文部省は1999年12月15日に、1998年度の「公・私立高校における途中退学者等の状況」を発表した(『内外教育』1999年12月21日号)。その中の都道府県別の中退者数と中退率(公・私立計)で、中退者が大きいのは1.東京11,529人(3.2%)2.大阪8,293人(3.1%)3.神奈川6,112人(2.6%)4.愛知5,981人(2.8%)5.埼玉5,964人(2.9%)の順だという。全国の総数では111,372人(2.6%)と、前年度より119人減ったものの依然高い水準が続いている。こうした中退者の多くが、神奈川の例を見るまでもなく、集中校に集中している(「独自調査 義務規定等に関するアンケート」『神奈川の高校 教育白書99』1999年10月刊を参照していただきたい)。中退者問題は、この課題集中校の問題をどう受け止め、高校教育改革をどう進めていくかの問題でもある。
大阪でも神奈川でも今回の再編計画には、こうした課題集中校の単独であれ2校統合であれ、新しいタイプの高校への改編が少なからず含まれている。しかし高校再編は、単に再編対象校ばかりではなく、その他の高校も巻き込んだ「特色ある高校」づくりとして、全県的・全国的な高校教育改革の一環でもある。こう位置づけることで教育行政側の再編意図が、学校間格差に代えて「特色ある高校」による新たな競争をもくろんだものであることが見えてくる。いわば、新たな学校間競争の始まりとでもいえるものである。果たしてこの試みが、学校間格差を是正する力となるのだろうか?
神奈川の高教組は1991年に課題集中校対策会議を設置して、「課題集中校からの教育改革」をスローガンに揚げて、体県教委交渉を重ねて改革に取り組んできた(その一端が『課題集中校プロジェクト97 学校づくり最前線』1997年3月刊に示されている)。しかし、小集団学習の展開や多様な選択科目の設置、単位制の弾力的運用などの改革を目標に据えてきたが、大阪のように総合学科高校への改革を展望することはなかった。この運動は、当初の5年間について、定数加配・予算分配など教育条件整備の傾斜的配分を目に見える形で前進させ、一定の成果をもたらした。しかし、1994年度から始まった県教委の「魅力と特色ある高校づくりプラン」の開始とともに、1995年度から県教委は「特色づくり」加配を設置して、課題集中校への定数加配はほぼ頭打ちの状態になった。ここにきて、さらに再編対象校への施設・設備の新たな予算配分が加わろうとしている。神奈川の県教委の施策は、「特色ある高校」づくりへほぼシフトし終わったといえるのではないだろうか。
しかし大阪では、「教育困難校」への取り組みが盛んに行われ、松原高校を始めとして総合学科への改革の取り組みが功を奏して、総合学科高校では中退者は激減したという。府高教の役員の方の話では、第1期で再編対象校から漏れた高校から、早く計画を発表して欲しいとの声も挙がっているという。今後、一部の進学校は別として、再編対象校になるかならないかの各高校の綱引きが盛んになるのではということである。大阪と神奈川との違いは、おそらくこの基本的な再編への取り組み姿勢ではないだろうか。積極的に「特色ある高校」づくりや高校再編を利用して現場での高校改革に取り組んでいこうという姿勢の濃淡の違いがそこにあるように思われる。そうは言っても神奈川での高校再編は既に始まっている。全ての高校の学校間競争が今後激化していくと予測される。最も危惧されるのは、再編対象校になった高校の改革によって、新たな課題集中校が誕生して、学校間格差の地図が塗り替えられただけで終わってしまうのではないかということである。教育行政側の課題集中校への配慮を失わない対応を望むとともに、各高校現場で生徒の実態に見合った、生徒を中心に据えた高校教育改革の推進を期待したい。