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高校生のデートDVを減らす取り組みについて

阪口 さゆみ

  1. 高校生とデートDV
     デートDVとは、 恋人同士の間で起きる暴力を示します。
     2013年の東京都の若年層 (18歳〜29歳) における交際相手からの暴力に関する調査によると、 交際経験のあった女性42.4%、 男性31.3%がデートDVの被害経験があったとなっています。 また、 初めて被害や加害を経験した時期ですが、 およそ 2 割以上が高校生 (以前も含む) 時期と回答しています。
    被害経験:高校生 (以前を含む) の時、 女性23.3%、 男性28.9%、 全体が25.4%。
    加害経験:高校生 (以前を含む) の時が、 女性24.8%、 男性29.8%、 全体で26.6%。
     このような調査により、 高校生の間にデートDVが起きていることが認知され、 学校現場での対応が迫られています。
     私たちエンパワメントかながわは、 2004年に 「デートDV予防」 プログラムを作成し、 これまでに34,000人の中学生と高校生に伝えてきました。 伝える中で、 デートDVの被害や加害だけでなく、 親からの虐待や、 いじめの被害や加害、 性暴力など過去の暴力被害・加害体験を思い起こす生徒に出会いました。 今回は、 これまでの取り組みから見えてきた高校生の現状と、 学校の中で予防教育を行うことの効果についてお伝えします。
  2. デートDV予防プログラムの目指すもの
     高校生向けのデートDV予防プログラムは、 「デートDVなどの暴力を受けず、 自分の生き方を自分で決める権利」 に重点を置いて伝えています。 この権利は、 憲法にも保障されている基本的人権を意味しています。 しかし、 現実には、 様々な暴力によって、 多くの生徒たちの人権が侵害されています。 また、 侵害されていることに気づかず、 「自分が悪いから」 と自分自身を責め、 自分を認められず、 リストカットなど自分を傷つける生徒もいます。 特に、 被害を受けた経験を持つ人ほど、 自分に非があると思い、 更なる被害を受けやすい傾向があります。
     私たちのプログラムは、 このように自分が悪いと自己肯定感を持てない生徒に、 「あなたには、 自分の生き方を自分で決める権利がある。 そしてあなたはその力を持っている」 とエンパワーしていくことをミッションとしています。
     例えば、 生徒たちに、 「デートDVをしない方法」 を教えるのではなく、 自分への自己肯定感を伸ばし、 相手も同様に人権を持つ人であること、 だから、 尊厳や人権を大切にし合える関係性作りが必要であること、 そして、 被害加害が繰り返されないために自分は何ができるのかをワークショップ形式で伝えます。
     デートDVにみられる暴力の種類を紹介すると、 多くの生徒から、 「暴力とは殴ったり蹴ったりの身体的暴力だと思っていたが、 言葉や態度など相手を精神的に追い詰めることも暴力であることに気づいた」 と反応があります。
     また、 デートDVを題材にしたロールプレイは、 デートDV被害者と加害者の力の差があることに気づかせたり、 好きだから断れない被害者の気持ち等を想像しながらデートDV理解を促します。 さらに、 自立した対等な関係を身につけるために考え、 アサーションの技法 (Iメッセージ) を用い、 互いに尊重し合える会話に書き換え、 コミュニケーション力をつけていきます。
     中には、 自分の加害・被害に気づいたり、 「おかしいと思っていた友達の関係はDVだった」 と、 友達の被害・加害に気づいたしします。 グループの中には、 「やっぱり別れた方がいいんじゃない」 「次やられたら、 一緒に止めるよ」 等被害を止めるためにサポートし合う生徒もいます。 友達を助けようと、 すぐ行動に移せる生徒の柔軟な対応に頼もしさを感じます。 これらは、 クラスの中で授業として実施することによって生まれる効果かと思います。
     デートDVは、 個人の恋愛問題ではなく、 高校生にとっては、 教育を受ける権利や学習する権利の侵害にあたるのです。 ですので、 もう一つ踏み込んで、 学校は、 これらの権利を擁護することで、 高校生として本来送るべき学校生活を守っていただきたいのです。
  3. これまでに出会った生徒たちから見えるもの
     私たちは、 デートDVの被害・加害者は必ずクラスにいると思って、 授業に入ります。 いじめも同様ですが、 深刻な被害を受けている生徒程、 誰にも相談していないのです。 その理由として、 「自分が悪いから」 「こんな自分を好きになってくれた人を裏切れないから」 という言葉があがってきます。
     暴力を振るう人でも、 自分を認めてくれる唯一の人なのです。 「家族はみんな、 私のことをバカにするけど、 カレシはそうじゃないんだ…だから、 怒ると怖いけど一緒にいたい」 という子。 「可愛いいって言ってくれるし、 殴ったりするけど、 すぐに謝ってくれるから、 カレシを怒らないで」 と相手をかばう子。 二度と自分を好きになってくれる人は現れないから、 別れるはことできない。 被害を被害と認めたくない子たちからは、 これまでに誰かから大切にされた経験がないことが伝わってきます。
     性的暴力の説明で、 「避妊に協力しないこと」 と伝えると、 ざわつきます。 避妊しないと、 その先には妊娠・性感染症などが待ち受けていることを想像できないわけではないのです。 でも、 避妊をしてほしいと言えない。 言ったら別れられるかもしれない。 相手が避妊しなくていいように低用量ピルを飲んでいる子もいました。 「カレシからひどいことを言われる度リストカットをしたくなる。 でも、 カレシはその傷を見て可哀想に…と抱きしめてくれるから、 幸せだよ」 自分の体を傷つけるよりも、 相手と離れるほうが怖いのです。
     別れたくない気持の裏側には、 生徒たちの居場所が相手にしかないことが浮かんできました。
     彼らには、 帰る場所がないのです。 家にいても孤独、 家族からネグレクトや虐待を受けていたり、 だから、 自分のことを一度でも受け入れてくれた相手に居場所を求めていくのです。
     また、 自己肯定感の低さは、 加害をする側も同様です。 「大切なカノジョなのに、 イライラすると怒鳴ってしまう。 親父と同じことしている。 やっぱ、 オレはダメなやつなんだよ」 彼もまた暴力の被害者なのです。 私たちは暴力の連鎖を断ち切って、 誰もが自分を大切にしてほしいと伝え続けていきたいです。
  4. 学校の中で予防教育を行うこと
     現在高校への進学率は97%を超えています。 社会に出る前の最後の学校教育現場で、 デートDV予防を伝えていきたいです。 デートDVをなくすためには、 人権感覚を持ち、 自己・他者信頼が持てる人を増やしていくことです。 高校生の間に、 周りのおとなから、 「あなたはとても大切な人。 困ったことがあったら、 1 人で何とかしようと頑張らなくていい。 まわりには、 助けてくれるおとながいる。 あなたのことを大切に思っているおとながいる」 と伝える最後のチャンスです。
     高校には、 養護教諭やカウンセラーがおり、 教育センター、 児童相談所、 警察等社会資源とのつながりもあります。 このような何かあった時に助けが得られる環境の中で、 生徒がデートDVについて学ぶ機会を、 これからも生かしていきたいと思います。

                   
  (さかぐち さゆみ エンパワメントかながわ)

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