●特集 V● あらたな入試制度はじまる
選考の比率と特色検査
 嘉村  均

 新入試制度についての寄稿依頼を受けた。 他の執筆者がお書きになる内容と重ならないように、 私は特色検査 (自己表現検査) を行っている学校を受検する層に関わる部分について書くことにする。

  1. 選考資料の取り扱い比率の問題
    (名目上の値と実効的な値)
     2014年度の選考基準が発表になっている。 資料の取り扱い比率は、 全日制普通科や単位制普通科においては、 第一次選考で調査書:学力検査:面接= 4 : 4 : 2 としているところが最多となっている。 いわゆるトップ校を含む進学校では 3 : 5 : 2 というところが多いし、 さらに特色検査を行うところでは特色の重みを 2 として 3 : 5 : 2 : 2 という比率としているところが多い。【1】以下、 この 3 : 5 : 2 : 2 の比率を例にとって考えていく。
     このような比率が示されれば、 受検生は、 「合否判定のために、 それぞれの資料が 3 : 5 : 2 : 2 の割合で効いてくる」 のだと受け取るだろう。 実際、 選考資料を総合したS値は各資料がこの割合で換算・合算され1200点満点の数値となったものであるから、 名目上はその通りである。

    評定・学検模試・特色模試の数値分布
     しかし、 実際のS値には、 各資料はどのような値の幅をもって反映されるのだろうか。 左に示した図は大手塾の一つが公表している2013年 3 月に新中 3 生を対象として行った模試のデータである。 特色検査 (自己表現検査−ペーパーテスト) を行う学校を受けようとしてこの模試を受ける生徒は学力上位層であって、 評定は上位に集中して分布しているし、 共通学力検査問題に対応している学力検査模擬テストの成績も高得点の部分に分布している。 ところがこの同じ集団の中 3 生が特色検査模試を受けると、 その結果は大きくばらけたものとなっている。
     架空の議論だが、 左のデータを、 そのまま実際の選考の場面のものと想定してみよう。 この集団の生徒たちが 1 科目 100点で 5 科目500点の学力試験を受けると、 その得点はおおむね 250点から450点の間に分布することになる。 全受検生の大失敗から大成功までの幅が200点ということで、 学力検査の比率は 5 だからこれは1200点に対してそのまま200点の幅として効いてくるということである。

    特色検査模試問題は難しい?
     学検模試に対し、 特色模試の得点は 0 点から100点の全域に分布している。 これをざっくりと15点から90点の範囲に多いと見よう。 学検と同じく大失敗から大成功まで (あるいはそのタイプの検査が苦手か得意か) の幅が75点となる。 これが比率 2 で取り扱われると1200点に対して150点の幅として効いてくることになる。 つまり、 この見方においては、 学検と特色の実効比率は200 : 150= 4 : 3 となってしまう。
     入試というのは受検する側から見れば受検した集団の中での順位争いだから、 「評定は27から135まで」 とか 「学検は 0 点から500点まで」 と言ってみてもあまり意味はない。 受検生中の順位争い (=S値争い) において、 評定・学検・面接・特色のそれぞれの資料の値の増減が順位変動に対してどのように効くのか。 ここでは立ち入って検討する紙幅はないが、 考えてみる必要がある。
  2. 塾の大きな存在感
     横浜市内旧 6 学区のいわゆるトップ校 (翠嵐、 緑ケ丘、 光陵、 希望ケ丘、 柏陽、 川和) に2013年度一般募集共通選抜で合格した人数は合計で1,775名である。【3】これに対し、 県内大手 4 進学塾 (ステップ、 湘南ゼミナール、 臨海セミナー、 中萬学院) が公表している、 それぞれの塾生のうちこの 6 校に合格した人数を合計すると1,341名になる。【4】この数字を重複者なしとして信頼すれば、 4 塾出身者による占有率は76%となる。【5】【6】
     言うまでもなく、 現在では学区が撤廃されて多くの高校が志願先としての検討対象になっており、 なおかつ入試が複雑化した状況にある。 その中で、 「行き先を選べる層」 の受検生が情報を集めて 「自分に合った」 学校を見定め、 方向性を確かめてモチベーションを保ちながら勉強し、 場合によっては特色検査も含めて対策を立てて出願し合格していくために大手の塾の指導を受けるのが常道となっている現状が、 このような数字から見て取れる。
【注】
【1】神奈川県のウェブページ
http://www.pref.kanagawa.jp/uploaded/attachment/603108.pdf 2013年8月26日閲覧
【2】湘南ゼミナールのウェブページ
http://www.shozemi.com/13tokushoku/explain31.html 2013年8月25日閲覧
【3】神奈川県のウェブページ
http://www.pref.kanagawa.jp/uploaded/attachment/552769.pdf 2013年8月26日閲覧
【4】ステップのウェブページ
http://www.stepnet.co.jp/beginner/pass-compare13.html 2013年8月25日閲覧
【5】この占有率は6校全体の平均であって、 昨年度まで独自入試を行っていた学校および今年度特色検査を行った学校では占有率が高い傾向にある。
【6】もちろん、 この他に、 中小規模の塾へ通っていた者もいるはずである。
     
  (かむら ひとし 希望ヶ丘高等学校)

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