【読者のページ】

自分のことがわからない高校生
  カタリバという活動を通じて感じたこと

吉野 貴也

 私は公立高校の社会科教員を目指している大学 3 年生です。 いまカタリバという教育系のNPO団体の活動に参加して、 月に 2 〜 3 校首都圏の全日制・定時制、 偏差値もさまざまな高校に訪問し年間100人以上高校生と対話をしています。 カタリバとは高校の総合学習の授業枠を借りて大学生と高校生が対話をするなかで、 高校生の将来への可能性を引き出し、 将来への行動へと動機付けることを目的としたキャリア学習プログラムです。 私がカタリバに参加し高校生と対話するなかで気づいた、 高校生の現状と課題、 その課題を踏まえた上での自分がなりたい教師像をここに書きたいと思います。
 カタリバを通じて高校生と対話するなかで、 高校生は自分の生き方の軸をわからないまま生きている生徒が多いと思いました。 私が指すこの生き方の軸というのは、 その人が人生を通じて大事にしていきたい価値観・自分らしさの事を指します。 大学生が就職活動をする際に行う自己分析を通じて発見する自分の適性に似ているのかもしれません。 20歳を過ぎた就活生がようやく見つけられるようなものですから、 それを高校生に求めるのは少しハードルが高いのかもしれません。 正直、 私もそのような軸がないまま高校生活を過ごしていました。 ただ、 今までの生活の中で自分の意思で物事を選択してきたのだから、 誰もが自分の生き方の軸を持っているはずです。 しかしそれを見つけられている生徒はほとんどいません。 また、 自分の好きなことがハッキリとわからない高校生にも出会ってきました。 自分の事がよくわからないから、 自分のやりたい事や進路など将来の選択をどう決めればいいのかわからないと悩む生徒がいるのは当然のように思えます。
 自分がどんな人間なのかわからない生徒が多いことについて二つの原因・課題があると思います。 一つは、 高校生は自分の経験を振り返るということをしていないという事です。 今まで経験してきたことの中にその人の価値観に繋がる出来事は多く潜んでいます。 しかし、 それまでの経験を振り返ることなくなんとなく日々を過ごしてしまうから、 自分の生きる軸がわからないまま過ごしてしまう現状があるのです。 もう一つはコミュニティの狭さにあると思います。 私自身、 大学では、 過ごしてきた生活も考え方も自分と全然違う人たちと関わる機会がかなり増えました。 自分と違う背景・考え方を持つ人と関わるなかで、 新しい気づきを得たことがたくさんあります。 一方、 高校生が日常で関わる人間関係といえば、 家族・親戚・地元や高校での友人関係・学校の先生・バイト先など、 自分が日常行動する狭い範囲の内で過ごしている人間としか関わる機会がないのです。 自分と全然違った背景を持つ人間と関わる機会が限定されてしまっているのです。
 私が教師になったら自分が今まで感じてきたこれらの課題を改善できるような指導をしていきたいと思います。 先ほど、 経験を振り返る事とコミュニティの狭さの二つの課題をあげました。 後者の課題に関しては、 地域ボランティアを通じて地域の方と生徒が触れ合う機会を設けることなどが考えられますが、 今はまだ確信を持って提示できるアイディアが思い浮かびません。 今の自分の強みを活かして課題改善イメージが強く思い浮かぶのは前者の課題です。 自分の強みは高校生との関係構築力だと思います。 カタリバというコミュニティを借りての関わり方ですが、 さまざまな高校生から本音を引き出すようなコミュニケーションをしています。 ですからいろんな高校生と仲良くなる関係構築力は自分の強みであり、 この強みを活かして教師という立場からも生徒が本音を話してくれるような関係構築をしていきたいです。 自分の経験を振り返るという事を言ってきましたが、 生徒が自分の意思で注力したいと決めたものにこそ、 その人の価値観が大きく出ると思います。 部活・学校行事・友人関係なんでも構いません。 一人ひとりの生徒と対話する中で何に向けて頑張ってみるのか一緒に決めたいと思います。 そして振り返りをより効率的に行うには目標設定が必要であると思います。 だから@目標設定A実践B目標に対する振り返りというサイクルを生徒と回したいです。 以上のような事をもちろん定期的な面談でも行いたいのですが、 何気ない日常の会話からこんなアプローチができる教師が自分の理想の教師です。 カタリバという活動を通じて感じた事を活かし、 生徒が自分らしさを発見できるようなサポートをする教師になりたいと思っています。


         
  (よしの たかや)

ねざす目次にもどる