●特集U● 〜2013年公開研究会報告〜 |
教育と福祉の連携、 支援制度の改善に向けて |
米田 佐知子 |
「現在の子どもたちが置かれている経済的状況を考える」 というテーマで開かれた2013年度の公開研究会。 当日は約40名の参加があり、 会場は満席となった。 「経済的状況を考える」 という大きな括りで、 小中高の子どもたちの様子、 制度状況を分かち合うことは、 議論が散漫にならないか、 との企画段階での心配をよそに、 子どもの育ちの連続性を捉えて、 どう支えるか、 学校外のリソースといかに連携するか、 また学校内外でどのように面となって子どもを支えられるかを考える場となった。 当日の様子を、 コーディネイターの視点で切り取ってご報告したい。 まず冒頭に、 これまでの研究所の 「子どもの貧困」 に対する議論を確認した。 高校での私費負担 (教材費・PTA会費等)・授業料減免の状況には学校間格差が見られるということ。 貧困には 「経済的貧困」、 「社会関係の貧困」 の二つの課題があり、 重要なのは、 貧困は自己責任ではなく社会的構造の問題であるということである。 ■小中学校での実態と取組みに関する報告 横浜市の小中学校では、 2011年度よりスクールソーシャルワーカー (以下 「SSW」) が配置されており、 その制度と、 小中学校における経済的課題を抱える児童生徒の状況を、 横浜市教育委員会事務局東部学校教育事務所長の齋藤宗明さんに報告をいただいた。 横浜市SSWは、 以前は課題集中校配置だったものが、 現在は、 市内を 4 ブロックに分けて学校教育事務所への複数配置になっている。 教育と福祉の連携を目指したものであり、 SSWの役割は、 学校外支援資源を児童生徒へつなぐことだそうだ。 各種支援・制度をつなぐことはもちろん、 学校内キーパーソンの把握や合意形成、 教員の疲れ具合などといった学校内アセスメントと支援、 地域に対しては、 自治会など地域の人々にとって、 支援対象の子どもたちを地域の問題として認知するのではなく、 応援団に変えていくための働きかけなども行っている。 子どもは学校と家庭だけでなく、 地域で暮らしているので、 点ではなく面で支えていくために、 その調整役となるSSWが信頼を得ていくことは重要であることが、 事例などから伝わってきた。 齋藤さん自身の現場経験から、 いじめ、 暴力、 心の荒れなどの背景に、 経済的な課題、 虐待といった人間関係などの環境要因を感じることがあったという。 自己肯定感の低下や愛着形成不足の様子に、 学校だけでは抱えきれないが、 教員も一人の大人として、 子どもを受け止められる存在であることが報告された。 次に、 小中学校の就学援助の現状や課題について、 横浜市立小田小学校事務主査の内田摩衣子さんに報告いただいた。 支給基準、 支給額、 周知方法などは、 市町村ごとに定められるため、 差がある。 また、 支給基準の設定は、 生活保護基準に影響されるため、 現在国で検討されている生活保護基準の引き下げの影響を受ける恐れがあることも指摘された。 就学援助を必要とする経済困窮世帯は、 日々の暮らしに追われ余裕がないことから、 申請作業に負担感がある。 受給者は年々増加しているが、 必要な世帯が確かに申請できているかという懸念がある。 子どもの実態を身近に見ているのは、 市町村の担当よりも学校現場だが、 支給事務に学校が関与しない市町村もあり、 内田さんはその点には課題を感じている。 ■高校での実態と取組み 義務教育である小中学校から高校への進学を支える学習支援活動が広がってきているが、 高校入学後の状況はどうなっているか。 定時制高校での現状を翠嵐高校定時制教員の鳥山洋さんからご報告いただいた。 現在、 定時制高校では、 正確に把握はできないものの、 生活保護受給・経済的困窮家庭は少なくともおよそ 2 割、 また父子・母子家庭が同じくおよそ 4 割程度と考えられる。 子どもたちの状況を見ていると、 愛情面・経済面でのケア、 福祉支援、 成功体験と様々な不足があると鳥山さんは感じている。 個別の生徒の支援は、 「教育相談コーディネイター」 が担任と共に、 児童相談所や自立支援施設など公的機関とも連携をとって進められている。 