『教育白書2001』独自調査
 中途退学者の声を高校改革へ
BACK TOP NEXT
now はじめに

 1.はじめに
 公・私立を合わせた神奈川県の全日制高等学校への進学率が、91%を超える今日、高校は多くの若者にとっての一般 的な学習機関であり、また生活の場でもある。しかし、せっかく高校に進学したものの、さまざまな理由で中途退学をしていく生徒はあとをたたない。文部省(現文部科学省)の調査では、1999年度の中退者は、106,578人、率にして2.5%であった。同年度、県内では県立・市立高校合わせ、中退した生徒は、3,061人、在籍者からみた比率にして2.1%であった。
 この11年間の中退状況は表1のようになっている。全国的にみると、6年前までの中退率は2%前後で推移してきたが、1996年度より、2.5%を超えて増加傾向にある。神奈川県内では、中退率は1995年度までは1.5%前後にとどまっていたが、その後上昇傾向を見せ、1997 年度には2.0%を越えてしまっている。
 少子化が進み、生徒数が減少している今日においても、相当数の生徒が、学校を去っていく状況は変わらない。各校においては、カリキュラム編成の工夫、小集団学習の導入、教務内規や生活指導の見直しなど、様々な工夫を重ねてきたが、現実には県内でも3,000人あまりの中退者を出している。課題集中校において、中退は珍しいことではなくなってきているが、実際の全県の状況はどうなっているのか、当教育研究所は、過去3年間の中退者の状況(学区ごとの状況や各学校の状況)を調べてみることにした。
 一方、高校教育をめぐって、ここ10数年、全国的に学校の特色づくりがすすめられ、専門コース制・単位 制高校・総合学科などの新設や改編が行われている。神奈川県においても、1980年代からのコース制に加え、1990年代に入り単位 制高校や総合学科も導入されてきた。そして、1997年度からは複数志願制を伴う新しい入学試験制度も始まっている。さらに、1999年、県教委から「県立高校改革推進計画案」(前期計画)が発表され、新しいタイプの学校や総合学科への改編・統合などが示され、新しい学校が20校スタートすることとなった。該当校では、2003年度を皮切りに始まる新校の準備にいとまがない。今後発表される後期計画も含めると、神奈川県内では、大きな高校改革の動きがあるといえる。
 当研究所は、高校生の意識を問うための各種調査を行っている。過去においても、中退後、通 信制高校に転編入した生徒にアンケートを実施し、学校のあり方を分析した(『神奈川の高校 教育白書98』参照)。今年度の独自調査の企画を検討する段階で、中退者へのアンケートをおこなうという提案が出されたとき、危ぶむ声が多かった。これまでも何度か類似の提案が出されてきたが、退学者の所在がつかめない、退学時に多くを語らない生徒が多いので、アンケートを郵送しても、記入して返送してくれそうもない、ということで見送られてきた。しかし、1996年度から急増した中退率を無視しては、真の高校改革は望めない。大きく変動している高校生の現実に切り込まなければ教育改革は中途半端に終わる。たとえ期待された成果 が得られなくとも手をこまねいてはいられないと決断し、実施することにした。
 今回のアンケートでは、退学後に他校に再入学していない者も含めて、中退者の声を集めた。現在進行中の高校改革や、新カリキュラム編成に際して、これらの生徒達の思いを視点に入れた学校づくりをすることが可能だろうか。学校を去っていった生徒たちは、高校での生活や学習をどう思っていたのだろうか。一つの学校の教員対生徒という構図を超えて、中退者の率直な声を寄せてもらうことができないだろうか、それらを真摯に受け止め、今後の高校改革を考えていくことはできるだろうか、というのが私たちの問題意識である。

 
BACK TOP NEXT