『教育白書2001』独自調査 中途退学者の声を高校改革へ |
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(2)高校中退者の状況 4)退学して |
3. 中退者のアンケート調査の結果 |
4) 退学して ◆現在は「仕事をするか、何も無し」 表12に示したのは、設問8「現在、どうしていますか」への回答である。アンケート回答者の退学時の学年が1〜3年とまちまちではあるが、何らかの仕事に就いている比率が最も多く、53.2%(33人)となった。他方「特に何もしていない」のがおよそ1/4(15人)を占めている。退学によって積極的に新たな生き方を切り開くことは容易ではないのであろう。文部省調査では、仕事をしている比率は65.2%、「特に何もしていない」のは15.3%であった。回答者が退学してからおよそ3年経過してからの調査であることが、この差の原因の一つかもしれない。 ◆「退学を後悔はしないが…」という気持ち 設問9では、退学後の現在の思いを聞いている。退学を肯定的にとらえた比率が43.6%(27人)となり、否定的に感じているのが30.6%(19人)、「何も感じていない」が16.1%(10人)となった。一方、設問項目が異なるが、文部省調査では、退学を肯定的に思う比率が64.0%と2割ほど多く、否定的なのが35.0%となっている。 また先に言及した当研究所による通信制への転編入生調査では、「前の学校をやめて後悔をしていない」が47.5%、「している」のが27.5%、「何とも思わない」のが15.5%であり(前掲書p.64)、今回の調査が退学を肯定的に考えている比率が最も低い。この数字の間の傾向を一義的には説明するのは困難である。いずれにせよ、肯定的に考えている者の比率がどの調査でも最も多いことは、注目してよいだろう。世間的には、中途退学者は人生行路からの「脱落者」とする通 念がまだ強い。しかし、退学していった生徒自身は、中退した自分を認めたい、決して「脱落」したわけではないという思いが強いといえそうである。ここでも中退者の像が多彩 であり、一つの決めつけでは括ることができないことが示されている。 設問9への記述回答については、退学を肯定的に答えた者のうち24人、否定的に感じている者の16人、「特に何も感じていない」と「その他」の中の合わせて6人が記述欄に記載がある。主なものを順に紹介したい。 まず、「退学してよかった」という記述をとりあげると、「今のアルバイトが自分に一番向いているように感じるから。自分の仕事だって自信をもてる」「今の学校がとても楽しいからです」「自分の将来やりたいことが見つかったし、お金も貯まった」と現在の生き方に満足している人が多い。しかし、「入学した途端から、学校が合っていないと感じたし、行きたいと思って行った学校ではなかったから」「あのまま学校に通 っていたら、気が狂いそうになり、誰かを殺していたかもしれないし、自分でも嫌な思いをしたくなかったので、退学してよかったぁー」 「学校にいるあいだはすごくひどい精心状態だったので、やっと人間らしい生活ができるようになったと思います。ただ、私は高校にレイプされたと思っているので、この傷は一生持っていかなければならないようです」 といった、在学中の苦しみから解放された喜びを語る意見も聞かれる。さらに、「学校はいらない。あっても意見がない。なぜなら学校に行ったからって、なにも変わりはしない。社会にでたほうがまわりが見えるから」 と、学校価値を否定する考えもあった。 次に、「どちらかと言えば、退学してよかった」という記述は、「とにかく学校がつまらない。仕事はお金がもらえるし、友達とのイヤなこともない」「自分に向いている仕事についたので、生き生きと仕事が出来る」「マイナスになった部分もあったけど、自分のこれからのこととか、ゆっくり1人で考えられたから」と現在の自分を肯定している答えとともに、「朝、寝ていられるから。でも、大変よかったとは言えない。でも、退学しなければよかったなんてぜったい言えない、言いたくない」「退学する理由となったアルバイト先で、素敵な人とめぐり逢え、 結婚にいたったから、将来、高校卒業しておけばよかったと思うかもしれないが、現在は、こうかいしていない」 と、微妙な心理をのぞかせている答えもある。 