学校から・学校へ ([)

多文化学習活動センター (CEMLA) の取り組み

高橋 清樹

  1. 多様化する外国につながる子どもたち
     「日本語が話せない日本人」 という子どもが日本の学校で学んでいる。 そういう子どもの存在の背景を考えてみたい。 日本人という定義はなんだろう。 お役所的には日本国籍を有する者となる。 日系ブラジル人は日本人だろうか、 ブラジル人だろうか。 やはりお役所的には日本国籍を有すれば日本人である。 しかし、 ブラジル系日本人と呼ぶ日本人は皆無である。
     フィリピンからは、 日本人を父親に持つ子どもと母親が多数来日している。 来日待ちの親子も多いという。 日本の国籍法によれば、 父親が誕生前に認知しているか、 生後認知し母親と婚姻関係にあれば、 子どもの日本国籍は認められる。 数年前、 婚姻関係になくとも生後DNA鑑定での親子関係認められれば、 日本国籍を有するべき、 という現国籍法に対する違憲判決が最高裁から出ている。 それを拠り所に日本人として来日を待っている、 親子は 1 万組とも言われている。
     「見えない子どもたち」 という言葉も最近話題になっている。 名前も漢字で、 顔も日本人と変わらない。 日本生まれで、 普通に日本語を話す。 何かのきっかけで母親が外国人であることを知る。 どうも成績が思わしくない。 でも特別に何かする必要も感じない。 日本生まれなんだから…そうだろうか!
     私を含め、 周辺で支援に関わっている者たちの間では、 もっぱら 「外国につながる子どもたち」 という言葉を使っている。 国籍に依らず、 海外での生活経験や親のルーツなど、 幅広い意味で、 「外国につながっている」 ことを表している。 「ニューカマー」 「オールドカマー」 などという言葉を使っていた時期もあった。 関西では今も 「新渡日」 という言葉を使っている。 かつて中国残留孤児として日本に戻ってきた帰国 1 世も70代80代の方が多くなり、 その 2 世、 3 世、 あるいは 4 世も誕生している。 難民として日本に入国し、 日本で暮らす定住難民の人たちも 2 世や 3 世となっている。 いつまでも 「ニューカマー」 ではあり得ない。
     「外国につながる子どもたち」 は多くの学校に在籍している。 神奈川県の公立高校では、 「在日外国人生徒」 という名の調査で1,120名に達している。 (2013年度県教委調査、 通信制を除く) 国籍を問わず、 「外国につながる子どもたち」 は、 その倍以上になると考えられている。 100人に 3 人、 1 クラスに 1 人以上はいる計算となる。
  2. 「多文化学習活動センター」 CEMLA(セムラ)
     ひょんなことからこの取り組みに関わる事になった。 「外国につながる子ども」 の学習や相談に応じるためのセンターである。 CEMLAとは、 Center for Multicultural Learning & Activitiesの頭文字で、 「多文化学習活動センター」 の意味。 「世界の村」 をもじって、 セムラと呼んでいる。
     現在はなくなってしまったが県教育委員会のE−提案事業に採択された 3 年期限の事業で、 終了後は県に運営を移管することも提案した。 しかし、 新磯高校での提案から始まった事業が、 再編統合で相模原青陵高校に引き継がれ、 今も相模原青陵高校が運営の主体を担っている。 1 高校でできうる事業か?との自問自答も続けている。
     高校が 「外国につながる子どもたち」 (主に地域に在住する中学生・高校生) を対象とした学習活動センターを運営していることは、 全国的に見ても希有である。 ただ、 現在はNPO法人との連携で運営が成り立っている。
  3. なぜ、 「多文化学習活動センター」 が必要なのか。
     前述のように多様な 「外国につながる子どもたち」 が多くの学校で学んでいるが、 その多様性に対応しきれない学校がほとんどである。 それは、 制度的にも、 教員の経験不足からも、 日本社会の無理解からも…
     ある中学の国際教室担当だった先生が、 在籍する 「外国につながる子どもたち」 と懸命に関わりながらも、 結果として学習意欲をそがれていく子どもたちを見て、 自らの経験を語ってくれた。 子どもたちはいきなり日本に来て、 ぽーんと教室に入れられ、 週半日程度の日本語学習以外、 日本語の分からない世界に捨て置かれ、 つらい日々を過ごす。 多くの教員は、 そうした子どもたちに対して、 少しでも分かってもらおうという工夫をしない。 「その子に合わせると多くの生徒の妨げになる。」 「日本語が分からないんだからしょうがない」 「きちんと制度がないんだから、 どうしようもない」 …と学習意欲をスポイルしていく。
     CEMLAにやっている子どもたちは、 最初重い足を引きずってくる。 学習意欲もなく、 元気もない。 でもCEMLAには出会いが待っている。 自分と同じルーツを持つ子どもやお兄さん、 お姉さんとの出会いは、 凍えた気持ちをゆっくり溶かし温めていく。
  4. CEMLAのこれから
     CEMLAは毎週土曜日の午前中、 相模女子大学の構内で学習活動センターを開いている。 学習に来る子どもたちは現在20人ほど。 大学生ボランティアが日本語や教科学習の指導し、 NPOのスタッフや相模原青陵高校の教員がアドバイスする。 大学生やスタッフの中には、 外国につながる若者もいる。 また、 退職教員もいる。
     CEMLAの存続は、 1 高校の運営では難しい。 NPOを中心としたボランティアスタッフが必要である。 特に教科指導をアドバイスする教職経験者が必要になっている。
     CEMLAを支える学びのノウハウの一つは、 日本生まれの子どもたちへの 「学び直し」。 もう一つは、 日本語教育を意識した分かりやすい教科指導である。
     この 2 つのノウハウは、 広く日本の子どもたちにも有効であるはずだ。
                   
  (たかはし せいじゅ 相模原青陵高等学校)

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