神奈川県高等学校教育会館

工業高校キャンパス内の気象観測および気温のシミュレーション

物理・環境教育研究会(物理部門)
  
 普通高校に比べ、工業高校は概して広大なキャンパスを有している。県立川崎工業高等学校も敷地面積41745平方メートル、建物面積23039平方メートルを有する規模である。化学科の3学年で行う課題研究(総合的学習)の時間に、生徒に気温・相対湿度・地表面温度・風向・風速の五つの気象要素を測定させた。生徒研究では暖候期の気温・相対湿度・地表面温度・風向・風速を授業時間内に測定させ、それらの季節変化を調べ
た。またこれらの気象要素をもとに熱流量を計算することで各気象要素が相互的にどのように作用しているかを考察した。それにより学校敷地内でも気温と地表面温度の相関が高いことや地表面温度・比湿・潜熱の三要素が気温と同じような季節変化をすること、また午前中は校舎間に形成されているキャノピーとグランドでは気温差があること、さらに気温のアイソプレスから低温期には敷地の中心部にクール・アイランドができ、高温期にはグランドにヒート・アイランドができていたことがわかった。
 
 本研究では、気温のデータを基にナビエ-ストークス(Navier-Stokes)の式から温度について二次元の非定常移流拡散方程式を導いた。実際の数値計算には非圧縮性気体を仮定し、ブジネスク(Boussinesq)近似により、高温期のグランドに形成された気温によるヒートアイランドがどのように時間変化をしていくのか数値解析を行った。

 観測データから気温のアイソプレスを求めると5月13日および11月18日では、気温の分布範囲が17.0〜20.0℃と低く校舎からグランドにかけてクール・アイランドができていた。6月10日および6月17日では、気温の分布範囲が26.0〜31.8℃と高く、グランドを中心としたヒート・アイランドができていた。

 ヒート・アイランドという言葉は、昨今よく使われ、特に都市が周囲の地域より高温である状態を指すことが多く、都市気候を代表する現象として知られる。本研究では「ヒート・アイランド」という言葉を原義の「周囲に対する高温域」という意味で使用した。クール・アイランドはヒート・アイランドの反義語である。

 数値シミュレーションには6月17日の観測データを用いた。体育館からクラブ室付近に存在する高温域がどのように時間変化するのか、シミュレーションした結果は図3のようになった。差分方程式の出力はエクセルのシート上で行った。

 高温部と低温部との温度差が4.1[℃]なので、これを初期条件として30秒ごとに変化する様子を見ていくと、開始30秒後には高温域が少し大きくなり、1分後には移流の効果が出て南北方向に急速に広がる様子がわかる。1分30秒後にはNo.12地点とNo.13地点の高温部が徐々に広がり、No.12地点は2分30秒後には、ほとんど変化しなくなった。No.13地点は、さらに広がっていき、等温線の間隔も次第に広くなっていくが、4分後には、ほとんど変化しなくなった。高温部の経時変化は移流の効果が大きいことがシミュレーションによってわかった。


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