「どちらかと言えば、退学しなければよかった」という声は、「今の生活を後悔してはいないけどやっぱり高校生活を一緒にすごした友だちと卒業式したかった」「1日中働くのはたいへんだし友達との交友も少なくなってしまった」「今は仕事があるからいいけど、やっぱり高校だけはちゃんと卒業したかった」と高校生活を懐かしく思ったり、高卒の資格を望む声が多い。「退学しなければよかった」と後悔している人の声もほぼ同様である。「高卒の資格が欲しいし、友達を見ていて、うらやましい気持ちになった」「退学して分かるのですが“スクール・シック”つまり回りの青春を満喫している人がうらやましいからだと思いますよ」と語っている。「ホームシック」になぞらえて、「スクールシック」と表現したこの言葉が、退学して間もない高校生の心情を語っているように思われる。 「特に何も感じていない」と答えて記述部分では、「自分みたいな人間はどこにいてもだらだらと生きているのには変わりないから、だと思う」「学校(高校)じたいがダルスギ。今の学校もダルイ。(つまらない)バイトして生活する方が楽」「べつにムリして学校に行かなくてもいいと思うし、今の生活が楽しいから」と答えている。 「その他」と答えた人は、「昔から自由だったし、このせいかつが1番らくだから」「本当は学校に行きたかった。でも、自分をコントロールしてくれる先生にめぐり合えなかった」「毎日、家にいてひきこもっているから」など、 個別の事情がはたらいていることが分かる。 ◆退学して困るのは「世間体、仕事、孤独感」 「退学して困っていることはありますか」の回答を示した表14にあるように、困ったことを40.3%(25人)が経験している。それでも58.3%(36人)が「ない」と答えているのは、回答者が退学後間もないためであろう。 困ったことの具体的な内容は、記述部分からうかがえる。「ある」と答えた25人全員が、困った点について記述している。ある人が、「世間体、仕事、孤独感」と3つ並べて答えているが、これが退学して困ったことのエッセンスと言えそうである。「他人から冷たい目で見られる」「人ではないみたいなあつかいを1度だけされた。身分、自分をしょうめいするものがない」「友達が減ったし、なんとなくハズかしい」「友達は高校に行っているから、遊ぶ時間が合わない」との声もある。最も多いのは、仕事に関する問題である。「仕事(就職先)を探すのに、高校中退では職種が限られてしまう」「面 接の時とか中退という事で落とされたりするので」「将来仕事するのに、 高卒以上が多くて自分は、就職できるのか心配」「高校中退した人がやれる仕事は少ないから」。その他「一度辞めてしまうと、普通 校に戻るということは、たいへんなことなので」「1人で勉強する。自分で自分を律していくのがこんなに大変だと思わなかった」といった勉強志向の人の困難を訴える声もあった。 ◆もう一度高校へ行くならば、全日制か通信制 次に、学校への復帰願望についてみてみよう。設問12(表15)では、高校(学校)への再度の入学意志を聞いた。40.3%(25人)は、「行きたい」と回答している。さらに、表16の「どんな高校(学校)か」をみると、「行きたい」と答えたうちの40.0%(10人)は全日制普通 科、28.0%(7人)が通信制を望んでいる。「退学して困った」 から「やはり高校へ」というとき、「仕事、友達、世間体」を考えていると思われる。全日制高校は、このような中退者の思いをふまえた学校の仕組みを作る必要があるだろう。 通信制が全日制に次いで多いのは、通信制の「学校らしからぬ」特徴を伝え聞き、「縛られたくない」との思いからきたと考えられる。一方で、学校を見限る意識からきたのであろうか、学校に行こうとは「思わない」のが35.5% (22人)と、「行きたい」に匹敵している。「わからない」と迷っている比率は14.5%(9人)を占めている。この意識には、学校への拒否と囚われの思いがないまぜになっているのかもしれない。 |
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