特集 : シンポジウム「減るの?変わるの?どうなるの?」
 

シンポジウム・議論の大きな流れ

コーディネーター中野渡 強志

 
■ はじめに

 「県立高校改革推進計画」前期分の概要が明らかになったのは8月15日の新聞報道である。夏休み中の学校現場は殆ど対応できなかった。神奈川高教組は、「再編問題対策会議」「再編該当校会議」を開催し、報道のいきさつやその後の県教委発表の概要を各分会に説明した。再編該当校は9月の新学期に、具体的な内容を知り、検討が始まった。
 再編対象が学校の多くは、2校が統合し「新しいタイプの高校」として、すでに県内にある「単位制高校」「総合学科高校」や「フレキシブルスクール」「総合技術高校」「総合産業高校」という新しい高校になることになった。
 県教育委員会は、「改革計画」の説明を再編該当校に月末までに行った。しかし「フレキシブルスクールは単位制高校とどう違うのか」などの疑問が、解明されていない状態だった。
 シンポジウムの開催は、「改革計画」の発表後わずか3ヵ月で、職場で十分検討されていない時期であった。
 シンポジウムの議論は、「改革計画」の評価が中心になるだろうと予想された。ただ、それだけで終わっては、あまり意味はなく、今後の「私たちにとっての学校改革」に繋がるようなシンポジウムになることを期待した。
 

「変わるの?」

 パネラーは再編対象校になった川崎南高校教諭の高村さんと寛政高校教諭の梅本さん、そして今回対象校にならなかった田奈高校の教諭であり研究所の所員でもある本間さんである。
 「この際これをうまいこと捉えて現状を変えていければなと、前向きに考えていこう」(高村)、「全日制普通科のままでもっと何か模索していこうとしていた、……実は総合学科に近づく形になっていくのかな、という議論がありまして、従って総合学科を導入することに対しては特別抵抗はない」(梅本)というように、具体的な検討が始まっている再編対象校の二人は、今回の「改革計画」を学校改革のチャンスとして捉えて発言される。それにして、本間さんは「今回の再編計画は、現場からの積み重ねの上で出てきたものではない」として「改革計画」の基本的問題点を述べる。
 フロアからの発言も、上記の二つの内容に大きく区分できる。
 すなわt6い、一方では、「県内の高校教育が抱える問題はたくさんあると思うんですが、フレキシブルスクール、単位制高校、総合学科高校がそうした問題とどういうふうに繋がってくるのか、その先にどういう展開が開かれるのか、……見えてこない」(浜高教 河野)、「普通高校でも選択制なり、職業教育をするとか、今の中での工夫をしていく」(希望ヶ丘 森)と述べ、「改革計画」が提起している「新しいタイプ」の学校を否定する意見である。
 それに対して、「現場は不満があり、不信があり、不安があるという中でも…やろうとしている、それも、言われて仕方がないという諦めではなく、やろうとしている、非常に羨ましい」(川和 山本)「今の高校にあるなんともいえない閉塞感……。子どもたちが本当にいい高校生活が送れるような方向を目指してほしい」(市民 安藤)と、現行の高校に対する改革として「改革計画」に期待する意見に二分される。
 「改革計画」にいう「フレキシブルスクール、単位制高校、総合学科高校」という新しい高校で何が実現できるのか、あるいは新しい高校はなぜ否定されるのかは大きな論点である。
 この点は、カリキュラムという具体的な課題だけでなく、「全日制にしろ、単位制にしろ、総合学科にしろ、学校が抱えている基本的な問題をクリアするシステム、今階層社会の中で苦しんでいる生徒に本当に役立つシステムにしていけるのかどうか」(厚木南 井上)という指摘のように、階層社会と学校という広い範囲にまで問題は広がる。
 

「どうして変わるの?」

 それにしても、「改革計画」について本間氏が言うように「現場からの積み重ねではない」ことは該当校の多くの教員が思うであろう。「予想はしていたけれど何でうちなんだ」(高村)という率直な疑問が、シンポジウムの時点では該当校の職員にはあったはずである。
 該当校以外の参加者は、例えば「将来展望も、教育の思想も、全く示されない状態だから、現場の先生方は何をやったらいいのか分からない。にもかかわらず何かやらなければならない」(市民 山口)、「この改革案も現場の声なくして計画されていることを本日知りまして、本当に憤りを感じています」(市民 牧)と述べ、改革計画の背景を厳しく指摘する。
 それに関しては、該当校からの発言があまりない。その理由は、「正面切手反対すべきじゃないか、という言い方はありました。……ただそういうことを言っている場合ではないだろう、ということもあります」(高村)と最初にパネラーから、職場での議論の経過が述べられたからだろうか。フロアからも「大変である、ひどい、反対しよう、とにかくフレキシブルというのがよく分からない。……ただ、いろいろ経過がありまして、南高校と連絡を取り合って、大分事情も変わってきました。前向きに考えていこう、と。こういう状況だから仕方がない、ということで変わってきたわけです」(川崎 坂元)と職場の議論の経過が紹介される。
 実際に生徒を抱えている多くの該当校での共通な状況かもしれない。統合し、新しくなる学校の将来はどうなるのかということとは別にして……。

 

「減るの?」

 今回のシンポジウムのテーマの「減るの?変わるの?どうなるの?」の第一番目の「減るの?」に関する議論は、不十分かもしれない。保護者からは、「自分の母校がなくなってしまうかもしれない子どもたちの声をしっかり受け止めたい、そこを出発点にしたい。……30人学級、25人学級が実現したら、それでも統廃合の必要があるんでしょうか。数を減らさなければ行けないんででしょうか」(市民)と言う意見があり、親の立場からの発言を事前にお願いした小室さんのように、本人は三崎高校を卒業し子どもが中沢高校で、どちらもなくなっちゃうという話もあった。都岡港校の生徒も参加していたので、高校生の感想も含めて、「学校が消える」ことをどう考えるかという議論は、これからも必要であろう。

「どうなるの?」

 大師高校で総合学科高校づくりに携わってきた南さんは、新しい学校づくりは「しんどいけど楽しいこともいくつかありました」これは、ある意味では、自分自身のそれまでの学校観、授業観、学力観が、どこかで変えさせられてきたというか、新しいものが見えてきて、自分自身の中に成長があったからだ、と思うんです」という経験を語る。さらに、「神奈川の高校教育改革の問題は再編対象校だけではない」ことを強く主張される。2003年からの新しいカリキュラムの下では非常に総合学科に近くなるのではないかと予想し、「本格的な議論を普通科高校を含めてやらなくてはいけない」し、そうでなければ「再編校の取り組みも非常に浮いたものになる」と述べる。
 まさにその通りかもしれない。その学校も、生徒が「自分に合わせられる学校にできるか、そういうような場所として保障できるか」(高村)が問われている。それを、私たちが求める学校改革の基本に据えていきたい。

(なかのわたり つよし 県立相模台工業高校教諭、教育研究所所員)

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