所員レポート | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
三重の高校再編活性化計画 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
三橋 正俊 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
はじめに 全国の高校再編のなかで、 総合学科高校、 単位制高校の設置が格段に進められているのは、 広島、 三重の 2 県である。 2000年度段階で、 総合学科高校と単位制高校を合わせて、 2 桁を超えているのがこの 2 県のみである (ちなみに、 広島は18校、 三重は10校である)。 それを追うように、 東京、 神奈川で大規模な高校再編計画が推進されている。 2001年度以降準備中の校数が、 東京は17校、 神奈川は15校と発表されている。 東京、 神奈川についてはすでに再編計画が発表されているのに対して、 広島は2001年10月に広島県高校教育改革推進協議会が 「県立高等学校における教育改革の推進について」 と題する答申を提出したばかりであり、 県教委の再編計画は策定されていない。 三重については審議会の答申をもとに2001年 5 月に県教委が 「県立高等学校再編活性化基本計画」 (以下 「基本計画」 と略記) を発表し、 2002年 1 月に 「県立高等学校再編活性化第一次実施計画」 (以下 「第一次実施計画」 と略記) が出されたばかりである。 県教委の具体的な再編実施計画が発表される以前から広島、 三重の 2 県では、 なぜ他の都道府県に比べて多くの総合学科高校と単位制高校を設置してきているのだろうか?その疑問を現地へ行って明らかにしたいと考え、 2001年 3 月に教育研究所のメンバーとともに三重に調査に出かけた。 調査時点では、 「基本計画」 は策定途中にあり、 三重県教組の執行委員からそのアウトラインを口頭でうかがう程度であったが、 その後インターネットを通じて 「基本計画」 と 「第一次実施計画」 を入手して、 三重の計画の全体像を描くことができるようになった。 あわせて、 三重県内で最初に単位制普通科高校としてスタートした三重県立久居高等学校を訪問することができたので、 校長・教頭からうかがった高校の姿も紹介したい。 1. 高校再編の先進県として 文部科学省の調査によると、 三重には1994年度から2000年度までに、 県立の総合学科高校 5 校、 単位制高校 5 校が設置されている (『ねざす』 26の 「数字でみる高校再編全国状況」 参照)。 その後2001年度に総合学科高校 1 校が設置されている。 県教委の 「基本計画」 は2001年 5 月に策定された。 従って、 11校の総合学科高校及び単位制高校は県教委の 「基本計画」 策定以前に設置されてきたことになる。 「第一次実施計画」 では、 2002年度から新たに総合学科高校 1 校、 単位制高校 1 校が誕生することになっている。 それらを設置年度と学区ごとにまとめたものが、 次ページの表である。 1994年度に総合学科 ( 1 学年 5 クラス) が普通科 ( 1 学年 3 クラス) に併設される形でスタートした木本高校は、 80年もの伝統をもつ高校だった。 この総合学科の設置が議会主導で行われたために、 トラブルもあったと聞いている。 1995年度設置の昴学園高校は、 全寮制の総合学科 ( 1 学年 2 クラス) として開校したが、 過疎化の村でなんとか地元に高校生を残したかったという。 1997年度に設置された松坂商業高校は、 国際経済科 ( 1 学年 2 クラス)、 国際情報科 ( 1 学年 3 クラス)、 国際教養科 ( 1 学年 2 クラス) で単位制を取り入れた全国初の全日制専門高校である。 2 、 3 年次に合計20時間の自由選択科目を置いて、 60科目のなかから自由に選択させている。 北部学区の北勢地域は臨教審反対の声が現場に強く、 長い間総合学科高校も単位制高校も設置されなかったが、 2001年度開校のいなべ総合学園高校は、 創立80周年を迎えた普通科の員弁高校が、 50億円もの費用をかけて新築移転することによって総合学科 ( 1 学年 8 クラス) に再編されたものである。 南部学区は再編によって新しくスタートした高校が多いが、 その中の南勢志摩地域は臨教審反対の声が強く、 1 校もつくられていないという。 三重では県教委の示唆を受け入れた高校から順次、 総合学科高校、 単位制高校に転換していくというスタンスをとっていて、 北勢地域や南勢志摩地域のような地域が存在することになる。
