大阪の高校再編整備計画

三橋 正俊  

 
 

 はじめに

今、日本全国に高校再編の嵐が吹き荒れている。1990年代に入って、少子化の波が高校段階にまで及んで、高校生の数が激減し始めた。文部省は高校定数改善計画を40人学級のまま据え置いた状態であるため、全国では学級減が加速度的に進行している。このため、1990年代後半から各都道府県では高校の統廃合計画を次々と発表してきている。単に高校を募集停止や廃校にするのではなく、ここに高校教育改革の風が吹き込んでくることになる。普通高校や専門高校を2校統合して総合学科高校や単位制高校あるいは新たな専門高校1校へ再編するという手法が使われる。
 都道府県教育長協議会第4部会の1998年度研究報告「公立高等学校の再編整備について」によると、1998年度から2003年度における公私立高校(全日制)の収容定員の推移を予想すると、41県の回答のうち、全ての県が減少すると答え、平均減少率は11%だという(『内外教育』14999年9月3日号)。「15%以上」とした県が6県(15%)あり、「10〜15%未満」が21県(51%)と最も多かったという。次いで、「5〜10%未満」12件(29%)と続き、あと「5%以下」が2県(5%)だった。ピーク時と比較すると、平均33%の削減と記事にあるが、この先高校生数はさらに減少を続けボトムを迎えると予想される時点と比べると、大都市圏を抱える都府県ではピーク時と比較して50%を下回って減少するところが現れてくる。
 同研究報告では公立高校(全日制)の学校数についての1998年度と2003年度の比較では、38県の回答を乗せている。一目でわかるのは、普通高校が削減される県が18県(47%)と最も多く、農業高校9県(24%)、工業高校8県(21%)と続いている。そして総合学科高校が21県(55%)で増加するとしている。 

公立高校(全日制)の増減の予測  数字は県数

  増加 減少 増減なし
普通高校 6(16%) 18(47%) 14(37%)
商業高校 0(0%) 7(18%) 31(81%)
工業高校 1(3%) 8(21%) 29(76%)
農業高校 1(3%) 9(24%) 28(74%)
水産高校 0(0%) 2(5%) 19(50%)
総合学科 21(55%) 0(0%) 13(34%)


 別に新しいタイプの高校について、「設置予定」「現在検討中」「今後検討予定」と答えた県が38県あって、このうち総合学科高校は19県(50%)、単位制高校は16県(42%)、中高一貫校は12件(32%)、総合選択制は3県(8%)っている。文部省が臨教審以来望んできた高校多様化による高校再編がここへきて、一挙に実現へ向けて動き出したと見ることができる。
 神奈川県では、1997年4月に県立高校障害構想検討協議会が設置され、1998年9月にその答申が出され、その答申をもとに教育庁内のプロジェクトチームで検討がなされ1999年8月に「県立高校改革推進計画」が発表された。2000年度からの5年間の前期計画では、新しいタイプの高校20校が設置されるが、内14項が2校統合で新校となり、6校が単独改編となる。14校が削減されることになる。2005年度からの後期計画は、前期計画の進捗状況を見ながら発表されることになっている。ここでも、11〜16校程度の削減が見込まれている。合計25〜20校が削減され、単位制普通高校が8校程度、フレキシブルスクールが3校、総合学科高校が14校程度、新たな専門高校が4校程度生まれることになる。
 こうした神奈川の状況を全国的な再編の中に位置づけて捕らえ直したい。その手始めに、神奈川と似た状況にある他県の状況を調査して、神奈川県の再編計画を外から眺める必要があると考えた。そして、1999年12月に教育研究所のメンバーと共に、神奈川県と似た状況にあり、「学区に1校は総合学科を」と組合レベルで運動を進めている大阪の高教組を訪ねて、大阪の再編計画と府立松原高校の総合学科への取り組み状況について聞き取り調査を行った。今回は、その大阪の再編計画と総合学科への取り組みについて、神奈川との比較を交えながら報告したい。

