開かれた学校づくりと生徒参加
埼玉の学校自己評価システム
 
江 熊 隆 徳
  1. 埼玉の学校自己評価システム

    (1) 学校評価 (制度) 導入の背景
     近年、 全国で導入が進められてきた学校評価制度は、 導入を推進する自治体毎に様々な様相の差異を示しながら、 そこでは二つの共通の概念が導入の根拠として強調されている。 それは 「開かれた学校」 と学校の 「説明責任」 という言葉によって象徴される問題で

    ある。
     このような問題は90年代の中頃から主に中教審答申などによって提起され続け、 現在の学校評価の制度化への道を作り出してきた。 以下にその主だったものの表題のみを示すことにする。

    「21世紀を展望したわが国の教育の在り方について」 中央教育審議会答申 (1996/9)
    「今後の地域教育行政の在り方について」 中央教育審議会答申 (1998/9)
    「児童生徒の学習と教育課程の実施状況の評価の在り方について」 教育課程審議会答申 (2000/12)
    「教育を考える17の提案」 教育改革国民会議報告 (2000/12)
    「21世紀新生プラン〜レインボープラン〜< 7 つの重点戦略>」 文部科学省 (2001/1)
    「今後の教員免許制度の在り方について」 中央教育審議会答申 (2002/2)
    「高等学校設置基準の一部を改正する省令」 平成14年文部科学省令第16号 (2002/3) ※その他の学校 (14・15・17号)

     これらの文書に表れる 「開かれた学校」 や 「説明責任」 という言葉は、 それまでの学校の閉鎖性を打破するという意味においては肯定的にも評価することができるが、 教育基本法の見直しをも提起していたレインボープラン (文科省) や、 それを受けて成立した教育改革関連 6 法、 その後の文部科学大臣の談話 (「『学校が良くなる、 教育が変わる』 ことを目指して、 国民が待望する教育改革を、 より一層強力に実行してまいる決意」 「あらゆる機会を通じて、 教育改革に対する国民の御理解と御協力を求めていく」 2001/6/29) などからもわかるように、 むしろ文部科学省が政策的に目指す 「教育改革」 の推進のための一つの手段として扱われていたと見るべきだろう。
     したがって、 このような情勢の中で制度化が進められてきた学校評価は、 校長の権限強化と併せて法制化された学校評議員制度などと同様に、 「学校を開く」 という美名の下に学校からこれまで以上に主体性を奪い取り、 教育行政の政策意図を忠実に現実化するための道具として利用される危険性を持っている。


    (2) 埼玉における制度導入の経緯
     埼玉県における学校評価の制度化作業は2002年 7 月の学校評価システム調査検討委員会発足によって始まる。 同委員会は 「学校評価システム調査検討に関する報告」 (2003/3) の 「はじめに」 にもあるように、 1998年 9 月の中教審答申 (「今後の地域教育行政の在り方について」) 及び2001年11月の 「彩の国教育改革会議」 提言 (その後の 「彩の国教育改革アクションプラン」) を受ける形でその作業を開始しているが、 直接的には2002年 3 月の高等学校設置基準の一部改正によるところが大きいと思われる。 いずれにしても、 全国的な動向と無関係に、 埼玉県で独自に学校評価の制度化作業が始められたのではないことは確かである。 この点からも、 埼玉での学校評価の制度化が、 教職員評価の制度化と併せて学校における管理強化を推し進める力として機能する可能性はあった。
     しかし、 幸運なことにというべきか、 埼玉においては新たな教職員評価の実施に先行して学校評価制度が全校実施されることとなり、 このことが 「評価」 そのものの在り方に微妙に影響してきたと考えられる。 この問題については別の項で検討することにして、 ここでは、 埼玉における学校評価制度導入までのおおよその経緯を以下に示すことに留めたい。
    1. 「彩の国教育改革アクションプラン」 埼玉県教育委員会 (2002/2) ※平成14年度
    2. 「学校評価システム調査検討委員会」 発足(2002/7〜)
    3. 「学校の教育活動の評価に関する調査まとめ」 埼玉県教育委員会(2002/9)
    4. 「学校評価システム調査検討に関する報告」 学校評価システム調査検討委員会(2003/3)
    5. 学校自己評価システム研究推進校指定 (2003/4) ※ 8 校 (2 年間)
    6. 学校自己評価システム実施校指定 (2004/4) ※17校 (研究推進校と併せて25校)
    7. 「学校自己評価システムの手引き〜目指す学校像 (ミッション) の実現に向けて〜」 埼玉県教育委員会 (2004/10)
    8. 「埼玉県立高等学校管理規則」 の一部改正 (2005/2/8公布4/1施行)
      ※ 「学校評価」 と 「情報提供」
    9. 「学校自己評価システム実施要領」 改正 (2005/2/8改正4/1施行)
    10. 「学校評価システム調査研究報告書」 埼玉県教育委員会 (2005/3)
    11. 学校自己評価システム全県立学校実施 (2005/4〜)


