『教育白書2001』独自調査
 中途退学者の声を高校改革へ
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now 中退者のアンケート調査の結果
(2)高校中退者の状況 
3)退学の時   

 3. 中退者のアンケート調査の結果
 (2) 高校中退者の状況 
 以下、アンケートの回答内容の大きな傾向を紹介し、同時に主に記述回答に注目して分析を試みる。質問項目の内容に応じて、大きく五つに分けて述べていく。


 3) 退学の時
 ◆難しい退学理由の特定
 退学理由を正確に認識することは、高校教育のあり方を見直すポイントかもしれない。しかし、表9の設問7「どうして退学しましたか」の結果 をみると、理由を特定することは難しい。  
 回答をあえて、どちらかというと「自分の側の理由」といえるもの(「勉強が嫌い」、「仕事・アルバイトに専念」、「生活が苦しい」、および「その他」のなかで「妊娠」「病気」「他にやりたいことあり」を含める。対学校関係において「生徒本人」の側の理由と考えられるもの)と、どちらかというと「学校生活上の理由」(「友達と嫌なことがあった」、「教員・学校と嫌なことがあった」、「朝起きるのがつらく生活リズムが合わない」、および「その他」 のなかで「留年になった」、「退学届けが来た」、「家出してたら親にやめさせられた」を含める。対学校関係において「生徒」に影響・作用した周囲・環境に理由を帰すべきと考えられるもの)の二つに分けてみてみると、前者 が33.9%(21人)、後者が45.2%(28人)となった。もちろん「学校生活上の理由」といっても、「生徒本人」の 問題があって「周囲・環境」が退学に導く理由となったことは容易に想像できるが、直接退学に結びついたこととしてとらえてみると、学校の中での互いの、そして教員との人間関係の問題や学校生活そのものへの不適合が、退学へと導いているようだ。学校の通 念では、「生活リズムが合わない」という回答は、生徒本人の問題とされよう。 しかし、私たちは現在の全日制高校の「出席、進級・卒業、授業、生徒指導、ホームルーム」などのシステムを捉えなおしたいという問題意識から、「学校生活上の理由」に分類した。
 1998年度に当研究所は、通 信制高校への転編入生へのアンケート調査をおこなった。(「自分を伸ばせる自由な学校を求めて」『神奈川の高校 教育白書98』p.54〜77)その中で前籍校をやめた理由を尋ねたところ、表10(次ページ) のようになった。この表においては、「健康上の理由」と「いじめ・不登校など」と答えた比率が66人/228人(25.0%) に上ったこ とに注目したい。このような事態は、「今の生徒たちの精神的・肉体的ダメージの拡大を示しているのでしょうか」(同上書p.59〜60)と本文に書かれている。
 人間関係や学校へのミスマッチが退学理由の半数近くをしめているとみるのが正しければ、少なくとも高校教員としては、生徒にとって「生きていきやすい」学校のあり方を既存の学校のイメージにとらわれずに考える必要があるのかもしれない。文部省調査でも退学理由のうち最も多く、近年多数を占めるようになった回答は、「高校の生活が合わなかったから」(「学校生活不適応」と文部省は分類する)であり、その数値は30.3%となっている。 設問7にも記述回答部分があるので、その分析を通じて「退学理由」に関して丁寧に考えてみたい。

 ◆退学に深く関わる「生活リズム」と人間関係
 中退理由で「学校生活上の理由」としてまとめた28人(45.2%)のうちで記述部分に答えた生徒は、「友達との関係で嫌なことがあったから」が4人、「教員・学校との関係で嫌なことがあったから」が8人、「朝起きるのがつらくて生活リズムが合わないから」が4人だった。
 「友達との関係」では、「友達がイスにすわっていて足をだしたり口も聞いてくれないし、みんなの中に入っていけないから」「友達が俺のことをはぶいたり、嫌味を言ったりした」「底辺校ではいわゆるグループに入らないで1人でいると、まわりからいやがらせをうけるかくりつもあがる、ようだ。たぶん自分がまわりとトラブルが多かったのはそのせいだ、と思います」と、仲間に入れなかったという声が聞かれる。
 「教員・学校との関係」では、「自分も先生に対する態度も悪かったと思うけれど、先生と関係がだんだん悪くなった(担任の先生とはとても良い関係だった)」「自分の気持ちや行動を理解してもらえずくやしい思いが多かった」「生先は高校はすぐやめれるってことを生徒たちの弱みだと思っているらしく、『やめたいなら、やめろ』とか『早く、やめろ』とか言われた。口ごたえしたり、たいど悪いのは確かにこっちが、いけないけどそこを弱みみたいに言うなんておかしいと思った」「ケンカばっかでイライラする」など、教員とのトラブルで退学した、あるいは退学させられたという声が多い。
 「生活リズム」では、「じゅぎょうに出なかった!」「出席日数がたりなかった」「学校の場所が遠くてやる気がでなかった」「夜中まであそび歩いて、寝ずに学校に行っても家までのきょりが近いからすぐ友達と家に帰って来て、みんなと寝てて、夜またあそびに行く生活に慣れて、あそんでる方が楽しかったから」と答えている。
 次に、「自分の側の理由」としたグループの21人(33.9%)の中退者については、「仕事・アルバイトに専念したいから」といった「進路変更」が多かった。「勉強が嫌い」という文部科学省のいわゆる「学業不適応」がそれに次いでいる。「仕事・アルバイト」を選んだ回答者のうち4人が次のように書いている。「中学卒業とともにバイトを始めていたので、働いていることのほうが楽しかったから」「3年のゴールデンウィークから始めたアルバイトがとても楽しく、周りの人間関係にも恵まれ、学校に行く意味がよくわからなくなってしまったから」「勉強がきらいだったのと、生活が苦しかったのが重なってアルバイトに専念したかった」「お金をためたかったから」 と、積極的に進路変更をしたと受けとめられる記述が多い。他方、「勉強が嫌い」を選んだ回答者のうち2人が一言、「つまらない」と書いている。
 「その他」を選んだ回答者も17人(27.4%)と多くなっているが、そのうち11人が記述欄に記入している。その中から、いくつかを紹介したい。「まわりにながされて自分がどんどんダメになっていくと思ったから」「高校の2学期に家出してそれで妊娠してあと少しで卒業だったから述ったけどどうしても産みたかったから」「家出しながらもちゃんと学校には行っていたのに、親が勝手に退学届を出してしまった」「やりたかったことに時間をかけたかったし、もともと勉強はすきじゃないから」「小学生の頃からなりたかったことがあったので、その資格がとりたかったから」「いま、落ちついてゆっくり考えれば、わたしが集団生活ができなかったのだと思います。 とにかくあそこへ行くと自分のリズムが崩れいつも圧迫感を感じながら生活していました」など、理由は複雑で様々である。

 ◆退学をとめようとする保護者
 様々な理由による退学であるが、実際に退学するとき、保護者の気持ちは生徒本人と大いに異なる。表11の設問10「退学について保護者はどんな反応を示しましたか」に示したように、過半数(34人)は退学に反対であったようだ。高校卒業資格が、進学は言うに及ばず、就職、資格取得などでほぼ必要条件となっている日本社会の中で、このような保護者の対応は十分に首肯できるところである。その一方で、退学に対して保護者も反対ではなかった比率が32.3%(20人)となっているのは、高校教育の実態に不満をもち、見限っているのは、生徒だけではないということであろうか、あるいは自分の子を見ていて、「仕方がない」と受けとめたり、諦めがついていたということであろうか。

 
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