独自調査中間報告
教 育 研 究 所

 
はじめに   調査にあたって
 
 当研究所では今年度の独自調査のテーマとして、 「私費」 の問題をとりあげた。 いま、 高校ではさまざまな項目のお金を保護者から徴収している。 ここで 「私費」 として調査するのは、 この 「学校徴収金」 のことである。
家庭の経済的負担を問題にしたという点では、 授業料減免の問題をとりあげた昨年度の独自調査の延長線上にあると言ってもよい。 調査の形式としては、 各学校が持っているPTAの会計資料を提供していただく方法をとったが、 各学校から寄せられた資料の形式は多様であり、 学年費や生徒会費などの重要なデータが十分にそろわない結果となってしまった。 また、 集めている金額だけではなく、 使途にまで立ち入らなければ、 問題を明らかにすることはできない。 しかし、 私費の流れは非常に複雑であり、 分析には時間を要することになる。 今回は徴収金の項目をならべ、 多少の考察を加え、 今後の分析の方向をしめすところにとどめざるをえない。 せっかく多くの学校現場の協力をえながら、 中間報告のレベルに終わってしまったことを、 まずお詫びしておかなければならない。
 データの集計を行っていた時、 OECDの教育費調査の結果が報じられ、 日本は先進国の中で教育に対する公費の支出が最低であったこと、 私費の占める割合の大きいことが明らかになった。
 以前から日本の教育費が少ないことは指摘されていた。 特に高等教育にかかる費用は、 高校の教員ならだれもが、 びっくりするほど高くて、 家計に負担がかかっていることを承知している。 日本は、 北欧のような、 高等教育にかかる費用はゼロに近くして、 その分は、 税で徴収するという政策をとっていないのである。
 問題は高等教育ばかりではない。 初等中等教育においても家計に大きな負担がかかっている。 たとえば、 神奈川県では、 9 月12日、 県公私立設置者会議が、 公立高校の定員枠を昨年度より0.3ポイント下げることを決めた。 来年度から60%で固定するという。 公立高校に進学しない者は私学に行くわけだが、 私学の定員枠は、 授業料が高いため、 全部は埋まらないのである。 その結果、 全日制進学率は昨年度より、 さらに下がることになり、 定時制への希望者が増える。
 教育政策の動向は若者の人生に大きな影響をあたえる。 すでに10年以上前から野宿者の支援活動にかかわり、 今ではすっかり有名になったNPO 「もやい」 の湯浅誠氏は、 「反貧困」 (岩波新書) の中で、 人が貧困状態にいたる背景には 「五重の排除」 があるとして、 その第一に 「教育課程からの排除」 をあげている。 公立枠の固定化と私学の授業料の前で全日制をあきらめ、 定時制に進学した者、 彼らの卒業率はおおよそ50%である。 (学校基本調査)
 写真誌 「DAYS japan」 には、 新宿歌舞伎町のダンボールハウスに住んでいた少女の写真と記事が掲載されている。 記事を書いたのは雨宮処凛氏である。 副題は 「まだ間に合うのなら」 というものだ。 横浜寿の野宿者の支援活動に携わっている方からも野宿者の中に高校中退の若者が含まれていると報告されている。
 学校徴収金を入り口にしてさまざまな課題を考えていきたい。

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