    (3) 学校自己評価システムの運営組織
     埼玉の学校自己評価システムにおいて、 その中心的な組織として位置づけているものが 「学校評価懇話会 (仮称)」 と 「評価運営委員会 (仮称)」 である。 それぞれに仮称となっているのは各学校が学校の実情に合わせて、 主体的にその構成も名称も決めることが出来る制度になっているからであるが、 概ね評価運営委員会が制度運営の事務局としての役割を担い、 学校評価懇話会が評価主体として、 また評価を行うための学校運営全般にわたる意見交換の場として位置づけられている。 評価運営委員会が校内組織として教職員によって構成されることになっているのに対して、 学校評価懇話会は原則的に教職員が構成員としては二次的に扱われている。 したがって学校評価懇話会がどのような者たちによって構成されているかは、 制度の本質に深く関わることになる。 そこで埼玉県の文書にそって、 学校評価懇話会の構成員がどのように規定されているかを見てみることにしたい。
      「学校自己評価システム実施要領」 (2005/4) では懇話会の構成については 「校長は、 生徒、 保護者、 学校評議員等からなる学校評価懇話会 (仮称) を設置するものとする」 となっている。 この条文からは、 生徒の位置づけが相対的に高いことが読み取れる。 しかし、 実は発表の時期が異なる 「学校評価システム調査検討に関する報告」 (2003/3) と 「学校自己評価システムの手引き」 (2004/10) の間には学校評価懇話会の構成員の扱いについて微妙な違いがある。

    「学校評価システム調査検討に関する報告」
    【委員構成例】
     ・保護者代表 ・生徒代表 (必要に応じ)  ・地域の代表 (学校評議員等)
     ・校長 (学校代表)  ・有識者 など
    「学校自己評価システムの手引き」
    【委員構成例※】
     ・保護者代表 ・生徒代表
     ・校長 (学校代表)  ・地域代表
     ・有識者 など

      「生徒代表 (必要に応じ)」 が単に 「生徒代表」 に変わったこと、 「地域の代表 (学校評議員等)」 が 「地域代表」 となったこと、 地域代表と校長 (学校代表) の順番が入れ替わったことなどその差は表面上小さなものではあるが、 「生徒代表 (必要に応じ)」 から 「必要に応じ」 の表現がなくなったことの意味は大きいといえる。 当初から、 評価主体として生徒が重要な位置を占めていることは指摘され続けてきたことだが、 「必要に応じ」 という文言が挿入されていたことからもわかるように、 立案者側には生徒を評価懇話会にはできれば入れたくないという意識が強く働いていたと思われる。 こういった意識は学校教育法施行規則の解説により学校評議員の対象から生徒を外してきた文部科学省の方針とも重なる点である。
     しかし、 学校が教育の場で教育が生徒のための営みであることを考えれば、 学校は第一義的に生徒のものであるということは疑う余地のない事実である。 したがって、 生徒を評価主体から外すことはそもそも初めから考えられないことで、 初期の報告書にあった 「(必要に応じ)」 という字句によって 「場合によっては生徒を懇話会に入れなくてもよい」 という意味にも取れる例示が、 実際の手引きからはなくなったことは、 学校自己評価システムにおける生徒のポジションを正しく捉え直した結果であるともいえる。
     その後、 文部科学省の学校評価ガイドライン (2006/3) を受けた形で、 「学校自己評価システム実施要領」 が一部改正 (2008/4) され、 同時に 「学校自己評価システムの手引き」 も改正 (2008/4) され、 学校評価懇話会の構成員 (委員) から教職員が完全に除かれることになるなど、 運用に若干の変更が加えられてはいるが、 学校関係者 (保護者・地域住民・学校評議員等) に生徒を含めた学校評価懇話会の形は、 ほぼ全県的に定着してきている。


