「チーム学校」構想 〜専門分化と協働の文化〜
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中田 正敏 |
文部科学省のホームページを見ることを日課にしている教員志望の友人がいる。先日、夏休み中に出会ったところ、「先生、ついに文科省が『チーム学校』を打ち出しましたね。あれっていい感じですよね。子どもと向き合う時間が増えるみたいです。あと、「チーム学校」というネーミングもいい感じ。『チーム・バチスタ』みたいで。」と話しかけられた。ドラマにもなったけど、確か、手術成功率が100%のチームだったとかで、しばらく、「チーム学校」も含めて話しこんだ。 「チーム学校」は文部科学省のホームページの「トレンドキーワード一覧」にある。正式には、「チームとしての学校の在り方と今後の改善方策について」で「チームとしての学校・教職員の在り方に関する作業部会」がまとめた「中間報告」(今年、7月に公表)で示されている構想のことである 。この作業部会は中央教育審議会への諮問に対応して検討するために設置され、「教員が指導力を発揮できる環境を整備し、チームとしての学校の力を向上させるための方策」について、「教員の勤務等の在り方」、「多様な専門性を有する者の配置」、「学校の組織運営の在り方」などについて「財政上の措置」も含めて検討することが諮問されている。 「チーム学校」が求められる背景としては、「中間まとめ」によれば概ね以下の通りである。 次世代を生きる力を育むための教育課程の改革や授業方法の革新を実現することが教職員に求められている。しかし、生徒指導上の課題や特別支援教育など、学校が抱える課題は、複雑化・困難化し、教員だけで対応するのは質的にも量的にも難しくなってきており、学校が抱える課題は拡大し多様化している状況がある。OECDの国際教育指導環境調査(TALIS)の結果をみると、日本の教員は課外活動の指導や事務作業に多くの時間を費やし、調査参加国中で勤務時間が最も長く、授業に関する業務が大半を占めている欧米の教員と比較すると授業や生徒指導、部活動など様々な業務を行っている状況にある。 この背景から導き出されることは、教育において求められる革新を実現するためには、学校が抱える課題は複雑化、多様化している状況を踏まえて、教職員の業務の実態を見直し、「子供と向き合う時間」を確保する必要があるという論理である。 ところで、「チームとしての学校」像とは何か。「校長のリーダーシップの下、カリキュラム、日々の活動、学校の資源が一体的にマネジメントされ、教職員や学校内の多様な人材が、それぞれの専門性を活かして能力を発揮し、子供たちに必要な資質・能力を確実に身に付けさせることができる学校」であるとされている。 興味深い具体策がいろいろ挙げられているが、ここでは専門分化と協働に関することを中心にみていきたい。 専門性に基づくチーム体制の構築については、教育以外の専門スタッフとしてスクール・カウンセラー、ソーシャルワーカーの活用が前面に打ち出されている。「学校等において必要とされる標準的な職」として「職務内容等を法例上、明確化すること」、さらには、将来的には学校教育法等において正規の職員として規定し、国庫負担の対象とすることを検討課題としている。尚、部活動については、「部活動支援員(仮称)」、地域連携についても「地域連携担当職員(仮称)」の法令上の位置付けなど同じ路線で構想されている。 学校組織のマネジメントについては、専門分化した組織である「チーム学校」の校長は、「多様な専門性を持った職員を有機的に結びつけ、共通の目標に向かって動かす能力」や、「学校内に協働の文化を作り出すことができる能力などの資質」が求められるとしている。 また、校長は「学校という組織で求められるマネジメントの能力」と、「組織一般で有効なマネジメントの能力を身につける必要がある」ことが指摘されているが、「協働の文化」とマネジメントに関する説明は特にはない。しかし、人事評価の改善・充実という項目では、教職員同士や専門家等のスタッフとの協働を進めていくために、チームとしての活動を適切に評価できるような工夫を講じることが重要であるとの指摘もあり、「チーム学校」の課題のひとつになっているようだ。 ところで、この「中間まとめ」は、2007年の中央教育審議会「今後の教員給与の在り方について(答申)」等への対応でもある。これに先立つ提言をも含めて、主幹教諭制度、人事評価、多様な人材活用などが「教育改革」の一連の具体策として展開されてきたという流れがあり、この段階で「チーム学校」が登場してきたという見方もある。 それでは、これまでの「教育改革」の流れと協働の文化はどう結びつくのだろうか? 例えば、主幹教諭制度の推進の項目では、「学校をひとつのチームとして機能させるため、全体をマネジメントする管理職と教職員、専門スタッフとの間に立って、チームとしての学校のビジョンをはじめとした意識の「チーム学校」構想〜専門分化と協働の文化〜共有を図るという、いわばミドルリーダーとしての役割」に関する記述がある。これなどが典型であるが、これまでの「教育改革」の枠組みの中に、「チーム学校」を位置付けようとする試みであるかもしれない。 ところで、チームについては、欧米のインクルージョンの研究でかなりの蓄積があるが、協働チームに関して、6つの主要な特徴を挙げている研究(source:Deboer,19951996)がある。 T.協働はお互いの目標に基礎を置いているが、チームの短期的な、長期的な目標はチーム全体によって決定されている。相互に決定された目標は最初からチームとしての関わりを構成しているのである。 U.協働は参加者の平等を要求する。 V.協働は参加と意思決定のための共有された責任によるところが大きい。 W.協働は成果についての共有された責任を要求する。 X.協働は参加者がそれぞれの資源を共通の財産とすることを要求する。 Y.協働は自由意志に基づく関係性である。 Yについては、気軽に同僚と真面目な話をする非公式な「オン・ザ・フライ・ミーティング」が本人の意思に基づく「自由意志に基づく関係性」で成立しているが、次の予定を決めて、また話し合おうというプロセスを辿ることもあり、これが協働チームへの契機となることなどが示されている。 「チーム学校」構想においては、ヒエラルキー、標準化、マニュアル化を志向するビューロクラシー路線と、生徒の声を聴き、教員同士が参加できる協働の文化がどう接するか、どう交錯するのか。新たに生じた興味深いフロントラインである。 |
(なかた まさとし 教育研究所代表) |
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