教育をめぐるこの1年
新聞報道を通して(2012.4~2013.3)
 
 誌面の都合上いくつかの項目にまとめて1年を振り返った。 どの新聞にも取り上げられた内容は特に出典を示さず、 日付のみ示した。 特集や出典を明示した方が良いと思われる記事のみ、 朝日新聞:A、 神奈川新聞:K、 産経新聞:S、 毎日新聞:M、 読売新聞:Y、 で示した。
 
  1. 東日本大震災をめぐって
     3・11から 2 年。 県内の高校や中学単位での 「支援」、 個人参加中心のボランティアが続けられている (Y5 /20、 K7 /26、 A7 /27等)。 また文部科学省が作成した小中高対象の副読本をめぐって、 原発事故への言及がないなど問題が指摘され (K6 /19)、 「原子力教育支援事業」 そのものを見直す意向を政府も表明 (A 6 /20)。


  2. いじめ・自殺問題
     滋賀県大津市で 1 昨年10月、 市立中学 2 年の男子生徒が自殺。 自殺直後の全校アンケートで 「自殺練習をさせられていた」 「暴力」 「葬式ごっこ」 「先生も見て見ぬふり」 などを多数の生徒から指摘されていたにも関わらず市教委は公表せず、 調査を打ち切った。 その後両親が大津市と加害生徒 3 名と保護者を相手取り提訴。 5 月の第 1 回口頭弁論で、 市はいじめがあったことは認めたが、 「いじめを苦にしての自殺と断じることはできない」 としたことなどが表面化 (7 / 4)。 滋賀県警も本格捜査に乗り出し、 中学と市教委の捜索に入った (7 /11)。 大津市は尾木直樹氏を含む 6 名の第三者委員会を設置 (8 /25)、 多数の生徒たちから詳細な聞き取りを実施、 報告書を市長に提出。 「いじめが自殺の直接的要因」 と結論付け、 また子どもが救済を訴えられる外部機関の常設を提言 (1 /31)。 また 「教師が多忙になっていることが当面の克服すべき課題と指摘」 (M2 / 2社説)。
     文部科学省は、 問題行動調査から、 いじめは全国で 7 万件を超え 「深刻な状況が続いている」 として、 各地に専門家の支援チームを設置するなどの対策に乗り出した (9 /12)。 県内でのいじめは、 県教委の調査では、 2011年度4283件。 前年度より219件減 (9 /12)。 地域との連携に課題が残ったと県の担当者 (A9 /12)、 また潜在化を懸念する現場の声もある (K 9 /12)

  3. 体罰・自殺問題
     2012年12月23日自宅で自殺した大阪市立桜宮高校のバスケットボール部キャップテンの男子生徒が、 キャップテン就任後集中的に体罰を受けており、 その前日も部顧問から体罰を受けていた (1 / 8)。 桜宮高校はバスケの強豪校で、 顧問による体罰は常態化しており (1 / 9)、 この顧問が同校に19年在任していたことも判明 (1 /11)。 橋下大阪市長は 「部活動の体罰一切禁止」 (1 /15) を表明、 同校の体育科とスポーツ健康学科の入試中止を求め、 入試を実施するならば予算執行を認めない、 全教員を移動させよと要求 (1 /18)。 市教委は体育系 2 学科の入試中止、 普通科で同数を受け入れ、 受験科目は変えないという折衷案を提示。 在校生や保護者らが市役所前で入試中止反対集会を開いた (1 /22)。 当該顧問には懲戒免職の処分が下された (2 /13)。 また駅伝の強豪校の愛知県立豊川工業高校での体罰がくり返されていたことが判明(1 /26)。 体罰が原因で 2 人が転校・退学をしていた (1 /27)。
     神奈川県内でも体罰に関する緊急調査が行われ、 体罰を受けた児童・生徒が57人、 「した」 教職員70名の教職員が申告、 県教委は具体的な調査に入った (3 / 2)。