    (4) 埼玉における学校評価制度の意味
     埼玉における学校評価制度が 「学校評価システム」 ではなく 「学校自己評価システム」 という名称であることには実は大きな意味がある。
     学校評価システム調査検討委員会も 「学校評価システム調査検討に関する報告書」 において学校評価は内部評価 (自己評価) と外部評価の二つに分けられることを指摘している。 そして、 「教職員・生徒・保護者・地域の人々と一体となって自校の教育活動について行う評価」 を学校自己評価と位置づけ、 「教育委員会がそれぞれの学校の状況を把握し、 適切な支援や実効ある施策の実施等を図るため、 専門家のアドバイス等を受けて行う評価」 を 「学校外部評価」 と位置づけている。 その上で、 埼玉においてはまず優先的に取り組むべき課題が 「学校自己評価」 の導入であるとの判断を下したのである。 その後、 「学校外部評価」 として2008年度から導入された 「第三者評価」 も、 「学校自己評価システムの取り組みに対する評価」 をその内容とし (2008年 4 月改正版 「学校自己評価システムの手引き」)、 学校の自律的改善を前提としたものになっている。
     そのことがなぜ大きな意味を持つのかと言えば、 それが、 文部科学省や東京都に代表されるような全国の多くの自治体が狙っている 「評価」 制度とは違った方向へ、 「評価」 の意味をシフトする力になると考えられるからである。 先行する学校 「自己評価」 の良い形での定着が、 埼玉においては、 その後導入された外部評価としての 「第三者評価」 の在り方を良い方向に規定する (あるいは制限する) 力になってきたといえる。
     では、 良い形での学校 「自己評価」 の定着とは何か。 それは、 生徒や保護者を含むより当事者性の高い者たちの意見の交換により、 評価のための評価ではなく、 自らの学校をよくしていくという 「学校づくり」 の営みとして 「学校自己評価システム」 の制度化を進めることである。 「教育への権利」 の主体である生徒と保護者と教員がお互いに協力することによって、 「自分たちの」 学校という空間をつくり出していくことが学校において現に強く求められていることで、 そこには行政の権力的な介入によってなされる教育改革とは一線を画する、 大きな質的違いが存在するのである。
     また、 このことは先に問題として指摘した教職員評価問題ともリンクする。 埼玉県で2006年度から導入された一般教職員の評価制度は、 成果主義を志向しながらも現時点においても、 直接的には個人の処遇に反映させるものにはなっていない。 この教職員評価に使われる各種評価シートも、 学校自己評価システムにおけるシートと共通化が図られており、 学校自己評価システムにおける学校づくりの観点が、 すべての評価制度に大きく影響していることがわかる。

  2. 埼玉県立浦和西高等学校の取り組み

    (1) 組織作り
     2005年度からの制度導入を前提に、 浦和西高校では2004年 2 学期に入り、 校務委員会 (※高等学校管理規則の改定に伴い2005年度からは企画委員会と改称) を主体とした準備会 (校務委員会に管理職 3 名を加えたもの) を立ち上げて学校自己評価システムに必要な組織作りを始めた。 準備会では評価運営委員会と学校評価懇話会の構成及び学校自己評価シートの検討が進められ、 これらは最終的には職員会議への提案を経て組織の構成が確定していくことになるが、 それに先立ち、 学校評価懇話会の構成員となりうる団体等 (生徒会・PTA・後援会・同窓会・地域) の代表者を加えた意見交換会が2005年 3 月に開かれている。 ここで議論された内容が準備会での原案作成に反映され、 その後の職員会議への提案となっている。
     その結果、 2005年度に入って、 生徒会代表10名、 PTA代表 6 名、 同窓会代表 3 名、 地域代表 3 名、 学校評議員 5 名からなる学校評価懇話会が発足した。 第 1 回の会議は同年 7 月に開催され、 その際に仮称であった学校評価懇話会を 「西高づくり懇話会」 とすることが決まり、 その後、 構成員の人数等に若干の変更が加えられながら今日に至っている。


