●特集T● 通信制高校をめぐる研究と実践
 通信制高校は、従来の公立通信制高校、私立通信制高校に加えて、株式会社立通信制高校も出現し、通信制高校の数は増えてきている。しかし、通信制高校の実態はよく分からないという声も多い。場合によっては、全日制や定時制をやめていく生徒の行き場所としての認識しかない場合もある。しかも、単位を簡単に与えるという点ばかり強調され、その実態を見ようとしない。
 実は通信制高校には、学ぶべきことが詰まっているのではないか。今回は、県立通信制高校で「仕事」をしている方に加え、通信制高校に注目している研究者にも、多角的に通信制高校を語ってもらった。不登校者・中退者・外国につながる者などが集う通信制高校に対しては、少なくない研究者も注目しはじめている。
 教育研究所
広域制とサテライト教育施設 
阿久澤麻理子 
はじめに
 私が通信制高校の調査を始めたのは、不登校キャリアが長く、学校に通えない・通いづらい学生と、前任校で出会ったことがきっかけである。十分な支援ができなかったことへの忸怩たる思いが根底にあり、4年前の夏、ある公立高校の通信制課程を訪れた。その年の4月に全日・定時制高校から編転入してきた生徒ばかりのクラスで、障害やいじめをきっかけに長期の不登校に至ったことや、妊娠や刑事施設入所の経験、経済的事情など、通信制に通うようになった経緯を聞き、多様な支援ニーズを持つ若者を受け入れ、学び直しを支援する通信制高校に、インクルーシブ教育の理念を見た思いであった。
 だが、卒業に至るのは簡単ではないこともわかった。不登校経験が長く、基礎学力や学習習慣が十分身についていない若年の生徒にとっては、一人でレポート課題をこなすのは難しく、非活動生から除籍に至る生徒が少なくない。また、友人と「群れる」やんちゃな生徒も、「外国につながる」生徒も、多くの学校ではあまり見かけなかった。通信制高校が後期中等教育の「最後のセーフティネット」であるには、多様な支援ニーズに応え、卒業からその先の進路へとつなぐことが不可欠だと痛感した。
 但し、支援と一言でいっても、その体制は狭域制と広域制で大きく異なる。狭域制では出校日数を増やして学力補充やレポート作成の支援を行なったり、学校に心理・福祉の専門職を置いたり、「学校現場」を中心に支援を行う。これに対して広域制高校では、学校より学校外の「サテライト教育施設」(技能教育施設やサポート校など)が支援の主体となる。ここ数年増加し続けてきた私立通信制高校の約6割は広域制であるから、その体制にも目を向けざるを得ない。そこで本稿では、広域通信制高校とサテライト教育施設の連携によって行われる支援の特徴と課題を取り上げたい。

広域通信制高校の「サテライト教育施設」について
 2014年度学校基本調査では、通信制高校(通信制課程を置く高校)は231校ある。公立77校はすべてが狭域制で、生徒募集の範囲は都道府県単位(隣接する1都道府県を含む場合もある)であるが、私立154校の約6割を占める広域制では、3つ以上の都道府県から全国までとなる。広域制では本校への定期的出校が難しいので、集中スクーリングや、メディアを最大限活用したコースを置くなどしているが、出校回数を減らすだけでは生徒支援は難しい。そこで、全国各地に技能教育施設やサポート校を置き、これらのサテライト教育施設が生徒の日々の学習・生活上の支援を行っている。
 技能連携とは、定時制・通信制高校の生徒が都道府県教育委員会の指定する技能教育施設【1】で学ぶと、その内容の一部が高校の単位とみなされる制度である。学校教育法第55条に根拠があり、その指定を受けるには、年間の指導時間数や、技能教育担当者の数や資格(高校教諭免許の保持者の割合)などの基準を満たさねばならない。1961年に制度が始まった当初は、企業内職業訓練施設が中心であったが、70年代後半からは高等専修学校、近年では学習塾やフリースクール(NPO)等の指定が増えた(なお、本稿で技能教育施設を検討する際には、学校教育法124条に定めがあり、中卒後の進路として確立された高等専修学校は省く)。
 サポート校とは、特定の通信制高校に在籍する生徒の、単位と高卒資格取得を手助けする、任意の施設(塾のようなもの)である。法的根拠がなく、網羅的把握は難しい(最近では一部の自治体が把握に努めている【2】)。内田(2013)が2012年に569校の存在を確認しているが【3】,一つの施設が複数の通信制高校のサポート校になったり、連携の変更・停止も比較的臨機応変に行われるので、正確な把握は難しい。なお任意の施設だが、ボランティア活動や就業体験等に取り組む場合、高校が「学校外における学修の単位認定」をすることが多い。
 前頁に示した一覧は、大手通信制高校のウエブサイトやパンフレット、雑誌等の紹介記事から【4】、通信制高校の技能教育施設、サポート校となっている諸施設をまとめたものである。

