海外の教育事情 (15) |
アメリカ・イギリスの新聞記事を読む |
記事紹介:山梨 彰 論評:佐々木 賢 |
突然変異の蝶が福島のあちこちに(The Times 2012.8.14) より 目は奇怪にへこみ、 脚は縮み、 羽には奇妙な斑点がある。 多くは不妊で、 幼虫の突然変異は親虫よりも甚だしい。 昆虫であるが、 日本の原発事故の知られざる被害者からの警告である。 日本の生物学者の調査が、 福島第一原発のメルトダウン事故による蝶のヤマトシジミの身体と遺伝子への破壊的な影響を明らかにした。 芋虫の時に放射線に曝されたヤマトシジミは、 子の世代だけでなく孫の世代も影響を受け、 異常発生率は世代経過とともに増加するというのが調査の結論である。 被曝した人間についてはまだ不明だが、 この発見は、 放射線による損傷がどのように生物の世代間に引き継がれるかを示した。 「福島第一原発からの人工的な放射性核種によってこの蝶に生理学上かつ遺伝子上の損傷が起きたと結論する。 しかし、 起きたこと、 起きていることの正確な情報は今後確証されるべきだ。 情報がないと生体への生物学的な影響が非常に心配だ。 生態系に長期的な破壊をもたらし、 慢性的な病を引き起こしかねないからだ。」 と琉球大学チームの報告書はいう。 昨年の 3 月11日の核燃料のメルトダウンから 2 ヶ月後に、 生物学者はヤマトシジミを福島第一原発から45㎞から69㎞の間で採集した。 住民は半径20㎞圏外に避難していたので、 蝶は人が多く住む地域で採集されたということだ。 異常が見られたヤマトシジミは12%で、 芋虫の時に被曝していた。 この割合は第二世代で18%、 第三世代で34%に上がった。 昨年 9 月に 2 回目の標本を採集したら、 異常発生率は第一世代で28%、 第二世代では52%だった。 何匹かのメスは不妊であった。 欠損や皺や小型化や不規則な斑点や色がある羽、 脚や触角や目や腹部の奇形という異常が見られた。 「この個体群には生理学的かつ遺伝子的な悪化が見られる」 と、 英国の科学雑誌 『ネイチャー』 ウェッブ版は述べた。 大瀧丈二琉球大准教授は、 「生物学者には、 人への遺伝子的な影響は分からないが、 高齢者は問題ないにしても、 深刻なのは子どもや幼児である」 という。 教育水準局の規制で失敗校が倍増(Dairy Mail 2012.9.15) より 教育水準局が 「基本に戻る」 という新方針に転換し、 失敗校と判定された学校は倍増した。 成績不良の学校への規制が強まり、 多くが 「不適切」 と判定された。 査察官から改善を要求された学校は成績水準を上げるため、 地方教育局の下を離れ、 外部の民間会社によって運営される。 2012年前半期に3,550校の公立学校が査察され、 「良好」 以下の判定が40%あった。 内訳は、 約 9 % (335校) が 「不適切」、 31% (1,104校) が改善が必要な 「満足」 だった。 この結果は、 旧制度による昨年の同時期と対照的で、 昨年は、 3,363校の内 「不適切」 は4.5%だけであり (153校)、 「満足」 は38.8% (1,306校) だった。 今期からは 「良好」 が最低限必要となる。 「満足」 は改善が不十分として、 「改善要請」 に名称を変える。 「良好」 は昨年前半期の45.4% (1,527校) から、 2012年前半期は51% (1,804校) に増えたが、 「優秀」 は、 11.2% (377校) から 9 % (307校) に減った。 教育水準局の厳しい新制度によって、 改善不足の校長が評価を上げるために、 生徒の健康や精神的成長や集団への帰属という点に努力を傾けられなくなった。 判定基準の重点が、 教師の教え方、 生徒の成績と素行とリーダーシップという 4 つになったからだ。 「不適切」 校が増えたのは、 「教え方と学習」 を重視する新制度のためともいわれる。 教育水準局の新局長は、 「基準を上げる」 ためにさらに多くの改革を行うという。 旧制度で 「満足」 だった学校が自動的に 「改善要請」 になるわけではないが、 2013~14年末までに再査察があり、 その時は評価を上げなければならない。 新局長は、 「査察は、 成績を向上させるには決定的だ。 改善が必要との判定が刺激になり変わっていく場合が多い」 と述べた。 教育相は失敗校の再編を加速する態勢 反対派の改革妨害を法律で阻止(The Times 2012.10.23) より 教育相は、 アカデミー校改革への妨害に苛立ち、 失敗校の再編を速める新しい法律を制定し、 成績不良校の管理方法を変える権限を速く行使したいと考えている。 これは大きな議論を呼ぶだろう。 なぜならすでに教育相は、 地方教育局を弱体化し政府に権限を集中して、 イングランドの教育組織を集権化しているという非難を浴びているからだ。 主に小規模で管理能力が低いとされた小学校が再編の対象だ。 テスト成績が悪い220校以上の小学校がアカデミーに変えられ、 500校が政府の支援が必要と認定された。 多くは地方教育局の援助でアカデミーに変わる予定だが、 教育相は、 地方議会、 労働組合、 運動家などの妨害があると、 不快感を高めてきた。 北ロンドンのある都市の小学校 4 校のうちの 1 校がアカデミーへの再編を強制されたが、 親、 労働組合、 運動家が数ヶ月も遅らせている。 