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大学生が 「大学」 について考えるということ

加藤 雄大

 「大学」 とは何か、 「大学」 とはどのような場所なのか」。 これからここに書かせていただくすべてのことは、 この問いに端を発しているように思われます。
 私は現在大学 3 年生ですが、 今の大学に入学するまでに一年間の浪人生活を経験しています。 みんなが受験するからという理由で大学受験をし、 不合格となり、 不合格だった人たちはみんなそうするからという理由だけで予備校に通っていた私が漫然と考えていたのがこの問いでした。 当時の私はただ漠然と 「他のみんなと同じように」 大学に行くべきだと思っていただけで、 「なぜ私は大学に行くべきなのか」、 「なぜ彼らは大学に行くのか」 という問いの答えが全く想像もできませんでした。 もちろん、 これから大学受験が控えているこの時期にそんなことを考えているようでは志望校への合格などとてもおぼつきません。 二浪目に突入されてはたまらないと思った親や少しでも多くの進学実績がほしかった予備校の講師など、 いろいろな人が手を変え品を変え、 言葉を尽くして私に 「大学とは何か」、 「何のために大学に行くのか」 について話をしてくれました。 「大学は将来の職業のためのさまざまなスキルを身につけるところだ」、 「大学は学問を究めるための機関だ」、 「大学は自身の見聞を広げるための場所だ」 など、 十人十色の 「大学」 の定義については嫌になるほど聞かされました。 しかし、 どの定義も何かが足りないようで、 それだけで多くの人が 「大学へ行く」 という決定をする今現在の状況のすべてを説明できるようには到底思えませんでした。
 結局、 紆余曲折を経てなんとか今の大学に滑りこみ大学生となることができましたが、 実際に大学に入学しても、 先に挙げた問いは解決するどころか逆に分からなくなっていくようでした。 入学して間もないころ、 「多くの人々が大学に進学することを望み、 実際に入学しているということは、 大学という場所にはそれだけの魅力があるはずだ」 と思い、 同期の学生たちや先輩などの身近な人々が 「大学のどのようなところに魅力を感じているか」 をそれとなく見ていましたが、 どうやら大学生が 「魅力的」 だと考えているものは、 はじめから 「大学の中」 には存在していないのではないかという歯切れの悪い結論を導くだけに終わり、 また 「なぜ、 彼らは大学入試という (少なくとも私にとっては) 苦行に近い選抜を受けてまで 「それほど魅力的でない」 ところに入学してきたのか」 という新たな疑問も生じてきて、 先の問いの答えはますますわからなくなってしまいました。
 そんな折、 一年生の後期に履修したある授業が、 この問いを考える上で大きな転換点となりました。 その授業は 「教育学に関するテーマを自由に設定し、 それについて調べて報告する」 という、 大学ではごく一般的な 「演習」 形式の授業でした。 その中で私は先の問いを細分化し、 新入生の視点から見た 「現代日本の高等教育の問題点」 というテーマについて研究し報告することにしました。 今にして思えば、 その内容自体はおよそ 「調査報告」 とは呼べないようなものでしたが、 それでもある一つのテーマについて自ら主体的に調べ、 その成果をまとめて他者に向けて発表するという一連の流れは、 私にとってとても刺激的かつ面白いものでした。
 このときの経験が、 今の私に大きな影響を与えたと私は考えています。 先の問いについては 3 年生になった今でも解決したとはいえませんし、 そもそもこのような 「○○とは何か」 という抽象的な問いは、 はじめから一人の学生の力だけで扱えるようなものではないかもしれません。 しかし、 ある大きな問いに関して様々な側面から様々な方法でアプローチして、 細かい部分から少しずつ全体を明らかにしていこうとする試み自体はとても楽しく、 その楽しさに早い時期に気づくことができたことは非常に幸運なことでした。
 大学生活も終盤に差し掛かった今、 私は来年度卒業論文で取り扱うテーマを検討しています。 現時点では、 入学する以前から興味があった高等教育に着目した研究をしたいと考えています。 「大学生が 「高等教育」 について研究する」 というこの行為は、 構造上、 「大学生」 としての自分が今いる場所 「それ自体」 を議論の俎上に載せることを避けては通れないという非常に難しい一面を含んでいるように思われます。 この高等教育という領域がそのような難しさを含むものであるため、 これからの研究の過程で、 私は 「今いる場所」 の根本にある存在意義というべき部分までも揺るがし、 場合によってはその存在の普遍妥当性までも突き崩してしまうような成果にたどり着くことになるかもしれません。 その意味で、 一介の 「大学生」 にすぎない私が高等教育について考えるということは、 とてもスリリングかつ挑戦的な営みであると思いますが、 これまでの大学生活で得たものを十分に活かして、 このテーマの持つ困難さに臆することなく、 楽しみながら研究を進めていきたいと思っています。
   
(かとう ゆうだい 日本大学)


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