特集 運動部活動
運動部活動を考えるために
 
教育研究所
 
 学校説明会などで多くの中学生が興味をもつのは どんな部活があるのか どんな行事があるのか であり どんな授業があるのか という質問はまれである。 部活動が主な目的という高校生も時に見かける。 部活というのはそれだけ、 高校生にとって魅力あるものなのだ。 しかし、 学校の中で、 部活動ほど課題を抱えるものも他にはない。 運動部活動は日本独特の学校文化、 といわれる所以である。
 特集の中でも取り上げられている 『運動部活動考』 (1995年県教委) は、 「一部を除き、 専門的素養のない学校の教職員が顧問を担当し、 教材研究もそこそこに、放課後、 多様な要求を持つ生徒やチームの面倒を見、 顧問によっては競技力向上、 大会・組織運営までも担うという部活動システムには限界がある」 という声を引きながら現状を説明している。
 また、 1997年に刊行された神奈川県高等学校教職員組合 (神高教) の 『部活動の未来を探る』 でも 「高等学校における運動部活動は、 これまで多くの問題を抱えてきた。」 として、〈過熱化〉勝利至上主義〉非科学的トレーニング〉教 職 員 の 勤 務 時 間 や 手 当〉教 育 課 程との関 連、 職 務の位置づけ〉体罰〉縦社会構造〉をあげている。
 現在、 20年ほど前に指摘された問題は、 その後、 一部は解決を図られ、 改善を図られているが、 部活動を覆う雰囲気はあまり変わっていないようにも感じられる。 本特集は、 さまざまな問題の解決への道筋を見通すなどという、 大それたことではなく、 各方面から出された運動部活動改革の動きがその後、 どうなったのか、 もう一度立ち止まって考えてみたいという動機から企画されたものである。 特集を読んでいただくにあたって大ざっぱに運動部活動を取りまく課題を整理しておきたい。

教育課程
 部活動は教育課程 (教科、 特別活動、 総合的な学習の時間の 3 領域) には含まれていない。 1970年の学習指導要領ではクラブ活動が必修となったが、 部活動とは区別されていた。 1989年には 「部活動をやったことで必修クラブに代替できる」 こととなったが、 神奈川県では必修クラブがほとんど実質を持たなかったこともあって、あまり意味がなかった。 1998年には必修クラブは中学、 高校とも廃止された。 2009年の指導要領では総則の 「計画にあたって配慮すべき事項」 の中に 「学校教育の一環として、教育課程との関連が図られるよう留意すること」 と書かれた。 また、 『学習指導要領 保健体育解説編』 には運動部活動についての説明がある。 日本スポーツ振興センターの給付手続きの文書には部活動は 「学校において計画され、 実施される教育課程以外の教育活動」 と規定されている。

教育活動としての部活動
 教育課程に含まれていないにもかかわらず、 部活動は学校教育の中で大きな位置を占めている。 生徒どうし、 教員と生徒の濃密な人間関係、 時によっては激しい勝負や練習の中での率直な感情のやりとり、 長時間のつきあい、 それらは他では得られない貴重な経験である。 一方で教育課程の中に含まれていないために、 多くが顧問教諭の裁量に任されている。 顧問個人の力量がものを言う。 だからこそ担当するスポーツについての専門的な知識、 技術がない教職員にとってはきわめて指導しづらい。 また、 体罰なども生まれやすい。
 さらに神奈川県では女子マネージャーが同じ部員なのに 何から何まで雑用をこなしている という問題も指摘された。
 『学習指導要領 保健体育解説編』 では 「運動部の活動は、 主として放課後に行われ、 特に希望する同好の生徒によって行われる活動であることから、 生徒の自主性を尊重する必要がある。」 と書かれており、 実際自治的に運営されている部活動もある。 しかし、 一方で顧問の役割が大きく、 時には絶対的な存在である場合もある。 また、 スポーツを楽しみたい高校生は多いが、 現状の部活動に入って行かれない生徒も多い。 複数の部に入ること、 シーズンによって異なった運動部で活動することなどは実質的に無理である。

教職員の職務
 部活動は教育課程に含まれていないので、 教職員の中心的な業務ではない。 しかし、 学校には教育課程に含まれていない業務は多々ある。 部活動は学校で決めている教育活動であり、 教職員の公務災害や生徒の事故の場合には国家賠償法の適用は受けられるということからも職務としての扱いを受けている。
 ただ、 曖昧さはつきまとうので、 「命令に基づくものではないが、 教職員の自発的な意志に基づく職務」 (東京都教育委員会) などと説明されてきた。 なお、 東京都は学校管理規則で 「学校は、 教育活動の一環として部活動を設置及び運営するものとする」 と定めた。

手当、 引率等
 1972年に教員の給与に関する特別措置法 (給特法) が実施され、 教育職員には一律に 4 %の教職調整額が支給され、 かわりに労働基準法の超過勤務手当が支払われる対象から外されることとなった。 そのため、 部活動に伴う、 一切の勤務時間外の労働には賃金が払われない。 ただ、 同じ給特法の施行と併せて部活動の一部の超過勤務、休日労働には特勤手当が支払われることになり、 その範囲も拡大した。 (特勤手当は超過勤務手当ではない) 神奈川県では、 教育委員会と教職員組合が問題の所在を認識し、 関係団体とも協議し、 休日の引率等を整理しようとしたが、 うまくいかなかった。 特勤手当はその後上がり (休日 4 時間以上で500円の特勤手当だったのが現在は2,400円、 公式戦の場合は1,000円だったのが3,400円)、 練習等による休日出勤についても制限はあるが、 振り替え代休が付くようになった。 また、 神奈川県では練習試合等についても、 1980年頃から出張扱いで交通費等が出る。 また、 引率可能な職員についても条件があるが徐々に広がっている。 嘱託コーチの配置も進んでいる。

社会体育への移行
 部活動の社会体育への移行は日教組を始め、 さまざまなところから提起されてきた。 熊本県のように県をあげて、 社会体育への移行を試みたところもあったが、 しばらくして元に戻ってしまった (1970 年から 8 年間)。 1997年の保健体育審議会の答申には 「運動部活動の地域への移行」 が盛り込まれ、 中間報告には運動部活動の土日の活動禁止が盛り込まれた。 しかし、 少なくとも今のところこれらの試みはうまくいっていない。
 指導者を学校内に限らず、 地域などからも広く受け入れていこう、 学校内でも教諭に限らず教職員全体に広げていこうという動きは次第に進んでいる。 顧問にとって重要なのはマネジメント、 という考え方も広がりつつある。 運動部活動を学校内だけで抱え込まずに広く社会全体で見ていこうという動きは、 少しずつではあるが進んでいる。
 運動部活動、 ひいては部活動全般について現場に ねざし ながら考えていきたい。  

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