ここは、 労働党の影響下にある自治区だが、 再編への反対は党を問わない。 労働党の影響下にある他の都市の当局は再編に協力的だが、 保守党の影響下の都市では再編が遅れている。 新法によって 「アカデミー命令」 が可能になる。 これは、 成績不良校をアカデミーにする命令だが、 教育水準局が学校に改革の実行を命令する。 教育相は地方教育局に通知を出すようにと指示できる。 しかし地方教育局は協議中とか、 改善中とか、 手続きがあるとかを装って引き延ばすので、 教育相は厳格な期限を設けるつもりだ。 再編で一度解雇された職員が同じ給料と労働条件でアカデミーに再雇用されることが多いので、 教育相は学校を雇用法の除外対象にするつもりである。 これは新たな問題になりそうだ。 なぜなら雇用法によれば、 アカデミーが職員の給料や勤務条件を変えるには協議が必要だからである。 アカデミーとは、 国家財政で設立された学校であるが、 カリュキュラムや授業日や雇用条件についてかなり自律性を持ち、 外部の民間の運営会社の下にある場合が多い。 失業世代 100万人の若者が失業、 経済成長を断念した銀行、最大の脅威はユーロの負債(Times.2011. 9. 2) より 経済成長の見通しが急に悪化し、 不景気警報が出され、 若者の失業数が初めて100万人になった。 イングランド銀行のキング総裁は経済が健全化するためには 「長く厳しい」 道があると警告した。 統計上明らかになったことは 5 つある。
多くの家族の生計が厳しいので、 蔵相は、 福祉予算の15億ポンド (2141億2027万円) を崩して、 1 月予定の石油税の 3 ペンス (4.3円) 上昇を抑えるつもりだ。 物価上昇率が下落しそうなので、 年金を除く補助金を増やさない。 キング総裁は、 2012年半ばまで 「経済不況」 が続き、 新たな通貨の量的緩和を考えている。 通貨量が四半期別国民所得速報値で750億ポンド (10兆 7 千億円) 拡大し、 年総額が2750億ポンド (39兆 2 千億円) になるかもしれない。 労働党は、 低成長と高失業率のため政府は1,000億ポンド (14兆 3 千億円) を更に借金し、 次の総選挙までに負債を減らすという蔵相の目標は疑問という。 教育相の予算半減で1000人が失職(Times 2012.11.14) より 教育省は、 運営費を半減にする根本的に新しい施策を実行するようだ。 教育省の 1/4 をしめるおよそ1,000人が、 優先的な業務に絞る規模縮小によって、 今後 2 年間で余剰人員になる。 残る職員の 1/3 も時期限定のプロジェクトに配置転換されそうである。 これにより 「相当な」 量の仕事が中止になる。 教育相が教育省の再編のために 「白紙」 からの見直しを命じたからだ。 提案をまとめたのは、 教育省事務次官とベインアンドカンパニーの経営コンサルタントである。 それによると、 意思決定が 「遅すぎ、 煩雑」 で、 関わる人間が多すぎて、 その役割分担も不明で、 重複した仕事も多く、 優先順位を無視した仕事ぶりだという。 残る職員には高い能力が求められるし、 能力の低い者は 「速やかに業務から外される」。 教育相は教育資源をアカデミー校やフリースクールの支援に集中するように命じたため、 子ども支援事業がさらになくなるかもしれない。 子ども・青年・家庭庁の職員の仕事も柔軟にし、 教育省内をプロジェクト毎に異動すべきだと提案はいう。 さらに、 2015年 3 月までに全学校の 1/4 がアカデミー校かフリースクールになると予測し、 教育省がこの動向を管理し、 アカデミー校を支援する方法を考えねばならないという。 また、 人件費、 IT関係費、 地代、 利子が平均以上で諸経費が高すぎるので、 教育省の 6 つの地方事務所は閉鎖し、 教育省本体も2017年までにロンドン中心部の本部から 「地価の安い場所」 に移す。 首相の政治アドバイザーは政府の行政業務の大きな部分は外部委託するか、 やめるべきだと提案したが、 教育相は教育省をその計画の実験台にしてもよいという。 2010年に蔵相が発表した支出削減によって、 今期の議会の閉会までに全官庁の行政予算は約33%削減されるだろう。 教育相は、 行政費を2015年までに42%削減から、 2016年までに50%削減へと目標を拡大した。 労働組合は削減の規模に 「深く憂慮し、 教育省は業務をなくす分野をはっきりさせる必要がある」 という。 教育省筋は、 「今後は官僚的な煩雑さをなくし、 最も優先度の高い仕事に時間と予算を集中するよう職員に目標設定させる」 と述べた。 【論評】
注 【1】琉球大学理学部生物系大瀧研究室HP 【2】上杉隆 『ジャーナリズム崩壊』 冬幻社。 【3】毎日新聞13.2.25 【4】ロンドンには自治区が33あるがその中の一つハリンゲイは労働者の多い人口30万の区 【5】テレビ朝日ニュースの深層13.2.6放映、 今野晴貴解説 【6】朝日新聞13.3.20 【7】朝日新聞13.3.22 【8】ロンドン・タイムズ11.11.17 |
(やまなし あきら 元養護学校教員 県立高校非常勤講師) (ささき けん 教育研究所共同研究員) |
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