2. 三重の再編活性化計画の展望 三重県では1999年 3 月に今後の教育のあり方についての 「教育振興ビジョン」 が出されていて、 2001年度には三重県高等学校再編活性化計画を策定することが目標とされていた。 そこで三重県高等学校教育改革推進協議会が2001年 2 月に 「県立高等学校の適正規模・適正配置の推進について (審議のまとめ)」 の報告を出した。 それらを踏まえて県教委がまとめたものが、 2001年 5 月の 「基本計画」 であり、 2002年 1 月の 「第一次実施計画」 である。 まず 「基本計画」 では 「将来は、 地域全体が一つのまとまりのある学習の場として 『○○○高等学校』 と名付けられ、 その中に、 それぞれ特色ある教育プログラムを持つ 『がっこう』 が点在しているというような、 地域社会に支えられた学校教育のあり方を目指します」 としている。 三重県の中学校卒業者数は、 2008年には約 1 万 9 千人と 3 千人 (約75学級、 12校分) の生徒減が見込まれるという。 しかし、 三重県の少子化の傾向はその後増加に転じる可能性もあり、 比較的緩やかである。 3 〜 8 学級規模で 6 学級を平均とする学級規模を基本にすえながら、 大都市が集中する北部学区では大規模校を解消して、 南部学区では 2 学級以下の小規模校を解消しながら、 それぞれに特色をもった高校を配置するということが計画の概要である。 具体的な校数が上げられているわけではないが、 現在62校ある高校を 5 〜10校程度減らすことになると思われる。 これを受けて 「第一次実施計画」 は、 10年先を見据えながら、 2002年度〜2004年度までの 3 年間の具体的実施内容を提示したものとなっている。 適正規模では、 現在ある大規模校で10学級以上の高校 7 校を解消し、 小規模校を 3 校程度を統廃合ないし校舎制 (「複数の校舎を持つ高等学校として統合し、 教員が校舎間を移動して生徒の多様な学習機会を保障する。 校舎が離れていても、 教員や生徒の移動手段を考えることにより実現可能な方法」 と注記されている) にする計画である。 適正配置では、 普通科には専門コース制や単位制を導入し、 現在でも多数ある専門学科は拠点校を設置しながら学科の整理・統合をはかり、 「くくり募集」 の実施や単位制の導入をすすめ、 情報・福祉・芸術学科等の新学科の創設の検討をすすめる。 総合学科はさらに設置をすすめるが、 中高一貫教育の併設型 (入学者選抜を行わずに同一の設置者による中高の接続)、 単一型 (中等教育学校として一つの学校をつくる)、 連携型 (設置者の異なる中高の連携) の実践・研究をするとしている。 定時制課程には昼間部を設置して、 通信制課程は定時制の昼間部・夜間部を統合した 「定通ネットワーク」 拠点校を整備する計画である。 また、 現在 3 学区ある通学区域を2004年度から高等学校の通学区域に関する規則を廃止して、 全県一学区にするという。 これらの実施計画を各地域ごとに校名をあげて具体的に示している。 単位制高校と総合学科高校については、 2002年度から中部学区の伊賀地域の 2 校 (表を参照) に単位制と総合学科を導入すると記されているが、 北部学区の北勢地域への単位制や総合学科の設置については触れられていない。 また、 南部学区の 「南勢志摩地域における総合学科の設置について、 引き続き検討していきます」 と触れられているだけで、 具体的な校名はあがっていない。 「第一次実施計画」 では、 単位制・総合学科の導入よりも、 学校規模の適正化や専門学科の拠点校化と統廃合及び定時制の活性化 (昼間部の設置等) に比重がかけられている。 専門学科の拠点校としてあげられているのは、 北勢地域で工業高校 3 校、 商業高校、 農業高校各 1 校、 津地域では商業高校、 農林高校各 1 校、 松坂地域では商業高校 1 校と工業高校 2 校、 南勢志摩地域では農業高校、 商業高校各 1 校である。 そして専門学科の廃止ないし統廃合に関しては、 北勢地域で商業科と家政科の廃止、 鈴鹿地域の商業科の廃止、 津地域の食物教養科の廃止と続き、 伊賀地域の農業高校、 工業高校、 商業高校の 3 校の統廃合、 松坂地域の普通科を含む 3 校の統廃合、 東紀州地域で工業高校と普通高校 2 校の統廃合が対象校としてあげられている。 まだ研究段階とはいえ、 いなべ総合学園高校で併設型・連携型の中高一貫教育校の実践・研究を、 久居高校で併設型・単一型の中高一貫教育の実践・研究を行うとされていて、 三重県においては中高一貫教育が今後の再編計画の 「目玉」 とされている感が強い。 3. 久居高校 (単位制) を訪ねる 久居ひさい市は県庁のある津市と松坂市の中間にある人口 4 万人ほどの田園風景の広がる町である。 久居高校は1983年度に市内に普通高校を望む市民の声で誕生した。 周辺の伝統ある普通高校や専門高校の狭間で様々な課題を抱えた生徒が集まるようになった。 そうした多様な生徒の実態に即した教育課程を編成する努力を続け、 1991年度には校内に 「久居高校の夢を語る」 ために各年代から選出した教員で 「プログレス委員会」 を設置し、 独自に改革案の検討を行い始めた。 そして、 1994年度には国際コース 1 クラスを設置、 1995年度にはスポーツ科学コース 1 クラスを設置した。 単位制高校もその議論の中から選択肢の一つとして浮上し、 1996年度には県教委より示唆があって、 1997年度より単位制高校へ転換することを決断した。 2000年度は普通科 7 クラス、 国際コース 1 クラス、 スポーツ科学コース 1 クラスで、 普通科は 1 年と 3 年で 1 クラス増をして、 多クラス展開をしている。 