●特集T● 「止まらない多忙化、その行き着く先は・・・」
「教員の意識調査」から「多忙化問題」に
焦点を合わせて

教育研究所
  1. OECD調査の衝撃
     多忙化問題が行政も含めて「浮上」したのは、2013年「OECD国際教員指導環境調査(TALIS)」が実施され、それが新聞等で報道された結果である。それによると、34カ国・地域のなかで日本の教員は勤務時間が参加国中最長(日本53.9時間、参加国平均38.3時間)であった。一方、日本では高い自己効力感をもつ教員の割合が、参加国平均を大きく下回る結果になった。
     この調査結果に驚いたのか、文部科学省は「学校現場における業務改善のためのガイドライン」を作成し、各自治体も教員の多忙化問題を取りあげるようにはなってきた。文部科学省は「チームとしての学校」を提唱し、「(1)専門性に基づくチーム体制の構築 (2)学校マネジメント機能の強化 B教職員一人一人が力を発揮できる環境の整備」を講じたいとした。実は、この提案は大きな問題を含んでいる。「学校マネジメント機能の強化」はさらに教員への管理が強まるだろうし、「チーム」ということで、学校内にさまざまな分野の「仕事」が入り込み、働き方の問題が生じる。例えば、正規労働、臨時労働、派遣労働、パート・アルバイトという勤務形態がさらに進むことが予想される。つまり、多忙化解消の先に何があるのかということである
     。さて、前号で「教員の意識調査(1)」の報告をして、「次の所報で不十分な点をおぎなっていくことにしたい」としたが、今号での特集である「多忙化問題」に焦点を合わせて、「教員の意識調査(聞き取り)」で語られたことを紹介することにしたい。それゆえ、本稿を「教員の意識調査(聞き取り)報告(1)」の補足として位置づけたい。

  2. 聞き取り調査から多忙化の様子が窺えたのは主に「教員および教職(授業・分掌・担任・部活動等)に関するイメージは変わりましたか」という質問であった。いくつか紹介したい。
    • 事務的な仕事に時間が取られて授業準備ができない。 (20代男性)
    • 全然違う。授業は仕事のほんの一部。それ以外があまりに大きい。部活はボランティア。 (30代男性)
    • 忙しい。自分が学生の時は、(教師は)授業をやっているだけと思っていたが、その裏でいろいろ仕事をしていることを実感した。 (40代男性)
    • 仕事なので仕方がないのですが、すごく忙しいということ。直接、生徒のためとは思えない仕事が多い。事務とか会計とか…。 (20代女性)
    • 臨任になって副担や部活の顧問(吹奏楽で土日もあり)を担当、なんでこんなに忙しいんだろうと思った。授業の工夫が出来なくなり、思っていたのとは違う。仕事に追われる感じ。 (30代女性)
    多くの方が、忙しさを訴えている。ではその忙しさの中身とは何か。それについて触れているものを挙げたい。
    • 生徒と向き合う時間があると思った。そのために先生になったのに。何のために会議ばかりやっているのだろうと思う。自分の軸においているのは授業。でも、授業の準備は家でやる。 (20代男性)
    • 事務仕事が多い。会議が進まない。ルールがうるさい。良い意味でいろんな人がいるなとおもった。いろいろな活動をしている人がいて、びっくりした。(やる人とやらない人の)二極化も感じた。 (30代男性)
    • ひたすら忙しくなった。やることが増え仕事が増えた。お腹いっぱい。授業にかけられる時間が減った。担任としての仕事も重たい。保護者も5時までに連絡がつかず、帰るのが遅くなる。部活は相性がいい部活とそうでない部活がある。 (30代男性)
    授業の準備や生徒と向き合う時間が削られて、事務仕事と会議に追われる。それが、今の教員の実態である。こうした状況に対して、教員はどう思っているのだろうか。
    • 大事なものがずれてきている。一番大事な生徒に気持ちが向かなきゃいけないのに、地域の目とか外からどう思われるかを気にする。事故はないようにするのが当然だが、気持ちにも時間にも余裕がないから事故が起きる。余裕があれば生徒に接することも出来るし、事故が起こる様なことも無い。人をフォローする気にもなる。今は自分の事で精一杯。予備校の講師のように、自分の授業だけやってる感じ。 (50代女性)
    • 20年前、私が教員になった頃は、教育現場全体に自由な雰囲気があり、創意工夫の精神に満ち溢れていた。教員もモチベーションが高く、生徒のために時間を惜しまない先生が多かった。このような環境であったので、私自身も教員になれた喜びが大きかった。勤務時間を考えても、普段は臨時職員会議やPTA会議など残業する時間も多かったが、定期試験や長期休業期間を利用して十分に年休が消化できていたので、ストレスもたまらなかったと覚えている。 (40代男性)
    • あまり使わなかったが、研修はすごい制度だと思った。以前でも上手に使って研修している人がいた。自宅研修禁止、届けを出しても認められにくくなって、あれは良い制度だと思った。博物館でも科学館でも、行った方がよい、視野を広げるべき。昔の研修制度を使って、もっと研修すればよかった。 (50代男性)
  3. 勤務状況等
     2003年と2012年に行った研究所独自調査(すでに『ねざす』に掲載)のなかで、多忙化問題に関係する項目もある。すでに本誌に掲載したものもあるので、簡単に紹介したい。「勤務時間の前後にどのくらい学校で超過勤務をしていますか」という質問に対する答えを見ると(図1)、2003年では1時間未満が43%、2時間以上が13%であったのに対して、2012年は全日制で1時間未満が26%、2時間以上が29%となっている。この10年ほどで超過勤務時間が著しく増加したことが分かる。そして年代間で比較すると、若い層ほど負担は大きくなっている。また、総括教諭を取り出して、他の一般教諭と比較すると、超過勤務時間は長くなっている(グラフ等は省略)が、総括教諭の勤務が特別なものになっていく状況は看過すべきではないだろう。「一ヶ月間で、土曜日、日曜日、祝日に、平均してどのくらい部活出勤しましたか」という質問に対する答えを見ると(図2)、2003年には「なし」が33%もあったのに対し、2012年には「なし」が21%と減っている(全日制)。反対に7日以上部活出勤していたという答は2003年には5%だったが、2012年には10%になっている。ここでも20代の「なし」は11%にすぎず、7日以上は18%にもなっている。7日以上とは、ほぼ休みがないということを意味する。

