寄稿
学校の自主性、 教育の自由、こころの自由を取りもどすために
豊 雅昭
 
 この夏の当高校教育会館主催の夏季教育講座は大変有意義な企画であった。
 すでに半世紀前にもなる全国で吹き荒れた 「勤評闘争」 とその中から生まれた 「神奈川方式」。 事の発端は地方財政危機を名目に、 教職員の勤務評定を行い、 評価に基づいて賃金決定をする。 この勤評の大きな狙いは教職員の分断を図ることにあったことはあきらかであった。 この中で教職員の 「職務」・「服務」 「仕事」 とは何かが大きな争点となった。 性格は異なるが、 今日の学校現場を覆っている様々な 「教育改革」 「管理強化」 などの動きも基本的には公務員としての教職員の 「身分」・「地位」・「権限」・「服務」・「職務」 などにかかわるものでといってよい。 この場合にも多くは 「地方教育行政法」 などを根拠としている。 「地方教育行政法」 は教育委員会の設置、 教育機関の職員の身分の取り扱い、 教育行政の組織・運営の基本をさだめる目的で1956年に制定されものであるが、 「勤評」 問題もこの法律の制定を機におこっている。
 それから半世紀あまり、 東京や神奈川で行われている 「日の丸・君が代」 裁判の大きな背景にはこの 「地方教育行政法」 や 「学校教育法」 などと関連する諸法令、 法規、 管理規則、 学習指導要領学習などがあり、 教職員の職務・身分・思想信条の在り方は今、 社会的に大きな争点となっている。

(1) なんでも 「職務命令」 でできるの か、 根本を問い直そう
 特に教育の中身については法令や規則よりも憲法のほうが優位、 上位にあることを改めて確認しよう。 「職の公共性、 上司の命…」 は基本的には一般公務員を対象とする場合が多いが、 学校教育の場面においては教育行政と一般行政のあり方は厳しく区別されなければならない。 この部分が曖昧に扱われている中で行政の介入が進行しているといえる。
 また、 「地方教育行政法」 の各条項はあくまで包括的な管理執行権限ないし一般的な教職員に対する服務監督権限を規定したものにすぎないと解釈されており、 事実、 「地方教育行政法」 23条は教育委員会の職務権限の規定であるが 「…に関すること」 として扱う事務リストが列挙されているのみで、 仮に 「…に関して」 と規定するならば、 個別具体的な条文や法令が別途必要となるだろう。 つまり、 教育課程等の事務管理執行権限 (23条5号) や教職員に対する服務監督権限 (43条1項) は包括的、 一般的規定と解釈してよいであろう。 大阪府枚方市に対する大阪高裁判決は前述と基本的に同趣旨の判決であった。 「地方教育行政法」 23条を打出の小槌にしてはいけない。 具体的、 個別的事例に則して法令・規則の厳密な解釈や運用がなされるべきである。

(2) 憲法、 教育基本法をいかそう
 2006年12月、 教育基本法が大きな問題を含んで新たに制定された。 法律主義が全面に出され、 政治的介入への危惧はあるとしても、 何でも法律で決めていいということにはならない。 その前提はあくまで憲法の許容する範囲ということである。 新教育基本法第16条 (旧教育基本法第10条) 1 項の 「教育は不当な支配に屈することなく」 の持つ意義は決して少なくはない。 基本原理は生かされなければならない。

(3) 学校管理規則体制を乗りこえよう
  「地方教育行政法」 の制定を受けて、 全国一斉に学校管理規則が作られていった。 学校等の管理を規定している 「地方教育行政法」 33条の条文は 「教育委員会は法令又は条例に違反しない限度において、 その所管する学校その他の教育機関の施設、 設備、 組織編制、 教育課程、 教材の取り扱いその他学校のその他の教育機関の管理運営の基本事項について、 必要な教育委員会規則を定めるものとする。 …」 である。 「地方教育行政法」 は本来的には教育委員会と学校の関係を規律対象とするもので、 各学校においては学校運営上のルールに関しては校内の内規が本来的には優先すると解されるべきであろう。
 校長の権限に関していえば、 教育課程の編成、 教材選定などは直接教育をつかさどる教員を抜きに校長の独断で決定はできないであろう。 施設設備等の条件整備にしても教育内容と深く係わっており、 教職員の参加は不可欠である。
 職員会議の位置づけにしても、 従来から単なる校長の補助機関ではないとする考え方が根強かった。 その事を理由に意思決定機関として混乱しているとして、 1998年の中教審答申を受け、 当時の文部省は学校教育法施行規則に職員会議規定を位置づけ解決を図った。
  「施行規則」 は文部科学省の省令として、 学校教育法の中心的施行命令とされているが、 施行規則第23条 2 に定められた学校における職員会議の位置づけや特徴は次の 3 点である。
  1. 学校の設置者の定めるところによりおかれるもの。
  2. 校長の職務の円満な執行に資することを目的とする。
  3. 校長が主宰する。 の3 点 である。
 各自治体の管理規則の上位法である学校教育法施行規則のどこにも職員会議は 「補助機関」 として明記されてはいない。 憲法23条 (学問の自由)、 旧教育基本法第10条、 新教育基本法第16条 (不当な介入に屈することなく) などに含まれる学問の自由、 教育の自由を守り、 行政の不当な介入を許さず、 押し返していくため、 大いに研究、 論争、 運動を強めていく時であろう。

◇レポート作成に当たり、 参考とした主な資料は下記の通りである。
  1. 君が代不起立個人情報保護裁判 (仮称) 事務局作成資料の中から
    • 自己情報の利用停止の請求拒否処分に関する異議申し立てについて (審査会答申)
      平成19年10月24日
    • 入学式及び卒業式における国旗の掲揚及び国歌の斉唱の指導の徹底について (通知)
      平成19年11月30日
    • 平成19年12月25日個人情報保護審議会における説明の補足 (県教委)
    • 教育委員会における神奈川県個人情報保護条例第 6 条及び第 8 条に定める個人情報の取り扱いについて (審議会答申) 平成20年1月17日
    • 平成19年度卒業式及び平成20年度入学式に係わる調査の実施について (通知)
  2. 学校現場と教育法制 (レジュメ)
      (夏期講座 「教育を考える」 第2回 
       2008. 8. 5 安達和志 神奈川大学)
  3. 神奈川こころの自由裁判原告団事務局作成資料

 (ゆたか まさあき 厚木西高校教員)
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