    (2) PTA内の動き
     浦和西高PTAでは毎月 1 回定例の運営委員会 (正副会長・専門部正副部長・学校職員PTA理事等) が開かれ、 その都度必要な協議が行われている。 2004年 7 月に開かれた運営委員会において、 学校側に対して2005年度実施となる 「学校自己評価システム」 についての情報提供の申し入れが行われた。 学校評価懇話会の構成員となりうる団体への情報提供と意見聴取が、 懇話会構成原案決定の前に必要であるということが申し入れの趣旨であった。 つまり、 PTAとして主体的に評価制度に参加するためには、 制度設計の段階からそこに参加することが必要であったからである。
     この要請が前提となって、 翌 3 月の意見交換会が開催されることとなっていった。
     その後、 2005年度PTA理事会・PTA総会での制度への参加に向けての報告及び提案がなされ、 2005年度からの学校自己評価システムへの参加が始まっている。


    (3) 主体的な学校参加の実現
     埼玉県の学校自己評価システム導入に関わって、 おそらく事前に関係団体との意見交換を行った学校は浦和西高校以外にはなかったのではないだろうか。 もっとも、 このことは学校が意識的に関係団体の意向を聞こうとしたわけではなく、 PTAからの申し入れに対応してのことであったことは否定できない。 しかし、 こうした申し入れに対して、 柔軟に対応する体制が学校内にあること自体が重要なことである。
     この問題でさらに重要なことは、 PTAの申し入れやその後の意見交換会そのものが、 学校自己評価システムが目指すものを別の形で実現している点である。 学校参加の意味については次節で別に扱うことにするが、 学校の意思決定過程への参加を抜きにした学校参加はありえない。 その意味で各団体代表による意見交換会は、 意思決定過程への参加の一つの在り方を示したものといえる。


    (4) 制度運用上の問題点
     学校自己評価システムそのものが県の政策として行われる制度であるところから、 学校自己評価シートを議論することに多くの時間を割く傾向が強く、 生徒を含む委員に実質的な討論の機会が十分保障されにくいという側面がある。 また、 開催回数も年度の始まりと終わりの 2 回に限定 (浦和西高の場合) されていることも、 自己評価シートの策定という観点から離れた議論をやりにくくさせる力となっている。
     そのため、 「学校評価懇話会 (西高づくり懇話会)」 を補完する制度として、 2006年10月のPTA運営委員会において生徒会とPTAの間で意見交換会を持つことが提案・決定され、 その後生徒会への正式な申し入れを経て第 1 回の意見交換会が11月13日に、 さらに第 2 回の意見交換会が 2 月 9 日に持たれた。
     この意見交換会は、 本体である 「西高づくり懇話会」 では不十分だった、 本来の学校づくりに関わった議論を深めることを目指し、 そこでの議論をその後の 「西高づくり懇話会」 そのものにいかすことを目的としている。 そこで、 2006年度には生徒会役員との調整をしながら単発的に行っていたものを、 2007年度からは定例化 (学期に 1 回程度) することが生徒会・およびPTAの機関会議で確認された。 こうした共同の取り組みは、 実はそれに先行して行われていた教室冷房化をめぐるPTAと生徒会との連携を踏まえてのものであって、 生徒の学校参加を日常的に保障する補助的な制度としてきわめて有益であったといえる。 そして、 学校の誤解に基づく中止要請を経ながらも、 幸運なことに、 その後も意見交換会は継続され今日に至っている。