  4. 大阪の 「教育改革」、 高校教科書 (検定・東京、 横浜の採択問題)・安倍政権の教育政策
     大阪市では市長に教委と協議して教育振興基本計画を作成する権限を与える内容を含む 「教育行政基本条例」 及び職員の評価に相対評価を導入し、 最低ランクが 2 年連続で続き、 研修などで 「改善」 が認められない場合は免職を含めた処分対象とする 「職員基本条例」 が議会を通過した (5 /21)
      「国旗掲揚や国歌斉唱」 の自治体職員への 「強制」 を取り上げた高校教科書が検定を合格したことを非難する論説 (S4 /13) 記事が、 都立高校で採択に向けた参考資料として校長に配布された。 横浜市立高校では、 「つくる会系教科書」 登場について 「アジア諸国から強い批判が起こった」 という記載のある日本史教科書使用希望が、 市立高校 9 校の内 4 校からあがっていたにもかかわらず、 横浜市教委は、 会議資料作成の段階で学校から上がった教科書以外の他社を希望している形の資料を作成し、 教育委員会は事務方が作成した資料に記載された教科書を採択した。 理由は 「(中学校でつくる会系を学んでおり)、 嫌な思いをする生徒もいるのではないか」 といった意見が市教科書取扱審議会で出たためとされている (A 8/29)。 また横浜市の副教材 (『わかるヨコハマ』)) の関東大震災直後の記述で、 「軍隊や警察なども」 「朝鮮人に対する迫害と虐殺を行い」 と改訂したことについて、 教育長がこの副教材の回収と、 再改訂・配布を議会で答弁 (A8 /16)。 さらにこの書き換えの事務手続きをめぐって当該職員の処分が行われた (S9/29)。 これに対して、 「研究者らから抗議」 (K12/30) や、 「政治介入を断固許すな」 (K社説1/15) などの批判の声があがっている。
     自民党は、 10月教育再生実行本部を立ち上げ、 11月に中間報告を発表 (A11/ 1)。 衆議院選挙の公約に 「教科書検定・採択制度の改革」、 特に 「近隣諸国条項の見直し」 等が明記された。 12月成立した安倍政権では自民党教育再生実行本部長であった下村成文氏が文科大臣に、 義家弘介氏が文科政務官に就任。 首相直属機関として 「教育再生実行会議」 が立ち上げられ、 メンバーに育鵬社教科書の執筆者・日本教育再生機構理事の八木秀次氏、 作家の曽野綾子氏などが就任。 2/26には早くも 「いじめと体罰」 に関する第一次提言をまとめた。 提言は 「道徳の教科化」 に始まる五項目からなる (2 /26)。 2013年 4 月14日には 「教育委員会制度の在り方について」 (第二次提言) が提出されるなど (4 /15)、 早いペースで審議が進められている。 また第 7 期中央教育審議会 (文科相の諮問機関) の委員30人を任命した。 ジャーナリストの櫻井よし子氏ら14人が新たに選ばれた (2 /16)。
     一方文部科学省は、 費用対効果を疑問視する財務当局の反対が強かった、 公立小中学校全学年に少人数学級 (最大を35人に) 導入する計画について断念をした(1 /26)。


  5. 新入試・定員
     公立全日制の定員は卒業予定者の 6 割という公私間の取り決めにより、 公立全日制を希望しながら公立全日制に進学できない生徒が多数いるという実態を踏まえ、 2013年度入試で公立高校全日制の定員を1150人増やすことを決定 (9/11)。 一方、 受検機会を1回とし、 全校で学力検査と面接を課すという新たな入試制度が2013年度入試 (2013年 2 月実施) から導入されることに伴い、 選考基準を各校が公表。 調査書と学力の配点比重は、 等分が5割と最多、 特定の科目の比重を高める 「重点化」 は21校、 論述などの自己表現の特色検査は全日制18校で実施(6/18)。 全員に課せられることになった面接や学力検査への対応に中学校の現場や塾が追われている (A2/7)、 また地域住民に模擬面接の面接官や学力検査対策の補講を依頼しているケースもある (K1/24 2/7)。 実際の2013年度入試では、 志願の偏りが顕著であったにもかかわらず、 志願変更が少なく、 全日制19校で定員割れが生じ、 そのうち13校が普通科という 異変 が起こった。 さらに当日欠席等等もあり、 2 次募集が23校180人となった。 新制度の 「特色検査」 や 「志望理由」 書き換えの負担など定員割れの理由の分析 (3/27A) も行われている。
     また新制度ではボランティア歴などを入試で加算しなくなったことを受けて、 「中学生ボランティア激減」 と、 半減や1/3に激減している様子を秦野市立東中学校の生徒会が学校新聞で報じている (A3/2)


