●特集V● 〜2013年公開研究会報告〜
あらたな入試制度はじまる

 2013年 2 月、 神奈川の高校入試は昨年までとは大きく変わった。 新しい入試制度があきらかになった時点で、 本研究所は神奈川県教育文化研究所と共催でシンポジウムを開いた (2011年 7 月)。 そのシンポジウムにおける議論等は所報 「ねざす」 の48号にまとめてあるので参考にしていただきたい。
 神奈川の入試制度はこれまでも頻繁に変わってきた。 昨年までの入試制度は、 募集定員を分割して二回に分けておこなうものであった。 一月の前期入試では面接等と調査書の評定と記述部分を資料として選考し、 二月の後期入試では学力検査と調査書の評定を資料として選考するもであった。 この制度はそれ以前の 「複数志願」 と呼ばれる方式にかわるものとして2004年に導入されたものであった。 その 「複数志願」 方式は出願時に第一希望と第二希望の二校を出願させる方式であり、 1997年に導入されたものであった。 その前がいわゆる 「神奈川方式」 とよばれるしくみであった。 それは中学校在学中におこなう県内統一の学力テスト、 いわゆるア・テストを、 学力検査と調査書とともに選抜の資料とするものであった。 この方式は、 細かい点の変更は何度もあったが、 大枠は変わらないまま神奈川特有の入試制度として長くつづいてきたものであった。
 こうした入試制度の変遷についてここでこれ以上立ち入るつもりはない。 ただこれまでの神奈川の制度改変の流れの中に見ることができる、 いくつかの特徴的な方向だけは指摘しておきたい。 ひとつは一回の選抜の重みを和らげようとする仕掛けがあったということである。 中学時代におこなわれたア・テストを選抜資料に入れた場合もあれば、 第一、 第二希望の二校を志願させた場合、 あるいは定員を二回にわけた場合もあった。 その仕掛けが上手く機能していたかどうか、 またそうした仕掛けをつくることの是非は置いて、 受検におけるリスクを避けようとしてきたことは神奈川の入試制度のひとつの特徴であった。 二つ目は、 学力検査と調査書の評定以外の何らかの要素、 いわゆる 「学力」 以外の要素を選抜資料の中にくみこもうとする方向である。 「特記事項」 という名称で一部の受検生の特長を選抜資料の中に入れた場合もあれば、 調査書の記述部分を活用した場合、 さらには部活動の実績まで細かく点数化した場合もあった。 こうしたやり方にも様々な批判があった。 しかし、 これも神奈川の高校入試の特徴のひとつではあった。 三つ目の特徴は選考基準の透明化である。 たとえば昨年までの入試制度のもとでは、 調査書の記載事項を点数化する際の学校ごとの基準は細部にわたり公開されてきた。 学力検査の点数を簡易に知ることができるしくみも導入されて既に久しい。 いまこうしたやりかたの是非を問うことはしない。 しかし、 これまで神奈川でとられてきた入選制度を振り返ることにより、 これからのしくみを考える手がかりができればと思い、 あえてこんなことを書かせてもらった。
 おそらく新しくできた入試制度も様々な問題を抱えているだろう。 とはいえ始まったばかりである。 結論を出すには早すぎるだろう。 だが、 受検生にとってはその年の入試が一生に一度の高校入試である。 いずれ検証しますから、 といってすむものでもない。 不十分であろうとも検証はつねにおこなっていかなければならない。 そして改善すべきところがあるならば、 できるかぎり速やかに改善していかなければならない。 研究所としても検証とまではいえなくとも情報はまとめておきたい。 そういう意味でこの小規模な特集を組んでみた。 現場からみた高校入試にについて、 3人の高校教員の方に寄せていただいた。 高校現場で入試の渦中にいる立場で書くのはむずかしかったと思う。 それでも、 現場の複雑な思いを伝える文、 業者データを用いての 「特色検査」 の比重の実質的な重さと塾の役割の大きさの指摘、 クリエイティブスクールにおける 「学力」 を資料としない選抜の紹介、 それぞれに興味深い文章を寄せてもらった。 ただ、 紙幅が限られたこともあり、 筆者の意を尽くすことができない結果になったとも言える。 この点は無理を承知で企画を組んだ者の責任としてお詫びしなければならない。 そうした文章の後に2013年度入試の結果も収録しておいたので参考にしていただきたい。          
(教育研究所)
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