、
これまで若手が矛盾を受け入れ働くのは、 労働者の立場の認識や、 意識不足と考えてきた。 その若者の意識をどう変えていけばいいのかと思い悩むうちに、
最近は、 今まで若手が受けてきた労働教育とその責任を考えるようになった。 高校現場で労働教育はどのように行われているのだろうか。
- 高校現場での労働教育の実践状況と進路指導
神高教が、 2014年に行った、 労働教育実践状況調査 (回答数80校) では、 「学校全体で労働教育を実施している」 の問いに対し、 しているは29%、
していないは、 57%という結果であった。 実施していると答えた24校の実施内容は、 1 、 2 年に対しては、 職業人インタビューやインターンシップ等。
3 、 4 年生になると、 進路指導が中心となり、 あいさつや就職マナーの学習との回答で、 労働法について、 またアルバイトを扱った教育実践等はごく少数である。
今回の調査から、 現在、 神奈川の高校現場での労働教育は個々のとりくみにまかされているような状況であることが見えてきた。
労働教育の実施の場面として、 多くの学校が総合の時間としている。 私の勤務する定時制高校では 1・2 年生対象に、 業者のマークシートを使った自己適正判断や15年後の自分に向け手紙を書くといった自己理解・実現を主なテーマに学習をすすめ、 3・4 年生になると、 進路指導が中心となり、 あいさつや就職マナーの学習も業者を呼んで行っている。 就職バブルとも言われた2014年度の就職状況は、 土木・建築、 介護を中心に求人が増加し、 その職種であれば希望者はほぼ内定を決められるが、 以前から厳しい事務職等は相変わらず厳しい状況だった。 今年度初めて進路を担当した。 多くの就職を希望する生徒は、 3、 4 年になった時点で明確な就職の希望を持っておらず、 張り出されるハローワーク求人を眺めても、 なかなか選べない現状であった。 考えれば、 それもそのはずだ。 自己理解・実現を学習し、 理想的な将来の夢を考えてきた 1 、 2 年生の進路学習を終え、 3 年生になり急に土建や介護職といった現実を並べられてもなかなか選べないのであろう。 選べず悩む生徒の多くは、 就職への第一歩として、 地域のハローワークが主催し様々な企業が集まる 「就職フェスタ」 に参加する。 各地域で、 まさにリアルタイムで人材を求めている企業が集まるので、 高校へ送られてきた紙媒体の求人や、 ネット上の求人より確実で、 実際に就職につながることもあった。 しかしここでも、 土建・介護・生産系の企業が多数を占める中で、 特に女子生徒は、 少しでもキラキラした職に惹かれる傾向があり、 エステやアパレル業界、 販売でもお菓子屋などを選択してくる。 ところが、 エステ、 アパレル業界は、 外からキラキラ見える反面、 労働条件・勤務実態はとても厳しいことが多く、 また、 お菓子販売も人気があるためなかなか採用されない現実がある。 そして 3 月を迎え、 折り合いをつけなんとか就職を決めた生徒、 とりあえず今のバイトを続ける生徒が今年も卒業していった。 そのような状況で、 夢と現実のギャップを埋めるのが専門学校の存在である。 家庭に少しの余裕がある場合、 引き続き夢の実現や、 スキルアップをめざし専門学校へ進む生徒も多い。 そこで奨学金の問題が浮上するのだが、 それは 「ねざすNo53」 をご参考に。 今後、 1、 2 年の段階で、 自己適正や夢の実現を考える学習だけでなく、 市民として社会で生きるために果たす役割として仕事を捉え、 法で定められた労働者の権利等学ぶ、 労働教育の必要性を定時制高校の現場で、 とても強く感じる。
- 労働教育に希望がある
近年、 若者を使いつぶす 「ブラック企業」 は深刻な社会問題となっている。 正社員として就職が決まっても、 雇用が不安定であったり、 長時間労働、
低賃金が蔓延し早期に離職せざるを得ないばかりか、 うつ病を患ってしまったりするケースも少なくない。 また、 現在では 「ブラック・バイト」 と称されるように、
学生バイトであっても劣悪な労働を強いられるケースが後を絶たない。 その様な状況下、 いずれ就職し、 社会へと巣立つ生徒たちが、 違法状態に直面した際の実践的・効果的な対処方法など、
労働法の知識を身につけておくことの必要性が高まっている。