1 年10クラス、 2 年 9 クラス、 3 年10クラスの大規模校である。 創立当初の最大学級数が各学年10クラスなので、 教室をフル活用していることになる。 1 学年では必修科目を週31時間配置し、 2 学年では11単位の必修科目と20単位の自由選択科目、 3 学年では 5 単位の必修科目と26単位の自由選択科目を用意して、 空き時間をつくらないように全ての科目をとるように指導している。 従って卒業時には取りこぼしがなければ、 93単位を取得することになる。 卒業に必要な単位数は80単位ということ なので、 必履修科目が含まれていなければ、 13単位落としても卒業にこぎつけることができる。 それでも卒業単位がそろわなかった生徒は、 「科目履修生」 の 4 年次生として残ることになる (県の規定で授業料は 1 時間当たりの額×単位数ということである)。 「その他科目」 (新学習指導要領では 「学校設定科目」) を60ほど設置していて、 1 年次の 6 月から 2 〜 3 年次に履修する46単位分の自由選択科目を選択させる指導が始まる。 何よりも自分の進路意識を明確にするように生徒は迫られる。 7 月に予備調査を行い、 夏休み中に教務部が選択科目のユニット表を作成して、 9 月にはそれを生徒に示して担任が具体的な指導に入る。 10月には時間割表を見ながら生徒は予備登録をして、 11月には本登録となる。 自分が選んだ科目を受講できる生徒は70〜80%だという。 空き時間をつくらせない指導は、 空き教室もつくらないことになり、 教室の確保のために 3 スパンの教室を 2:1 に間仕切りをしたり、 プレハブ校舎を利用したりしているという。 教員の授業時間数は週16時間を超え、 何科目もの授業を受け持つことになる。 転任してくる教員の中には単位制高校による改革に積極的な人がいるものの、 単位制導入時点から改革に消極的な人もいるという。 空き時間をつくらせない指導は、 空き教室がほとんどない状態でラウンジ等の設置もままならないため、 今後とも継続するかどうか検討課題となっている。 さらに、 二学期制の導入、90分授業の実施、 9 月卒業の実施など検討中の課題も多い。 県教委の 「第一次実施計画」 に盛り込まれた中高一貫教育の実践・研究も新たな課題として加えられた。 久居高校が実施した1998年度入学生と2000年度入学生へのアンケート結果によると、 「久居高校を選んだ理由の一つに 『単位制だから』 というのがありますか」 との問に対して、 「ある」 と答えた比率が1998年度生の48%から2000年度生の51%に微増している。 また、 「単位制について、 全体としての感想は」 との問に対して、 「よいと思う」 と答えた比率が1998年度生の41%から2000年度生の59%へ増えている。 生徒の評価は良好と言えそうである。 おわりに 今回の調査研究の中から浮かび上がってきた点について、 二点ほどまとめておきたい。 神奈川県は1999年度時点では普通科率 (普通科の入学定員の全学科の入学定員に占める割合) が81.3%と全国で最も高く、 三重県は当時43.5%であった。 従って高校再編計画にもその違いが現れてくる。 中学卒業者数の減少で高校の統廃合が必至の状況で、 神奈川が普通科の再編統合に、 三重が専門学科の再編統合に力点を置いていくことになるのも肯ける。 三重の 「第一次実施計画」 が、 単位制高校・総合学科高校の設置よりも専門学科高校の再編に傾斜しているということはすでに触れた。 だが、 三重で県教委の 「基本計画」 策定以前に、 なぜ単位制高校や総合学科高校が先進的につくられていたのか、 この理由についてはどうだろうか?今回の聴き取り調査では、 残念ながら十分な回答が得られたとは言い難い。 しかし、 神奈川県の再編計画が県教委主導によって策定されたことを考えると、 三重県では久居高校のように現場の改革の要求の中から県教委がそれに応えたという側面があったことは指摘できる。 久居高校が単位制導入決定のすぐ翌年度には単位制を実施していることがそれを示している。 久居高校が統合ではなく単独改編であったとしても、 早期実施ができた背景には、 改革をめぐる久居高校の 「プログレス委員会」 の議論があったからである。 神奈川では2005年度から後期再編計画がスタートする。 まだその実施計画は発表されていないが、 計画策定にあたっては、 単位制高校にしても総合学科高校にしても (さらに後期計画では中高一貫教育の検討が含まれる)、 現場の要求が十分反映される仕組みがつくれないものだろうか? 「上からの改革」 ではなく、 教育現場の改革の努力の中から、 いわば 「下からの改革」 が位置付く必要があると考える。 そこでは、 県教委がデザインした単位制高校や総合学科高校とは違った学校改革が生まれてくる可能性もある。 現場の活性化をそんな形で期待したい。 |
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(みつはし まさとし 教育研究所員 県立中沢高校教諭) |
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