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大学4年間の学びを経て

奥 仁志

 私はこの春、 大学を卒業しました。 大学生活を振り返ると、 1・2 年生の時は日々の授業の一方で、 所属していた児童福祉ボランティアの活動やその準備やミーティングに忙しくする毎日でした。 3・4 年生になると活動からは身を引き、 いよいよ実践的な授業や専門科目である社会科に関する授業が多くなり、 1・2 年生の頃とはまた異なった忙しさの中に身を置きました。 そして卒業をした今、 感じることは、 「いかに理論とその実践が難しいか」 ということです。 これを痛感したのは 4 年生の学校ボランティアと教育実習です。
 4 年生になるまでの 3 年間において深めた学びの中である種、 当時の私にとって万能的なものであったのが 「グループ学習」 でした。 教育史や教育思想を学習する中で19世紀には協同学習が取り入れられていたということを知り、 かつ今日の教育現場でもそのような学習形態が積極的に導入されているという実態を学校ボランティアの現場でも目にしたことがきっかけでした。 また、 グループ学習を取り入れることで、 生徒のコミュニケーションを円滑にし、 グループで課題を解決することにより達成感を味わうことにつながり、 そのことが学習意欲向上につながるということも学びました。 そこで私自身も実践の場でグループ学習を取り入れてみようと決意し実行しました。 しかし、 結果的にそれは反省点ばかりを私に残しました。 特に、 (1)グループで話し合って欲しい内容とは異なった、 授業に無関係な話をしている生徒が多くみられたこと、 (2)学力レベルの高い生徒は暇を持て余してしまったこと、 の 2 点はそれまでの私の考えを根本から覆すことになりました。 どうして見学した先生の授業ではそれが可能で私では不可能であったかを考えるうちに以下のことに気付きました。
 第一に、 グループ学習を行うためにはしっかりとした授業環境を事前に整備する必要があるということです。 見学した授業の先生と私とを比較した際、 グループの作り方が多少異なっていたということがわかりました。 ある程度生徒の性格や日頃の行動から鑑みてグループ構成を行い、 仲の良すぎる生徒が同じグループにいないように配慮することで集中力を持続させようという意図が働いているかもしれないと思いました。 また、 時間が足りなくなっていたこともあり口頭でのみ、 指示出しを行っていた私に対し、 先生は発問を板書していたことにも気付きました。 確かに、 無関係な話をしてしまう背景には何を話し合って良いのかわからないという状態になっている可能性も考えられます。 そこで今、 何を考えてほしいのかという明確な指示出しを口頭のみならず板書にもしてあげることにより、 何をすればよいのかわからないという状況を防ぐことも大切なことであると学びました。
 第二に、 授業レベル以上のことも学習したいという意欲のある生徒も中にはいるのだということに気付かされました。 グループ学習には、 先に理解した生徒が他の生徒に教えてあげることでコミュニケーションを活発にする効果が期待されます。 実際に行った時もそのような光景を見ることができました。 しかし、 教える側の生徒はどこか眠そうな表情をしているような気もしました。 単に私の授業レベルがクラスの実態に合っていなかったことも考えられますが、 休憩時間にそのような生徒の一人に何気なく聞いた際、 「社会自体は興味があるけど、 塾でもう習いました。」 と言われたのが鮮明に記憶に残っています。 その時私は、 「本当はこの生徒ももっと知りたいと思っているのかもしれない」 とハッとさせられました。 今までの私はどこか学習レベルの高い生徒を蔑ろにして授業を練ってきたのではないか、 「個」 に応じた指導が全然できていないではないか、 ということを教育実践の場を通じ痛感させました。
 先にも述べたように、 私は所属していた部活動の関係で子どもと接する機会が多くありました。 対象は小学生でしたが、 その経験で私は多くのものを培いました。 その1つは、 「興味関心が行動の原動力になる」 ということです。 毎年、 夏休みには小学生と大学生でキャンプを行っていました (現在は行っていません)。 キャンプでは、 各グループで出し物をすることになっていましたが、 日数的にもタイトで大学生にとってはこの出し物が鬼門でもありました。 私が大学 2 年生の時のキャンプでも例年通り出し物を行い、 私たちのグループでは芸人のショートコントを入れたいという要望がありました。 そこで一晩である程度用意し、 翌日台本としてそれを出そうとしたところ、 ある子が用意してきてくれていました。 それに目を通すと様々なレパートリーが書いてあり、 話を聞くと、 前日の夜にその芸人の色々なショートコントを見て調べてくれたと言い、 周りの大学生がかなり驚いたということがありました。 これは小学生の話ですが、 中学生も同じことが言えると思います。 せっかく社会科に興味をもってくれている生徒がいるのだから、 その生徒の能力を引き延ばしてあげるきっかけ作りも何かしら配慮をするべきだと改めて感じさせられました。
 グループ学習は確かに効果的な方法であるということは今でも思います。 しかしそれを取り入れるタイミングや環境などを誤れば、 逆効果になってしまいます。 また、 「個」 に応じた指導が疎かになっても本末転倒でしょう。 授業になかなかついていけないという生徒に合わせるのと、 学力レベルの高い生徒に合わせるのとでは本来、 授業方法や内容は変わるような気がします。 しかし現状は同じ教室で一斉に学習をすることになります。 ではどのようにすれば 「個」 に応じた指導ができ、 生徒たちの能力をいっそう引き出せるのか今の私にはわかりかねます。 そのため、 今後ますます教育に関する知見を養っていきたいように思います。
   
 (おく ひとし 青山学院大学院)


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