●特集U● 〜2013年公開研究会報告〜
「連携」 の模索
 野澤 哲也

 本年 7 月27日開催の公開研究会 「現在の子どもたちが置かれている経済的状況を考える」 に参加させていただきました。 今日は、 この研究会を通じて考えたことをお話ししたいと思います。
 私は、 弁護士を生業としており、 普段は法律の専門実務家として、 法的トラブルの交渉、 裁判などを担当しておりますが、 その傍ら、 「反貧困ネットワーク神奈川」 という団体に所属して貧困問題に取り組み、 経済的問題を抱えている方、 生活保護受給者・ホームレスの方への支援活動を行っています。 この団体は, 貧困問題に取り組む様々なNPO・市民団体・労働組合などで活動し、 あるいは、 貧困問題に関心を寄せる個人、 弁護士、 司法書士などが集まり、 人間らしい生活と労働の保障を実現し、 貧困問題を解決するために交流や連携をすることを目的として設立された団体です。 「反貧困ネットワーク」 自体は、 2008年末の年越し派遣村を契機に全国各地で活動が始まりましたが、 神奈川でも地元の事情に即した活動が必要であるため有志で立ち上がり、 4 年が経過した現在、 @毎月の定例相談会や年末等の特別相談会、 A学習会・イベント・ホームページなどを通じた社会的問題意識の喚起、 B行政等への働きかけなどの活動を行っています。
 私が今回の研究会に参加しようと思ったのは、 まさにこの貧困問題への取り組みの一環としてでした。 これまではおよそ大人の目線で貧困問題に取り組んできましたが、 ちょうど 「貧困の連鎖」 という社会問題が提起され, 子どもの貧困対策法も制定されました。 その時勢もあり、 子どもに焦点を当てて貧困問題に取り組めないかと思っていたところ、 今回の研究会の件をお聞きしました。 子どもに焦点を当ててどのような活動ができるのか、 まだ考え始めたばかりで全く内容がまとまっていない中、 まずは関係する団体などで現状を把握する必要があると考えました。 そこで、 まさに学校現場で子どもと直に接しておられる先生方の話をお聞きするべきだと思い、 今回研究会に参加させていただいたのです。
 こうして漠然とした目的で参加したのですが、 今回の研究会では多くのことを学ばせていただきました。 その成果を一言で表せば、 「連携」 の模索ということになると思います。
 今回まず勉強させていただいたのが、 子どもたちの経済的な現状です。 子どもの貧困率自体はデータで見る事ができますが、 地元神奈川における個別の具体的な数字はなかなか知る事ができませんでした。 今回お伺いしたところでは、 一つの定時制高校に限った数字ではありましたが、 生徒のうち生活保護受給家庭は全体の約12パーセントに上り、 実際生活保護は受給していないが同様の経済レベルにある家庭はそれを上回る可能性が高いということです。 母子・父子家庭が全体の 4 割以上あること、 教科書無償などの就学援助があるが修学旅行には援助がなく、 参加率が 5 割であることなどは、 子どもたちの経済状況を把握する上で、 とても有益な情報でした。 そのほか、 生徒間では男女トラブルが比較的多く、 発達障害などの医療に関わる問題や児童養護施設で生活する生徒の就職トラブルなど、 学校現場だけでは対処が難しい問題が多く発生しており、 医療や関係機関との連携サポートを模索しているというお話しがありました。 昨今大きく取り上げられるようになった奨学金の問題では、 現状では給付タイプの奨学金は多くなく、 また応募も少ないこと、 教育ローン化している日本学生支援機構は知名度が高く、 利用者も多いことなどが数字で明らかにされました。
 次に勉強させていただいたのが、 これらの経済面を中心とした課題に、 教育現場がどのように対処しようとしているかという点です。
 この点について、 教育委員会では 「福祉と教育の連携」 ということで、 学校にスクールソーシャルワーカー (SSW) を配置して、 学校と関係機関との連携・調整を図ろうとしていること、 個々の学校現場では、 外部機関である若者サポートステーションなどに協力してもらい、 担当者が学校訪問するなど独自に連携を図っていることが紹介されました。
 ここでたびたび指摘された 「連携」 こそが、 今回私が研究会に参加して最も印象に強く残ったキーワードでした。 というのも、 私のような弁護士が子どもの経済状況に対してできることは限られてくるところ、 子どもの現状を良く知る学校と協力して、 関係機関の一部として弁護士にしかできない役割で 「連携」 を図れないかと強く感じたからです。
 そもそも、 反貧困ネットワーク神奈川での活動においても、 弁護士にできることには限度があり、 貧困の主たる原因である労働問題や借金問題、 生活保護申請同行などの法的アドバイスが中心で、 医療や就業支援・住宅支援などについては医療従事者や労働組合・NPO法人に動いてもらい、 相互に連携して対応に当たっています。 子どもの経済状況への対応についても役割分担に応じて 「連携」 するというのが基本スタンスになると思います。 子どもが置かれた状況に一番近くしかも詳しいのは、 なんと言っても学校現場にいる先生方です。 しかし、 子どもが抱える問題は様々で、 経済状況といってもその内容・原因は千差万別であり、 これらの問題を先生方だけで対応するというのは到底無理は話です。 そこで、 関係者がそれぞれ自身の役割を分担して対応に当たる 「連携」 の発想が出てきます。
 具体的に言えば, まず子どもは大人と異なり、 外部との接触が限定されており、 学校現場にいなければその実態が分かりづらいという大きな特徴があると思います。 ですから、 学校の外から子どもへアプローチしようとすると、 どうしても学校や先生方を頼らざるを得ない面があります。 こうして子どもたちとの橋渡しがなされれば、 問題対応に長けたSSWや我々のような団体が直接子どもから話を聞き、 また親から話しを聞き、 その問題を分析して、 関係機関へとつないでいくことができます。 我々弁護士でいえば、 生徒が男女のトラブルを抱えていたり、 就労や借金について問題を抱えていれば、 相応の法的アドバイスが可能ですし、 親が同様の問題を抱えている場合も対応できます。 プライバシーの問題があり、 学校側がどれだけ生徒やその親の問題にまで踏み込めるか、 また外部との連携といっても特定の団体と連携することがどこまで可能かは分かりませんが、 子どもの経済問題に対応する 「連携」 の形として十分に検討に値するのではないかと今回の研究会に参加して強く認識しました。
 最後になりますが、 未来を担う大切な子どもたちが抱える問題は社会全体で対応しなくてはならないのに、 学校現場ばかりに期待と責任が集中しすぎているように感じています。 一方で、 社会には他人のために、 学校のため、 子どもたちのためにできることをしたいと思う方は数多くいらっしゃいます。 今こうして学校現場で外部の関係機関と協力して子どもの様々な問題に対応していこうとする機運が高まっていることは絶好の機会です。 是非この機会に、 「連携」 を具体的に模索していくべきだと考えます。
 
  (のざわ てつや 弁護士・「反貧困ネットワーク神奈川」)

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