鳥山さんの報告を聞いていると、 教育相談コーディネイターが、 ソーシャルワーカー的な動きをしており、 生徒と社会資源をつなぐ実質的なセーフティネットとなっていると見受けられた。 これまでは、 「中退をいかに防ぐか」 という視点の支援だったが、 昨今は 「卒業させるまで」 「卒業後をも見据えた支援」 が必要だと鳥山さんは感じ、 翠嵐高校では、 若者サポートステーションとの連携による出口支援の取組みが始まっている。 出口ということでは、 奨学金制度はどうなっているのか。 昨今、 その制度課題がマスコミ等でも指摘されているが、 学校現場で奨学金を担当する横浜桜陽高校教員の久世公孝さんから、 その様子を報告いただいた。 進学の学費として利用される奨学金の多くが、 貸付で有利子の 「日本学生支援機構」 第 2 種予約奨学金である。 第 2 種予約奨学金は、 最大で月12万円を借りることができ、 入学金に充てる入学時特別増額貸与奨学金の最大額50万円と合わせると、 4 年生大学だと卒業時後に元金626万円の借金を背負うことになる。 成績要件のある無利子の第 1 種予約奨学金の最大額 (自宅外・私立大学月 6 万 4 千円) を併用すると、 借入額は900万円を超える。 固定金利と変動金利が選べるが、 大多数の生徒が安全策として利率固定式を選択する。 当然固定金利は変動金利よりも相当に高い金利設定になっている。 ともに、 進学先在学中は無利息で貸与終了後に利率が決定されるため、 申込手続時には金利が不明となる (上限 3.0%)。 また、 「個人信用情報の取り扱いに関する同意書」 の提出が求められ、 滞納すればブラックリストに掲載にされる点は、 サラ金と変わらない。 久世さんは、 教員として生徒の支援をしているにも関わらず、 金融業者の下請けをしているような気分に陥るそうだ。 また、 申込書類には所得証明書をはじめ、 生活保護決定通知書のコピ−や障害者手帳のコピ−など重大な個人情報が含まれるが、 校内起案時にそのまま添付して回されたりするなど取り扱いが案外ずさんである。 個人情報管理の認識と体制については、 改善の必要性を感じるとのことだった。 ■教育と福祉の連携、 支援制度の改善に向けて 後半の参加者を交えた全体での話し合いでは、 教員が教科指導を越えて生徒と心の絆を結ぶことの大切さを改めて感じるという声が出された。 小中高を通じて、 経済的困窮を背景に、 自己肯定感の低下や愛着形成不足を生んでいるケースが一定数あり、 子どもは高校入学後も自分の存在を受け止めてくれる大人を求めている。 学校だけで対応することの限界、 子どもの成長に添って支援の連続性を担保するためにも、 外部連携は不可欠だ。 報告者からは、 外部連携のつなぎ役となるコーディネイターを求める声もあった。 連携は、 外だけに限らない。 学校内部でも必要だ。 特定の教員だけが支援にあたるのではなく、 子どもを取り巻く複数の教員が連携してサポートに当たることが重要との声が出された。 複数の教員が 「生徒のため」 を考えて話し合うこと、 「生徒を大事にする」 という姿勢が大切であるという指摘は、 強く印象に残った。 その一方で、 学校現場での教員の多忙さの問題をどうするのか、 時間が足りず十分な議論をしきれなかったのは残念だ。 奨学金については、 現教員は、 教員の返済免除を受けられた世代が多く、 奨学金はできるだけ借りるよう指導をしている場合が多い。 制度の現状、 問題点を明らかにし、 奨学金担当の教員が、 まず知ることの必要性が提起された。 今後の研究所の活動で取り組んでいきたい。 2013年 6 月には子どもの貧困対策法が成立した。 生保家庭の高校進学率などを指標に状況改善を図るための取組みを進めることになる。 小中学校での支援活動からバトンをつないで、 高校から就職・大学進学へと、 教育と福祉、 地域の連携で子どもたちの育ちが支えられるように、 体制や制度を見直す必要性を強く感じた公開研究会だった。 |
(よねだ さちこ 教育研究所員) |
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