支援の特徴と課題
(1)アウトソースされる支援
 一覧を見ると、教育目的の施設として規定された技能教育施設と異なり、サポート校には実に多様な機関が参入している。精神科クリニックが精神疾患、発達障害、依存症をもつ子どものディナイトケアを行いながらサポート校となった例【6】、女子高校生のサポートセンター・一般社団法人Colaboが、学校や家庭に居場所がなく、虐待や性的被害、違法労働等にさらされるリスクの高い女子生徒の支援とともに、サポート校を始めた例などである。
 上記2例にも該当するが、特定の支援ニーズ別に、サポート校は存在する。日本語学校が、学習言語が身についていなかったり、学齢超過で来日した「外国につながる子ども」の日本語教育を行いながら、高卒を支援する例はこれにあたる【7】。高校の単位・卒業資格取得の支援だけでなく、個別性、専門性の高い支援が付加されているのが特徴である。
 疾患・障害、虐待・性被害等のリスクにさらされやすい女子高校生、「外国につながる子」・・・サポート校を見れば、そこに支援ニーズが見える。だが、支援ニーズを個別化・細分化し、サポート校にアウトソースする通信制高校は、果たしてインクルーシブな学校と言えるのか?同じ通信制高校の生徒でも、日常通っているサポート校は、支援ニーズ別に異なる。「分離(別学)すれども平等(同学)」なのである。

(2)通わない学校(一条校)
 一方、サテライト施設で日常の支援を受けている子どもたちは,通信制高校の生徒というより「自分はサテライト教育施設の生徒である」という思いのほうが強い。
 サポート校の生徒はスクーリング等で出校の機会があるが、技能教育施設の場合、施設で高校教諭の免許を持つ者が、高校で履修する科目の授業をしたり(通信制高校の教員を兼務する形をとる)、通信制高校の教員が施設に来て授業をすることが多く、生徒が一度も通信制高校の本校を訪れないことが少なくない。あるフリースクール(技能教育施設)の職員は、「生徒は自分を『フリースクール生』だと思っているが,履歴書などの公式文書には,通信制高校の学校名を書くものと心得ている」と話してくれた。
 ところで、訪問調査を受け入れてくれた2つのフリースクール(いずれもNPOが運営)、「スマイルファクトリー」(大阪府)と「ゆずりは学園」(愛知県)は、それぞれ通信制高校の技能教育施設、サポート校であるが、そもそもの活動は不登校の小中学生を受け入れるところから始まっている。小中学生がここに通うことは、地元の公立小中学校校長の判断で出席として扱われるので、フリースクールに通いながら小学校から高校まで卒業することができる。さらに、「ゆずりは学園」は、通信制大学のサポート校でもあるので、大学まで卒業が可能である。
 こうした状況をどう見るのか、実はたいへんに悩ましい。不登校や障害を持つ子どもの支援とエンパワメントに取り組む市民団体(NPO)が、サテライト教育施設になることによって、公教育に参入するスペースが広がったことを歓迎するのか、それとも、学校から外部機関に教育・支援がアウトソースされ、学校の根幹的機能が弱体化した(学校の役割はカリキュラムの提供と成績・卒業資格の授与)と見るのか…。
 2つのフリースクールは、いずれもNPOが
運営し、不登校の子らの支援に取り組んできた長年の経験に基づく、個性的なプログラムを展開している。最初から高卒ありき、ではなく、不登校の小中学生を支える中から、高校段階の活動が必要となり、通信制高校と連携するようになった。連携があるからこそ、フリースクールでの活動が、学校制度の一部として「認証」され、生徒の進路選択の幅を広げることにもつながっている。これは規制緩和によって可能になったことである。だが、それなら、そもそも学校が担うべき役割とは何か、学校外にアウトソースされた活動の質をどのように担保するのか、問わねばなるまい。

(3)曖昧化する公・私の境界
 上記のような民間(NPO)のフリースクールと私立学校の連携ばかりでなく、公立フリースクールと私立学校の連携もある。
 兵庫県が90年代に全国唯一の「公設公営」フリースクールとして設置した「神出学園」は、不登校によって進路発見が困難な中卒から23歳までの若者を受け入れ、自然・体験活動を実施しているが、併せて県立高校の通信制課程(網干高校、青雲高校)、私立高校2校(クラーク記念国際高等学校、AIE国際高等学校)と連携し、在園生は希望する高校での単位取得ができる【8】。
 在園期間が原則2年以内のため、連携の形態は技能連携でもサポート校でもなく、自然・体験活動の一部が,各学校長によって「学校外における学修の単位認定」を受ける方式をとっている。興味深いのは、フリースクールが県立で、活動を単位認定する学校が私立(「私」が公教育、「公」がサテライト教育施設)だということである。

