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初めての担任 ―生徒の未来を見据えて
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伊 藤 嘉 英 |
今年で新採用から 4 年目になる。 1 年目は副担任として過ごし、 2 年目から 1 年生の担任を持った。 そのまま持ち上がりで今、 3 年生の担任をしている。 面白いことにこの学年の担任は皆 4 年前の同じ時期に赴任し、 1 年間副担任を経験して 2 年目から揃って担任となった。 もちろん副担任の中にはこの学校で生徒を卒業させた先生もいたが、 ほとんどが新しい先生の集団だった。 「担任として生徒と対応する時に、 卒業までの流れや生徒の特徴がはっきり見えていないのは、 どんなに様々な学校で経験を積んできた先生でも不安なものだ」 とある先生は言っていた。 学校によって目標は異なり流儀も違う、 また生徒の性格や能力も異なるのは当然である。 様々な学校で経験されてきた先生たちのほとんどが、 本校は今までのどの学校の生徒よりも指導が大変であると漏らしていた。 いわゆる課題集中校である。 生活指導・教科指導・進路指導全てにおいて、 担任はもちろん、 副担任も日々総出で指導していくことは体力的にも精神的にも辛いものだ。 そのような大変さがあるので、 本校では、 担任になり生徒を卒業させたら異動希望を出す教員が多く、 実際私が赴任してきた年の前後数年は10数人の入れ替えがあり、 今では 4 年目の私たちでさえ本校の古株のようになっている。 前置きが長くなってしまったが、 偶然、 同時期に赴任してきた担任たちが、 3 年間替わらず生徒を見続けることが出来ているのはありがたいことである。 生徒に何か異変があれば、 以前担任であった先生やその生徒をよく知る先生が多いことから、 様々な情報を交換し対処することができる。 また生徒にとっても、 担任が替わらずにきていることは安心感があるように感じる。 1 年生の時は問題を抱える生徒ばかりに目がいき、 おとなしい真面目な生徒に対してはあまり声をかけることができなかったが、 2 年生・3 年生と上がるにつれて生徒達は次第に落ち着き、 今までじっくり話を聞くことができなかった生徒にも耳を傾ける余裕が出てきた。 ただそれでも生徒の指導に関して言えば一人にかなりの時間を必要としなければならない現状は変わらない。 特に今年は 3 年生なので進路に関しての指導が大きな課題となっている。 本校生徒の卒業後の進路は、 大学・短大20%、 専門学校等30%、 就職25%、 進学準備・進路未定25%というのがここ数年の現状だ。 今年度は就職希望者が多数おり、 4 月に入ってすぐに就職指導が始まった。 ところが就職を希望する生徒の大半は以前から就職を希望しているのにもかかわらず、 自分が何をしたいのかはっきりしない。 それは企業見学先を決定する 7 月に入っても決まらない状況であった。 だから、 見学を終え就職試験を受ける企業へ送る履歴書の作成、 特に志望動機を書くことに大変時間がかかった。 また面接の指導に関しても困難を極めている。 高校生活に取り組んできたことや今後の目標など自分のことに関する質問に答えられないのだ。 よく聞かれる質問としてある 「高校生活で得たもの、 学んだことは」 に対しては、 「友達の大切さ」 などほとんどの生徒が同じような具体的な例を伴わない返答をする。 そのことを更に追求する質問になると、 「他に何もない」 と言うばかりなのだ。 つまり彼らの日々の高校生活は友だちとただなんとなく時間を過ごすことに終わり、 帰宅後はアルバイトに明け暮れるというものなのだ。 そして学校生活で目標を立てそれに向かって努力したということが言えないのである。 この事実は私にとって大変ショックだった。 彼らが 1 年生の時から、 担任として、 一体何をしていたのだろうかと思ってしまう。 自発的に生徒が何かに取り組んでいくことができればいいのだが、 それができない生徒が多数を占める。 そのような生徒に方向を指し示すことが担任の役目である、 という当たり前のことができずにいたのだ。 卒業後を考えさせることや、 遅刻欠席が多いとどうなるのか、 勉強する意味は一体何なのか、 今取り組んでいることは何を目指しているのかなど、 生徒に将来の自分に対して意識を持たせるような指導をすることを十分にできずにいたのだと痛感した。 それにしても、 このような目的意識を持って学校生活を送っている高校生ははたしてどれくらいいるのだろうか。 本校は昨年度からクリエイティブスクールとして新たな取り組みを始めた。 そのひとつとして 「チャレンジ&ベーシック」 という中学校の勉強の学び直しを目的とした授業を行っている。 まだまだ手探りの状態で進んでいる授業ではあるが、 この夏休みに研修会を開き今までの状況・成果・課題を検討した。 そこでの話の中心は、 いかに学び直しを効果的に定着させるか、 ということだった。 それも学習の効果があまり見られない生徒に対して、 基礎基本の定着をいかにさせるかだ。 この学習効果がみられない生徒のパターンとして、 「やる気の無い生徒」 「情緒不安定の生徒」 「学習障害の生徒」 が考えられる。 ここで私が気になったのは 「やる気の無い生徒」 である。 このタイプの生徒は、 これまで学習習慣がなく、 理解する喜びや勉強する楽しさを知らずに来ている生徒が多く、 また高校でもその気持ちが出てこないで、 ただ毎日をなんとなく過ごしているように見える。 そしてそのような生徒が今後も変わらずに、 卒業後の進路選択に対して何の準備の無いまま突入していけば不満足な結果になることは目に見えている。 新採用から 4 年目、 今こうして生徒の進路を考えるようになり、 目の前の生徒だけではなく、 その生徒の未来を見据えて教育をしていかなければいけないのだと今更のように実感している。 |
(いとう よしひで 釜利谷高校教員) |
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