  4. 教員の評価
     矢継ぎ早に制度化されたものの中で、教員の評価はどうなっているのかをまとめてみた。最も「賛成」率が低いのが、教員免許更新である。これは免許ということで、講習を受ける者の受益者負担であるということに加え、講習を受ける時間もかなり取られる。これを受けないと、免許が失効するということが急に決まったのだから、「賛成」できないのは当然である。しかし、新しい制度や取組みすべてに対して反対なのではなく、「NPOなどの外部資源の活用」や「スクールカウンセラーの配置」に関しては、「賛成」が多い。これらの結果は、現場の需要を踏まえた
     バランスある回答と思われる。こうした現場の感覚を教育行政は無視してはならない。良かれと思って導入した制度が、現場でどう捉えられているかの検証がおこなわれなければならない。
まとめ
 以上、研究所独自調査のなかから「多忙化問題」を抽出してきた。まず、事実として確認しておくべきことは、教員の勤務時間が増えてきたということである。問題はその中身である。聞き取り調査でも分かるように、事務的な仕事や会議ゆえに勤務時間がのびているのである。逆にそのことで、授業準備の時間や生徒とのふれあいの時間は削られている。それを教員は良かれと思っていない。
 「近年、新設された制度・取組み」のすべてに「反対」しているわけではない。「NPOなどの外部資源の活用」や「カウンセラーの設置」は「賛成」が多いのである。つまり、生徒とのかかわりにおいて「意味のある制度・取組み」と「意味のない制度・取組み」をしっかり分けた回答がなされている。
 しかし、仕事の総量は近年増加の一方である。ミスをなくすようにと導入された成績処理シートは手間がかかり更なるミスを誘発しないかと危惧される。点検は必要だが、「あつものに懲りてなますを吹く」ような点検も多い。エクセルで計算された値をすべて手計算させるような点検は時間だけが取られる。事故防止会議は必要だが、ただ会議をやればいいというような会議、中身ではなく数をこなせばいいような会議が散見される。こうした現状を見直さない限りOECD調査には応えたことにはならないと思う。
 また、それでも部活の問題は残り、それが一部の教員の長時間労働に結びついている。この問題については『ねざす』50号でも取りあげたが、再度検討する余地はある。

(教育研究所)


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