公開研究会 「若者支援〜学校はどうかかわるか〜」

公開研究会に参加して
 
小俣 弘子

  1. 2011 春の夜
     孤立する若者に関するNHKの番組を観た。 戸塚高校定時制の生徒たちを中心とした内容だったが、 その中で、 定期的に相談支援活動に来ているK 2 という団体と繋がり、 将来への希望が生まれてきた女子生徒の姿が印象に残った。 とてもうらやましかった。
     当時本校は文部科学省 「高等学校における発達障害のある生徒の支援」 事業モデル校の 2 年間が終了したところだった。 事業をとおし、 日本各地のモデル校を始め、 サポート校、 特別支援学校などの視察に行き、 それぞれの取り組みから学ぶことは多かった。 しかし、 ある種特殊な通信制高校である本校 (生徒数の多さ、 生徒の抱える課題の多さ、 多様さ、 重さ、 対する校内資源の少なさ) への解決策は簡単に得られるものではなかった。
     できる限りの努力と工夫は行ってきていた。 障害受容があり、 学校の支援が必要だと申し出た生徒への個別支援体制は、 ある程度できつつあった。 生徒全体に対しては、 生徒指導の枠組み作りや学習システム周知方法の工夫などを通し、 やるべきことが明らかで、 わかりやすい学校生活の中での単位修得・高校卒業を目指す方向性が見えるようになっていた。
     本校に入学する生徒・保護者の多くが望んでいる (これまでできなかった) 学習と高校卒業を目指すための支援はなんとかできそうだった。 しかし本校の現実は (理念はどうであれ)、 社会に出る前の基礎(学)力をつける最後の砦ではあったが、 セーフティネットにとどまり、 だからこそ社会への入り口へと、 どう繋げていくかが大きな課題となっていた。 校内資源だけではどうにもカバーできず、 冒頭の 「うらやましかった」 という状態だった。
  2. 2012 K 2 との連携開始 
     2011年度末、 K 2 との連携の検討を急遽開始し、 何回かの協議を経て、 学校設定科目 「キャリア活動T」 を開講することによって定期的に関わっていただけることになった。
    「キャリア活動T」 では 「働く」 をキーワードに、 職場見学 (前期)、 職場体験 (後期) をメインに据え、 講義・グループワーク・職業人セミナーなどを実施し、 講師や見学場所などにK2資源を活用させていただいている。
     19名の生徒が履修中で、 前期のメインである職場見学には16名が参加した。 夏のインターンシップにも希望者 8 名が取り組み、 予想以上に生徒たちは楽しんで頑張ってくれている。 19名の中には今年度卒業予定者が数名おり、 この科目を通じて得た力に加え、 卒業後に相談できる場所との繋がりができたことが、 私にはとても嬉しい。
     若者支援に関して長年の実績があるK2との連携から得られるものは多く、 今後の展開、 発展が楽しみであるとともに、 本校生徒にとって有益なものになると確信している。
  3. 2008からの本校の支援
     通信制の独立校として2008年に開校する前から、 本校にはさまざまな課題を抱えたさまざまな生徒たちが在籍することが想定されており、 いくつかの支援プログラムを準備していた。 開校 5 年目の今年度まで、 改善されながら続いているものもあれば、 ニーズに応じる学習システム改善に伴い、 新たに始めたものもある。
    (1) 悠ルーム:不登校経験などで集団の場がつらい生徒のための一休みの場所。 平日に開室。職員が常駐している。
    (2) TRY教室:レポート完成や基礎的な学習を、 *YSKサポーター (後述) が中心となって支援する教室。 月・水・木実施
    (3) レポート完成講座:レポートで分からない部分を、 教員の個別指導で完成させる。 月・水・木実施。
    *YSKサポーター:教職経験者などによる本校の学習支援ボランティア。
     上記 (1) 〜 (3) すべてに支援をいただいている。
  4. 2012から未来へ 
      『ねざす』 第49号にあるように、 「多様な生徒が 『質』 『量』 ともに増加する」 中、 本校は今年度文部科学省の研究開発学校となった。 研究内容の詳細は文部科学省HPを参照いただきたいが、 高校卒業後の自立と社会参加を目指し、 社会生活場面での基礎力を視野に入れた学校設定必履修科目 「国語」 「数学」 「英語」、 および実習を中心として自立力養成を図る 「キャリア実習」 の実践研究を実施する。
     既にこれまでの工夫や取り組みで、 生徒の出席率、 レポート提出率、 単位修得率は向上している。 レポート提出率向上は添削数増加となる。 私の添削数も初年度の倍数近くとなっている。 添削時間が倍増し、 多忙化に拍車がかかっている中で、 本校職員は本当に頑張っている。
      「神奈川の支援教育」 が言われて久しい。 本校の今は、 目の前の生徒のニーズに応じた工夫と努力を重ねた結果だが、 現状の校内資源ではこれ以上は厳しい。 さまざまな課題に取り組んできた外部機関などとの連携、 協力を一層進める必要がある。 生徒・保護者が相談できたり、 居場所となる学校外の資源とうまく繋げるようにしたい。
     進学・進路指導の 「出口保障」 に終わらず、 生徒に 「生きる喜びを感じながら社会の一員としての役割を果たしていく」 ための力をつける責任が高校にはあると私は思う。 お互いの違いを認め合い、 助け合って生きていくことができる未来のためにも、 高校が校内外のさまざまな力を合わせて若者を支援する場になることができれば良いと思う。 私も現場でできる限りのことをしたい。

  (おまた ひろこ 横浜修悠館高校教員)

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