  6. 高校無償化、 補助金問題
     安倍政権の下村文科大臣は、 懸案となっていた朝鮮学校へ授業料無償化をしないと発表 (12/28)。 根拠となる省令の項目を削除し、 次年度予算から外した (2 /20)。 神奈川朝鮮学園側は 「生徒傷つける決定」 と強く抗議 (K12/29)。 無償化問題は自治体の補助金支給に波及し、 全国的にも 7 都道府県で13年度の補助金の予算化が見送られる事態になっており、 「民族差別」 であるとの批判の声もあがっている (A2 /19)。 また神奈川県は、 朝鮮学園への補助金支給をいったん決定 (1 / 9)。 その後 2/12の北朝鮮の核実験強行を受け、 「県民の理解が得られない」 と、 黒岩知事が補助金計上を見送ることを決定 (2 /13)。 神奈川県内では補助金打ち切りに抗議する 「県民会議」 が立ち上げられ、 批判も高まっている (2 /22)。


  7. 早期退職問題
     国家公務員の退職金引き下げに準じて自治体の退職金が、 2 月 1 日乃至は 3 月 1 日から引き下げられることになった府県で早期退職希望者が出た (1 /22)。 文科相が 「許されない」 と発言 (1 /25)、 メディアでも 「子より金 信じたくない 保護者」 発言の紹介 (A1 /28) など、 教員の早期退職への批判の紹介が続いたが、 「職業上の倫理と、 個人の生活設計のはざまに先生を立たせたこと。 その酷薄さを感じている」 (A 2 /16さいたま総局記者署名記事) など、 論調が変化していった。 神奈川県では最終的に合計23名、 うち 7 人の教員が2月末に早期退職 (2/17)。


  8. 不起立情報収集をめぐる裁判
     県教育委員会が入学式や卒業式の君が代斉唱時に起立しなかった教職員の氏名を情報収集したのは,県個人情報保護条例に違反するとして、 教職員25人が県に情報の削除を求めた訴訟の高裁控訴審判決が出された。 内容は一審横浜地裁判決を支持し、 控訴は棄却された。 一審で 「不起立情報は個人の思想信条に当たる」 と認められていた部分について、 高裁判決では 「個人情報には該当しない」 と判断。 大竹裁判長は 「不起立の行為自体が、 歴史観などに直接結びついているとはいえず、 その動機などが分からなければ,思想を表しているとはいえない」 と結論づけた。 原告は上告 (K7 /19)。 最高裁は2013年 4 月17日、 上告を棄却する決定をし、 原告敗訴が確定 (2013.4 /20)。

  9. その他
     3 大学の新設認可をめぐって田中真紀子文科大臣が 「認可しない」 と発言 (11/3)。 その後一転認可となったが (11/8)、 18歳人口が減り続ける中で大学の新設が続く現状へ 「投じた一石、 どう反映」 (K11/9) と、 「大学設置認可制度を見直す有識者会議」 の検討も始まった(11/9)。
     理科を加えた 「全国学力・学習状況調査」 が実施され、 参加は 8 割 (4 /18)。 結果は 「県別順位固定化の方向 (A8 / 9)、 「中学で 『理科離れ』 鮮明」 (M8 / 9) 「知識活用、 記述力に課題」 (K8 / 9)、 「小数のかけ算、 割り算の深刻な課題が明らかに」 (Y9 /20) などの問題点が指摘された。


   (文責 県民図書室 樋浦敬子)

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