●特集 V● あらたな入試制度はじまる
新入試制度雑感
 五十嵐 雅美

 新しい入試制度もやがては制度疲労をおこす。 ベストの入試制度などはない。 ただ、 飛び立った直後に亀裂が入ったら風にも乗れないことになる。 検証は早いうちがよい。 あらかたの視点は今までの議論で出尽くしたので、 若干の雑感を述べたい。
 改革入試の初年度なのだから不備はある。 そのマイナスを差し引いても今回の方向性の方がよいのは、 前後期入試の制度疲労が目につき過ぎたからだ。 高総検で 「一刻二制度」 (前後期に分けずに一度にやる、 評価方法は複数あっても良い) と言い始めたのは、 何よりも、 長期間にわたる入試が中高双方に引き起こした生徒への皺寄せに抗するため。 高校は在校生を学年末に向けてゆとりを持って面倒を見られない。 中学は進路先が決まったものと決まらない生徒の混在した時期が長すぎ、 一丸となって卒業までいけないという状況を構造的に作った点が、 ひどかった。 選択の機会が増えるのだから、 というのも時流を掬ったくすぐり文句のように響いた。 受け入れる人数は、 ほぼ同じなのだから前期で早めに決まるか、 決めたいかであって、 見かけ倍率は高くなり、 なぜ落とされるのかもわからないという 「もやもや」 は最後までつきまとった。 やがて後期一本で行く生徒も増えた。 自嘲的に自分は前期合格だから、 成績は悪いという生徒もいた。 各高校が用意する選抜資料はかなりの厚さになるのに、 分かりづらい入試の制度は、 保護者にも不安を呼んだ。 経済的には大変だが私立に逃げるのは、 分かり易いからだという声もあった。
 翻って今回の入試はどうだったか?初年度なのだから、 当然のように分かりやすくはない。 全員に課されることで問題になった面接に関しては、 本人を見てもらいたいという保護者や中学担任などの願望もある。 評価については、 当日の評価者の持ち点や項目で改善はされてはいたが、 精度を上げても正直難しい。 2 割の面接の 1 点が調査書、 入試教科の点数との比率で重すぎないか、 さらに検討が必要だ。 面接でひっくり返る要素があるとしたら、 それはそれで点数による輪切りに風穴を開けるという働きもすると言うこともできるだろう。 逆に学力重視の傾向に拍車がかかりすぎるのも問題だろう。
  「一回の選抜の重みを和らげようとする仕掛け」 が神奈川の入試の歴史の中にあるのだとすれば、 当日の筆記試験だけに重荷を負わせずに、 調査書も、 そして面接において本人の意欲も見ようという盛りだくさんなメニューは、 それぞれが安全弁だ。 中学の成績、 記述試験と面接試験がどのような比率で組み合わされるかで、 学校の顔が見えるが、 5 : 3 : 2 だろうが 4 : 4 : 2 だろうが、 3 : 5 : 2 だろうが比率からすれば実は、 中学校で積み上げているものをかなり尊重している気がする。 学業重視に潮目が変わったとはいうが、 主体的な 「学び」 はどんな状況であれ続いているもので、 入試が変わったから学びが変わるというほど単純では無い。 「部活動」 も 「委員会活動」 も点数の為にやるもので無い、 やる喜びはどこかに出る。
 その他問題としてあげられる数多くのこと。 日程の長さの影響。 テスト問題自体、 更に解答方法などの不備。 土曜日を使っての採点、 夜遅くまでの採点、 その回復措置を取れなかった学校現場。 言い出したらまだまだ切りが無いが、当局は早急に対応すべきだ。
 現任校は、 今年度学級増になった。 中学卒業者の人数が微増しているからだが、 本校を含め川崎北部は定員に満たなかった高校が数校ある。 もともと定員より少し多い位の倍率なのに学級増になれば定員も欠けよう。 二月の試験では全員が合格になった。 これでいいのか、 と言う声もある。 だが我々は選抜することに慣らされ過ぎているのではないか、 という思いを抱く。 教育を受けたいと希望する全ての人に門戸を広げる取り組みを進めてきたはずが、 未だになされていない。 開門率も低いままだ。 ア・テスト (統一テスト) も無くなり、 学区も無くなった。 隣の町とのア・テストの結果比較は恐ろしかった。 教育環境の違いが成績に影を落としていた。 ア・テスト等が残って、 学区が無くなったら、 偏差値による輪切りはもっと進んだのではないか。 学区が無くなる時に、 選択の自由の確保とか言われたが、 行きたい学校へ行ける子どもは選べる子ども達だ。 行きたい学校が目の前にあるのに急に行けなくなる。 旧他学区からの流入に翻弄される。 あげく、 自分の行きたい学校は、 口にだせず心の唇をかんで遠くに通う子どもはいるのではないか。 最初から定時制 (多分夜間に限らず) という子が増えていると中学の担任から聞いた。 学びの復権の問題はあるが、 特色と魅力のある多様な高校の一つとしての定時制通信制を選ばせる前に、 やれることはあるのではないか。 定通の分割選抜の枠の割合を広げるのかどうか、 定通に皺寄せが行っている問題や、 学区の影響の問題は新たな選抜制度の裏に隠れて見えにくいが注視しておかねばならない。
     
  (いがらし まさみ 菅高等学校)

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