 大阪と神奈川の公立高校の概況

 大阪の1987年度の公立中学卒業者数は147,907人をピークに減少に向かう。1998年度には公立中学校卒業者数が88,945人(ピーク時の60.1%)となった。2008年度には7万人を割り、ピーク時の50%を下回るものと予想される(『教育改革プログラム』大阪府教委1999年4月刊)神奈川では、同じく1987年度に公立中学校卒業者数が122,167人とピークを迎え、1998年度には77,424人(ピーク時の63.4%)となり、ボトムと推計される2005年度には62,880人と51.5%となる。以後神奈川では漸増傾向を示すが、2013年度まで68,000人を越えることはない(『活力と魅力ある県立高校をめざして 県立高校改革推進計画』神奈川県教委1999年11月刊)。数字の上では、神奈川の生徒数の減少は急速に進むものの、大阪の生徒の減少率は50%以下と激しいように思われる。
 大阪府の公立高校の学区は9学区あり、公立の普通高校(専門学科併置校は除く)は学区内5校から21校まで学区によって異なり、全部で117校ある。それに全府1学区の普通科・専門学科併置校25校(多くは理数科、英語科、国際教養科など)、総合学科高校4校、専門高校34校を加えると、大阪の全日制公立高校は180校となる。神奈川の公立高校の学区は18学区であり、公立の普通高校は学区内5校から12校までと、全部で150校(専門学科併置校の私立川崎高校と単位制普通科の神奈川総合高校を除く)ある。全県1学区の専門高校が30校、単位制高校1校、総合学科高校1校を加えると、神奈川の全日制公立高校は182校となる。大阪の普通高校と普通科・専門学科併置校を合わせた数が142校となり、神奈川の普通科150校と大差はない。また、全日制公立高校の総数においても、大阪の180校と神奈川の182校とほぼ同数である。ただ学区の数が、神奈川は大阪9学区に対して、18学区と倍の数である。
 大阪では全日制高校進学率は1998年度以前は91.0%と算定されていた。そして1998年度より92.3%と算定されるようになった。定時制・通信制を含めた高校進学率は約96%程度である。神奈川では、全日制高校進学率を1999年度まで93.5%としていたが、2000年度から94%と算定している。定時制・通信制を含めると高校進学率は96.5%を越える程度となる。
 大阪の全日制公立高校の入試制度は、推薦制は導入されていないが、入試時期は2回ある。2月20日頃に行われる入試では、総合学科4校(府立3校、私立1校)と理数科3校、国際教養学科9校の全定員とそれ以外の専門高校の定員の半数の合格者を決める。3月中旬には専門高校の定員と残りの半数と全ての普通高校の入試がが行われる。神奈川は普通科専門コース(定員の10%)と専門高校(定員の30%)の推薦入試の後、2月中旬に全日制高校の一斉の入試が行われるが、受験生は2校志願できる。第1希望で定員の80%の合格者を決めた後、第2希望の20%の合格者を決めて、合格発表は同時に行う。普通高校の学区外合格者の枠は神奈川は8%あるが、大阪では特定中学を指定した調整募集枠のみで、一律の学区外合格者枠はない。
 大阪の入試選抜は、学力検査(普通科は5教科、その他総合学科等は3教科)400点、内申440点の計840点で序列化されて決定される。ただし、定員数の上下にボーダーゾーンが設定されていて、総合学科は30%(定員内15%と定員外15%)、専門高校は10%(同)普通高校は5%(同)については、各高校で学力検査重視か内申書重視で合否判定がなされている。総合学科高校はこの30%に面接結果を反映させている。神奈川は学力検査(普通科は5教科、その他は3〜5教科)40%と調査書の評定60%で序列化して第1希望の定員の70%(全定員の56%)を決定する(普通科専門コースと専門高校は事前に公表した「選考にあたって重視する内容」での選考も可)。第1希望の定員の30%と第2希望の定員(全定員の44%)に関しては、事前に公表した「選考にあたって重視する内容」に従って合格者を決める。
 