神高教では、 「労働教育の推進」 に向け、 若者の雇用・労働実態を知り、 高校現場における労働教育の必要性などについて考える機会づくりや、 実践交流など、 労働教育実践の活性化を図る計画を検討しおり、 とりくみ第 1 弾として、 2014年 4 月から 「労働教育連続講座」 (全 5 回実施) を実施した。 この講座は、 もちろん生徒への労働教育推進を目指しているが、 もうひとつ目的として、 若手教職員、 とくに組合未加入の若手教職員に参加してもらい、 生徒のために労働教育を学ぶことで、 自らが労働者であることを意識し、 労働者の持つ権利やその主張は当然であり、 社会で働く者にとって、 組合が必要だということを感じて欲しいという意図もある。 今後、 神高教では、 労働教育推進委員会 (仮) を立ち上げ、 教研活動として、 今年度実施した実践状況調査を検証し、 労働教育を実践するにあたり障害となる点や現場の要望等を整理するとともに、 特に若手教職員に向けて、 労働教育の必要性・労働法教育などについての学習会の企画・実施し、 既に多くの実践が存在していると聞く労働教育実践を集め、 共有できる交流の場の提供、 また、 労働教育の教材作り、 そしてデータベース化までできればと考えている。
高校・大学における労働教育の推進は、 組合の組織拡大対策として即効性はないが、 今後より重要になってくると考える。 そもそも現在、 全国的に組合の組織率が危機的状況にあるのは、 十分な労働教育が行われず、 「適応」 ばかりで、 「抵抗」 の部分を教えてこなかったことも大きな原因であると考える。 OECDの調査結果で、 「生徒の批判的思考を促す」 の項目に対し 「できている」 の割合が、 全体平均が、 80.3%であるのに対し、 日本は最下位で15.6%だった。 このダントツの最下位という結果は、 今、 そしてこれまでの 「適応」 重視の日本の教育を強く表しているように思う。
本田由紀さん (東京大学教授) の神奈川の県立高校等を対象とした労働法教育の実践前後における生徒の意識調査の検証結果では、 「職場に不満があっても我慢すべきだ」 という項目に対して、 授業を受ける前は、 6 割が 「思う」 と答えているが、 授業後は、 4 分の 1 に減っている。 また、 「きつい働き方をさせる会社に就職したその人に責任がある」 という自己責任的な発想も減少している。 たった 2 コマの授業を受けるだけで、 こんなにも意識が変わるというのは衝撃的だが、 事後調査では、 1 年後、 2 年後と時がたつと、 多くの効果が残らないということもわかっている。 しかし本田さんは、 例えば、 1 年後、 2 年後たった 1 回でも継続指導を行えば効果の継続が期待できるのではないかと提案している。 本田さんの県立高校との連携調査は継続されており、 今後も注目したい。
「適応」 だけでない 「抵抗」 と 「協働」 を含む実践的労働教育は、 我慢せずに仲間をつくり交渉することを 「あたりまえ」 と感じる若者を育成につながる。 これを進めることは、 労働組合のこれからの大きな役割ではないかと思う。
- やっぱり、 労働教育に希望がある
高校 3 年生で、 フランスの核実験反対の大使館前座り込みに参加した。 学生運動がきっかけで知り合い結婚した両親の影響か、 小さいころから平和への思いがやたらに強く、
平和教育が平和な社会を築くために必要だと思い教員になった。 教員になってからは、 平和運動に惹かれ、 うろうろしているうちに組合の本部役員になり、
平和・人権課題の担当になることができた。 その専従としての 2 年間、 官邸前や、 デモやらは年配の方だらけだった、 「なんでこんなに、 若い世代が少ないのだろう」
考えていた。 考えた結果、 若者の雇用、 労働環境の悪化にたどりついた。 自分の生活がギリギリの中で、 日本全体の平和、 ましてや世界の平和なんて目を向けるのは難しいだろうと。
ならば、 まず、 若者が安定して生活できる社会を作ることが不可欠で、 それは、 教育にたずさわる私の役割ではないかと考えた。 子どもたちの未来に平和な社会を築くために労働教育が必要である。
労働教育には平和な社会への希望がある!
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