(4)費用負担の問題
 ところで、サテライト教育施設を活用する場合の深刻な問題は、二重の費用負担(高校の学費とサテライト教育施設の費用)を学習者・保護者が負うことである【9】。特に学校ではないサテライト教育施設には、奨学金などの社会資源が使えない。負担が重ければ、サポート校に通う日数を減らし、支援を切り下げるしかない。
 もちろん、学校やサテライト教育施側も対応を進めている。調査では、独自の奨学金制度を設ける学校や技能教育施設にも出会った。低所得世帯が活用できる公的制度を地元の社会福祉協議会と研究していた学校もあった。あるフリースクール(サポート校)では、地元企業や農家から仕事をもらい、教員・生徒でチームを組んでアルバイトに出向き、就労支援を兼ねつつ生徒の生活を支えていた。制度のない中での独自の取り組みである。
 二重の費用負担が発生することに対して、私立の広域通信制は市場主義、営利主義と批判するのは容易い。だがそれなら、費用負担の軽い公立高校がサテライト教育施設と連携するのはどうなのか?現在、公立との連携をうたうサポート校も少ないながらあるので【10】、公立でも、経済力によってサポート校が活用できる者とできない者がいることになる。私立広域制の問題だと、切り捨てられないことである。

おわりに
 規制緩和により、公教育の担って来た領域がアウトソースされるようになり、そこに公私を問わず多様な機関が参入するようになった。その動きの最先端に、広域通信制高校とサテライト教育施設があるように思う。だが、本稿で取り上げた諸課題は、決して私立学校だけの問題ではない。前述のとおり、公立高校にも、サポート校の役割を担うNPOがみられるようになり、また、公立高校が(通信制に限らず)フリースクールの提供するプログラムを「学校外における学修の単位認定」する試みもある【11】。
 いま、フリースクールや自宅での学習を義務教育と認める「多様な教育機会確保法(仮称)」が議論されているが、法案が国会に提出され、可決されれば、小学校から「学校外で公教育を受ける」ことが制度化される。規制緩和が進む中で、公教育の役割とは何かという問いを、先行して提示しているのが、広域通信制高校とサテライト施設ではないか、と思っている。

付記:本稿は、科学研究費補助金基盤(C)による「通信制高校の実態と実践例の研究」(2012〜14,研究代表者 阿久澤麻理子)による調査に基づく。

【脚注】
【1】技能教育施設の指定は文部大臣が行っていたが,1988年の学校教育法一部改正以後,施設所在地の都道府県教育委員会となった。
【2】文部科学省初等中等教育局初等中等教育企画課教育制度改革室(2014)「高等学校の広域通信制高校の課程に関する調査結果について」によると、広域通信制高校を所轄する都道府県28のうち、サポート校の積極的把握を行っている都道府県は15ある(「学則記載事項としている」3、「施設のリスト提出を求めている」2、「新規開設の際に報告を求めている」5、「その他」7)。

【3】内田康弘「私立通信制高校サポート校の誕生とその展開―教育政策との関連に着目して」日本通信教育学会『平成25年度日本通信教育学会研究論集』.p.8,2013年
【4】月刊『学びREVIEW』(学びリンク社)2012年4月〜2014年8月号を参照
【5】兵庫県の「波の家福祉会」(2015年度より)
【6】榎本稔・北沢彰「サンライズ学園―医療と教育の新しい合体を目指して―」『精神科臨床サービス』第7巻1号.pp.112-115,2007年
【7】調査では、インターナショナルスクール船橋(千葉県)、ICA国際会話学院(東京都)を訪問。
【8】もう1校の県立フリースクール「山の学校」は2校の通信制高校と連携している。
【9】1単位あたりの授業料は公立では300円程度、私立では9000円前後が多く就学支援金による補助は私立1単位4,812円。私立学校への授業料補助を行う自治体もあるが(大阪府「私立高等学校等授業料支援補助金」など)、同じ広域制高校の生徒でも、居住地により授業料負担が違うということが起きる。
【10】‥例えば、NPO法人リベラヒューマンサポートの教育部門、リベラスコーレが県立静岡中央高校通信制課程を、NPO法人ふぉーらいふが運営するフリースクールForLifeが兵庫県立青雲高校のサポートを行っている。
【11】‥例えば、神奈川県の県立高校不登校生徒等単位認定プログラム。
(あくざわ まりこ 大阪市立大学教員)


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