  3. 学校自己評価システムの展望

    (1) 学校評価懇話会を学校づくりの 「協議会」 として運用
     埼玉県において学校自己評価システム研究推進校として先行的にこの制度を実施してきた学校の中には、 草加東高校のように、 学校評価懇話会を三者協議会的に運営している学校がある。 長野県の辰野高校を一つのモデルとしたこのやり方は、 学校自己評価システムを極めて優れた形で実現しつつあるものの一つだといえる。
     学校評価懇話会を学校づくりの協議会として位置づけるアイディアは、 当然その構成員の決め方によって良くも悪くもなるもので、 ここでも学校の第一の当事者である生徒とその後見となる保護者を必須の構成員として位置づけることが重要である。 その意味から言って、 学校評価懇話会を生徒・保護者・教職員の三者による三者協議会として運用するという発想は非常に自然な展開であるといえるだろう。
     さらに、 学校評議員 (会) と学校評価懇話会の関係も、 懇話会をより大きな協議会として位置づけることで、 好ましい制度運用ができると考えられる。 「学校自己評価システム実施要領」 においても、 「(懇話会) 委員には、 原則として学校評議員を含めるものとする」 と規定されている。 学校評議員 (会) には法制上学校職員や生徒の参加はないという前提があるため、 学校の重要な当事者である生徒を除いた形でしか制度の運営が実現できない。 しかし、 学校評議員を構成員の一人として位置づけるより大きな枠組みを持つ学校協議会のようなものが実現できるならば、 この問題はより次元の高いところで解決できることになるのである。
     協議会の性格をどこに置くかということとも関連するが、 学校評価懇話会は最終的には学校における一つの意思決定機関として機能することが望ましい。 そうでなければ、 ただ無責任に意見を述べるだけの場になってしまうし、 学校に対する不満のガス抜きの場でしかなくなる。 それぞれの立場を前提としながら、 「自分たちの」 学校をどうつくっていくかということを実質的に決めていけるのでなければ、 協議会としての意味はなくなるのではないか。
     このことは学校参加の意味を問いながら次の項で検討したい。


    (2) 学校参加の意味を問う
     学校への参加の意味は何だろうか。 学校が行う様々な活動にただ受動的に加わることが参加の意味なのだろうか。 勿論それも学校参加の一つの形にはなるだろう。 しかし、 民主主義社会においては社会への参加が最終的に主権の行使によって実現されるのと同じように、 学校への参加も学校における主権者となること以上に参加の意味を定義づけることはできないのではないだろうか。
     こう考えていくならば、 学校における意思決定過程への参加こそが学校参加の本来の形であると言わなければならない。 先に、 学校評価懇話会が協議会として一つの意思決定機関になるべきだと述べたのも、 このような意味で問題を捉えていく必要があると考えたからである。
     しかし、 日本におけるこのような学校協議会は殆どの場合、 実際の決定権を持っていない。 むしろそれが好ましいという見方さえある。 つまり、 通常、 協議会に参加する委員はそれぞれの所属する組織内において決定機関を持っているわけで、 協議会はそれらの決定の齟齬を調整する機関であればいいのだという考え方である。 ただこの場合、 それぞれの機関における決定の間に優劣を認めないことが必要で、 現在の学校制度の下では職員会議での決定 (法制上は校長の決定) が最終的な決定としての実効性を持ち、 職員会議における提案に対して事前に一定の影響力を持つという意味での意思決定過程への関わりでしかない協議会への参加は、 きわめて不十分なものなのではないだろうか。 意思決定過程への関わり方の位相には様々なものがあり、 現状では一気に生徒や保護者が学校運営に対する決定権を持つことには抵抗も困難もある。 また、 最終的な決定権を常に学校協議会が持つことには逆に権力的な暴走を生む可能性がないとはいえない。
     そこで、 それに代わるものとして次に述べるような制度を提案したい。 要約して言えば、 意思決定過程における調整の権限を学校協議会が持つ、 というような制度である。 協議会の構成員それぞれが学校をつくる主体として尊重され、 どのような問題に対してどのような立場の者の意思が尊重されるべきなのかを決める、 つまり決めるべきテーマ毎に最終的な意思決定をどこにまかせることが妥当なのかという決定を、 生徒・保護者・教職員・学校を支える地域の人々など、 学校に対する当事者性を強く持つ学校の主体が集まった組織の中で決定することができるのならば、 そこにおいて意味のある学校参加が実現することになるのではないだろうか。

      
(えぐま たかのり  埼玉県立上尾高校教員)
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