『教育白書2001』独自調査
 中途退学者の声を高校改革へ
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now 中退者のアンケート調査の結果
(2)高校中退者の状況 
2)高校に入学して

 3. 中退者のアンケート調査の結果
 (2) 高校中退者の状況 
 以下、アンケートの回答内容の大きな傾向を紹介し、同時に主に記述回答に注目して分析を試みる。質問項目の内容に応じて、大きく五つに分けて述べていく。


2) 高校に入学して
 ◆入学した高校・授業の印象  
 次に、設問5「入学した学校を最初どのように感じましたか」と設問6「入学した高校の授業はどうでしたか」 に関して述べよう。  
 入学した高校については、「自分にあった」、「あっていない」、「どちらでもない」でほぼ三分された(表6)。 ただ「自分にあった学校だった」を選んだのが、1/4程度(16人)と少なかったのは、いわゆる不本意入学と中退との関係の強さを暗示していよう。この点も文部省調査での「あなたが高校に入学してみてどう思いましたか」という設問と比較してみると、文部省調査は回答項目が14あり、多様であるが、回答数の多い順に上から四つは以下のようである(複数選択となっている)。「仲間と楽しく過ごせる(37.8%)」→「校則が厳しい(34.3%)」→「勉強が難しい(23.6%)」→「高校の先生は冷たい(22.6%)」、このように高校での生活に満足しているとはいいがたい。
 また同じ文部省調査での「あなたは高校の授業の内容についてどう思いましたか」という設問への回答は表7のようである。見られるように「わかりにくい」が計54.2%となっており、必ずしも生徒の実態に応じた授業が工夫されているとはいえないのかもしれない。私たちの調査は、サンプル数が少ないので比較と分析には慎重さが必要だが、神奈川県立高校では授業の「わかりやす さ」は、30.7%となっている(表8)。とはいえ「わかりにくい」を選んだ方が43.6%とより多くなっているので、 高校の授業についての感じ方の大きな傾向としては、文部省調査に示された全国的な傾向と類似している。
 こうしてみると、入学した高校にそれなりに満足し、授業にもついていけるようだと感じた中退生徒は、多く見積もっても3割程度となる。この数字からは、一般 的な中退者のイメージである「授業が分からず、学校にもあわないから中退」という層が多数を占めることとともに、その一方で「授業にも大きな苦労はなかった、学校にもあっていたにもかかわらず中退した」という、中退者像の通 念的なイメージに合わない層が、かなり存在することが示されている。以下、記述回答の紹介・分析をしながら、中退者像をステレオタイプによっては捉えられないこと、 また一口に中退者と言っても多面性があることを考えてみたい(なお、記述回答は回答者の文章を修正せず、そのまま再録した)。

 ◆入学した学校の最初の感じ〜多彩な記述内容  
 「自分にあっていない学校だと思った」という回答が35.5%と最も多く、このうち19人が記述部分に答えている。その理由を探ってみると、「つまんない」「雰囲気が合わない」という漠然とした答えとともに、友人関係で不満を訴える声が目立った。「同じ年の子でもヤンキーばっかで恐かった」「クラスに入った瞬間から聞こえてくる会話や他のクラスメイトの行動はあまりにも稚拙で、頭がくらくらしてきた」「教室ではみんなうるさくて、先生の話を聞かないから生先がどなって結局授業になっていない」「まさに無法地帯だった。まわりとトラブルもあったし」「いろんな意味で悪い方に成長していった。かんきょうが悪かった」という声が続く。  
 次いで「どちらでもない」という回答が32.3%であり、13人が記述部分に答えているが、「何にも感じなかった」 という傾向が見られる。「高校とは、こう言う所なのか、と思った」「自分に合っているかどうかはわからない。 高校って厳しいところだと思った」という声とともに、中には「ムカツク先生がいたから」「行きたくて、その高校に行ったわけではないから」と入学当初からその高校に関心を示せなかったという答えもあった。  
 「自分にあった学校だと思った」という回答は25.8%で、15人が記述部分に書いているが、「自分の学力にあった学校だと思った。友達も良かった。自分に無理がないと思った」「自分の成績にあっていたし、先生方も良い人ばっかりだったから」「仲のいい友達がいっぱいできたから」「学校のきそくがゆるく、自由だったし、友達もみんな自分と同じレベルだったから」「校則などあまりうるさくない感じだった」との答えが目立っている。
 学校間格差の下では、「学力」や志向が似たような生徒の集団が各高校で形成されるといわれる。中退者を多く出す課題集中校では、「学力」が低く、友人との遊びにひたすら関心を抱く生徒層がそれなりの比率を占めるのは 事実かもしれない。しかし、真面目に勉強に取り組み、生活もきちんとし、スポーツが好きなような生徒層も確実に存在する。前節でふれた「授業にも大きな苦労なかった、学校にもあっていたにもかかわらず中退した」という、 中退者像の通念的なイメージに合わない層は、どちらに属するのか。一義的には断定できそうもない。しかし、このような中退者の声からは「友人関係に悩む」姿はうかがえない。その一方で、「自分に学校が合っていない」と答えた中退者たちには、授業や学校の生活環境に不満を述べ、人間関係に悩む姿が目立った。これらの人々はなぜ中退したのだろうか。次節で考えてみたい。

 
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