特集 : 検証「特色づくり」「新入試制度」
 

学習塾から見た
新しい入試選抜制度の影響と課題

中萬 隆信 

 

 96年度の新神奈川方式によって生じた現象・問題点を中心に私見を交え述べさせて頂きます。
 第一点。高校間格差の拡大。『進学校』と言われる学校ほど、入学難度が上昇すると予想はされていたものの、予想以上の難化も散見された。代表的な例は横浜南部学区の柏陽。結果的に入試に於ける合格者の平均点は、神奈川総合の個性化コース、湘南高校に次いで3番目に位置する高い設定となった。柏陽高校の場合、地域の人気校である上に、40名の定員削減が影響しものと考えられる。その他湘南、神奈川総合、外語短大付属、平塚江南、希望が丘、厚木、光陵等、学区内の『上位校』がおしなべて難化している一方、入り易い学校がより入り易くなった例は多言を要するまでもなかろう。むしろ、欠員641名、59校の定員割れに注目しておきたい。これらの学校は必ずしも序列の下位に位置する学校ばかりでなく、学区内でミドルに位置する例が目立った。即ち、@第一志望の上位校へ抜ける。A同校の第一志望で合格して抜ける。B併願の私立へ抜ける。これらが複合的に影響したため、第二志望の見かけの応募人数をどう読むかが今後の課題といえまいか。
 ところで、高課研で論議されていた『高校間格差の是正』の視点からは逆行するこの結果を、今後どのように解釈してゆくのであろうか。ア・テスト時代と比較して、『行きたい学校』がより表面的に浮き出た一方、またその逆も表面化した。それが県民のニーズだからそれで良しとするのか。それならそれで、今後の改善の視点を明確にされてはどうだろうか。私見で恐縮だが、@人気校の定員を拡大する。A現実的な視点から統廃合を考える。B生徒・父母の進路意識を変革たらしめる魅力ある高校造りの3点に集約されてはいかがなものか。私たちの塾では自立性の高い生徒と学力的に不振と思われる生徒それぞれに応じてクラス定員を柔軟に変動させる。手厚い
指導が必要な生徒集団は当然定員を少なくする。それと全く同次元で短絡的に論ずるつもりはないが、基本的な考え方として、『高校間格差の是正』、『特色ある高校造り』の視点と定員計画の問題は極めて重要な関係にあると考える。
 第二点。内申書重視による問題点。
 周知の通り、『進学校』といわれる学校では、入試得点及び3年時の内申点重視の傾向であった。学区上位のA高校では、総合評価において、内申点は一切考慮に入れず、入試得点の素点のみで序列化した。また学区上位のB高校でも、内申点を考慮せず、入試得点を偏差値換算した。一方、学区下位のC高校では、特記事項等にポイント制を導入した。

ex. 1 部活動を3年間続けた。
2 生徒会役員を1年間努めた。
3 社会福祉活動
4 内申点で5の科目がある。
5 入試得点で45点以上の科目がある。       etc.

 これらに該当すれば1ポイントずつ上乗せして選抜を行っている。これらの事例の是非はともかく、実際に総合評価に記された重視事項がどの程度反映されているかどうかは未だ不明な点が少なくない。私たちの模試データで大よそはつかめるものの、各高校の選抜の中身が公にされていないがゆえに、一般的な父母、生徒に与える不安感は多大である。
 特に、生徒会・部活・ボランティアといった学業成績外の分野を全ての高校が漠然と提示したことによる影響は小さくない。私の塾に通う中3のある生徒は、「本当は学校のために生徒会に立候補したいけれど、高校受験を意識しているように思われたくないからやめる。」一方逆もある。「高校受験のために部活を続けなければならない。」この両極とも多感な中学生に余計な気遣いをさせている点で不健全である。学業以外の視点で評価尺度を明示することは一見して肯定できるようで、「個性」の人工養成と、内申書の圧力から生じる閉塞感を助長するばかりでなく、自然に素直に育つはずの「個性」の芽をつむことになる。問題は一部の高校がより具体的に明示するならともかくとして、全ての高校が漠然と提示したことである。提示するのでなく、結果的に特記事項をプラス評価すれば良いのではなかろうか。
 第三点、複数志願制度を配慮した入試問題。採点基準の統一性を重視するため、客観テストの色彩が強調され、全国的な流れである「新しい学力感」への配慮がなく、その意味では逆行している。英作文や記述問題のように採点基準を統一しにくい出題がなく、数学の証明問題も補充形式に変更された。理科は分野の拡大で平均点を下げたが、知識や暗記で対応できる範囲にとどまっている。小手先の訓練で対応できる問題が多く、塾等で類似問題を練習している上位生はほとんど満点近い得点となる。そのため得点分布が不自然であるばかりか、次代に要求される思考力や感性を診断する入試とはほど遠い。この点で他県の動きとは全く異なっている。
 第四点、学区により片寄りの目立つ複数志願制度の活用度。
 全県の平均点では、同一志願率の63,8%は初年度としては、まずまずの活用度だったと言えよう。しかし秦野・伊勢原学区の98%をはじめ、同一志願率が80%を越えた学区が複数存在した。申すまでもなく「地域ぐるみ」で同一校を出願するように徹底したのである。県教委の言う「輪切りに因る進路指導から行きたい学校への進学」というタテマエより、「同一校を志願した方が高校側へ熱意が伝わる」などといったあいまいな指導も散見され、波風をたてたくないという中学校や高校のホンネを優先したのである。タテマエとホンネの使い分けを青少年に教育するのが目的でもあるまい。
 その他、私立高が中学校格差を配慮し、内申点に色をつけ始めた例が目立ったこと。また青田買いと批判されてもやむを得ないほどの私立高の推薦入試の実態。私立の一般入試受験者に対する中学校側の進路指導のあり方等、少子代時代において、新しい入試制度は、私立高を取りまく環境に多大な影響をを及ぼしている。以上、私たちの立場から見た新しい入試制度の主たる問題点を独断的に列挙させて頂いた。今後は、中学校・高校、家庭や塾、それぞれの立場は立場としつつも、生徒の目線を重視した望ましい改善に向け、論議が進展されることを切望しております。

(ちゅうまん たかのぶ 中萬学院代表)

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