 大阪の高校再編整備計画と高校現場

 1995年11月に府教委は府学校教育審議会を設置して、199年3月に「高校教育」「義務教育」「養護教育」「産業教育」(産業教育部会のみ1998年9月に発足)に関する答申を得た。1999年4月に府教委の「教育改革プログラム」が策定され、1999年度から2008年度までの10年間の高校再編整備計画を発表した。10年間を3期に区分した、単独改編と2校統合によって、府立高校を再編しようとするものである。1.総合学科高校を各学区1校程度設置、2.全日制単位制高校を複数校設置、3.新たな専門学科高校の設置、4.普通科の総合選択制高校を各学区に複数校設置等によって、155校の府立高校が135校に削減される。神奈川県の県立高校の削減も、2000年度から2009年度に掛けて166校から140〜135校になると考えると、数の上ではあまり変わらないものになる。
 しかし内容の点からは、4.普通科の総合選択制高校を拡大していこうという大阪の再編と神奈川の再編とは違っている。現在神奈川には、自ら総合選択制を名乗って改革を進めている高校は2校あるが、県教委の再編計画には、専門コース設置校を増やすものの普通科の総合選択制高校を拡大する方向性はない。大阪では、府教委の発行した「可能性にチャレンジ!」と題するパンフレットには、次のようにそれぞれの違いが描かれている。

大阪府教委のパンフレット

普通科総合選択制 必修科目+コース指定科目+自由選択科目
総合学科 必修科目+総合選択科目+自由選択科目
全日制単位制高校 必修科目+自由選択科目
専門高校(学科) 必修科目+専門科目+選択科目


 府教委のパンフレットでは総合選択制高校では、1年次から2年次進級するにあたって「語学」「理数」「地域文化」「体育」「芸術」「情報」「福祉」などのコースを選ぶことにより、「得意分野を伸ばしたり、進路目標にあった学習ができます」と解説されている。
 また、総合学科では「系列」に関連科目をまとめていると説明されているが、どの「系列」からでも、生徒は自由に学びたい科目を選択できる。全日制単位制高校には、神奈川の単位制高校に見られる「系」の設置はうたわれていないし、自由選択科目から学びたい科目を選択できるようになっている。しかし、現場の受け止め方は、府教委の示す違いを厳密に考えているようには思えない。専門高校を除いて、普通科総合選択制も総合学科も全日制単位制高校も実は同じものと受け止めているようである。再編対象校の指定をめぐって、総合学科高校は各学区1校程度という枠があるため、総合学科高校への改編を望みながら、選択制高校や単位制高校を選択したという経緯があったというのである。
 1999年8月に府教育委員会議が「全日制府立高等学校特色づくり・再編整備第1期計画」と「同第1年次実施対象校」の案を発表し、11月に決定した。第1期計画の対象校は、総合選択制高校2校、総合学科高校1校、全日制単位制高校1校である。2001年度からの開校を目指して、「新高校整備推進プロジェクトチーム」が設置された。なんと一年半ほどで開校準備をしなければならない。しかし、大阪では高校現場における解放教育(同和教育)などの改革の積み重ねがあり、短期間での開校について問題視されるようなことはないと聞いた。
 学校間格差による「教育困難校」(神奈川の課題集中校を大阪ではそう呼ぶ)は、大阪市と周辺市のベルト地帯に位置付いているという。「地元集中方式」と呼ばれる運動に執り組んできた地域もあり、学区によって「輪切り」の厚いところと薄いところがあって一様ではないが、「困難校」を中心に様々な高校改革の試みをしてきている。この積み重ねが再編計画案をスムースに受け止める地盤をつくっている。府教委も7校の「困難校」に「高校同和加配」を含む20名の加配をつけ、各学区の下2校までに6〜7名の加配をつけているという(神奈川の課題集中校への加配は4名と極めて少ない)。そのうち10数校が積極的に「下からの改革」に取り組んできた。
 芝島高校(1975年全日制普通科として開校)、松原高校(1978年全日制普通科として開校)はそれらの高校の先頭に位置する高校で、20名の加配が付いている。それを活かして1994年度から自由選択を多くした総合選択制を採用してきた。この2校が1996年度から総合学科高校に名乗りを上げることになった。1996年度にはもう一つ今宮高校(1948年度全日制普通科として開校した伝統校)が総合学科高校に踏み切っている。この動きの中から、府の高教組も「総合学科高校を各学区に1校を!」というスローガンを揚げることになったという。この3校の総合学科高校が存在したため、2001年度に総合選択制高校に改編されることになった福井高校は、実は総合学科への改編を望んでいたが、同じ学区内に柴島高校が存在するために、総合選択制への道を選んだのである。同じく2001年度から全日制単位制高校になる長吉高校も、実は総合学科を希望していながら、同じ学区内に松原高校が存在するために、単位制高校を選択したという。

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