公開研究会 「若者支援〜学校はどうかかわるか〜」

 始まりは不登校支援から
 
岩本 真実

 約24年前、 私達K 2 インターナショナルグループの活動が始まった当初は、 「不登校」 「ひきこもり」 「家庭内暴力」 などは社会の中にある様々な問題の中でごく少数派の問題でした。
 私達はそのようなクラスに 1 人いるか、 いないかという少数の子ども達に対して教育でも福祉でもない側面から民間として取り組んできました。
 私たちは、 当初から利用者の状況に合わせて共同生活を行ってきました、 共同生活寮ハマコロ、 Y―MAC寮など生活の場を持っています。 この共同生活と就労支援は私達の設立当初から取り組んできている支援の柱です。
 共同生活は煮詰まった家族関係や地域との関係から一旦距離を置くこと、 自分を知らない新しい環境の中で再スタートする機会を作る事、 同じ痛みを知る仲間やスタッフとの深い関係づくりや仲間づくり、 生活を共にする事で本人の持つ課題・可能性をトータルで見る事ができる事など、 様々な側面を持っています。
 また当時から 「学校に行かないのであれば、 社会に出ていく力をつけてあげよう」 と地域の事業者さんにお願いをしてお手伝いをさせてもらいました。 自分たちでも働く場を作ろうと約20年前にお好み焼き店を開店。 団体としての経済的な基盤であると共に子ども達の居場所、 働く場、 地域との接点、 また、 いつでも戻って来られる場所として、 現在は横浜市内他に 4 店舗を展開していますが、 各店の店長は全員不登校の経験者です。

時代と共に変わってきた若者とK 2 の支援
 2000年代に入り、 「社会的引きこもり」 「ニート」 「若年無業者」 など、 働けない若者、 働かない若者、 意欲のない若者が社会問題としてニュースにも頻繁に取り上げられるようになってくると、 K 2 の相談者の状況もかなり変わってきました。 中心が10代の若者から20代、 30代の若者に移ってきました。
 実際に相談に乗っていくとそのほとんどは学校時代に何らかの躓きをしている若者達でした。 不登校や引きこもり状態を10年、 20年と続けてきた若者も少なくありません。 ある30代の女性 (10代から引きこもり生活) は 「10年前にK 2 の事を知っていたら、 自分の人生はどんなふうになっていただろうか?」 とつぶやいていました。

改めて高校との関わりをスタート
 ひきこもりになる前に何らかの支援につながれないか…と高校との連携を模索していた中、 最初のきっかけは校長先生とまちづくりの交流会でお会いした事からでした。 当時は学校に入って支援する事はまだ例のなかった時期でしたが、 学校の先生方も現場では困っているし、 何か連携してできたらいいと言っていただき、 現場の先生方との意見交換を重ねることからのスタートでした。 私達は中退者に対する支援を想定していましたが、 現場の先生からは 4 年間真面目に学校に通っていても卒業後また引きこもってしまう生徒もいる、 進路未決定のまま卒業する生徒に何かしてあげたい、 とのことでした。
 1 年目は卒業生で進路の決まっていない元生徒に対し先生から声をかけていただき、 学校で面談をしました。 就労準備プログラムを設定し、 面接練習、 履歴書作成、 求人検索などをレクチャーしました。 しかし、 彼らの多くは家族問題、 知的・発達課題、 身体的な課題等も重ね持っている者が多く、 経済的にも困窮している為、 途中で交通費がない事から来なくなってしまう生徒もいました。 そのような中でもK 2 の支援につながり就労への一歩を踏み出した例が出るなど成果があったこと、 また卒業をしてしまってからでは遅いとの認識が先生方と一致し、 次年度から在校生への支援がスタートしました。
 現在では毎週学校へ出向き放課後に相談や就労・自立の為のワークショップの開催、 夏休みのインターンシップ、 卒業後に向けた支援、 保護者との面談などを実施しています。 当初、 K 2 の自主事業でスタートし、 次の年に 「横浜会議」 という横浜市の研究事業に応募し、 研究費を頂き、 実態調査を合わせて行いました。 放送大学教授の宮本みち子さんの研究会のメンバーにご協力いただき、 これまで 4 年間に渡り実際の支援と並行して定時制高校の生徒の進路についてアンケートとヒアリングで実施しました。 その後、 「湘南・横浜若者サポートステーション」 を開設し、 改めて高校へのアウトリーチ事業を本格的に実施する事ができるようになったのです。

高校卒業〜基金訓練へ
 基金訓練とは、 2009年に始まった事業 (2011年終了) で、 雇用保険を受けられない人が無料で職業訓練を受けたり、 訓練・生活支援給付金 (一定の要件がある) を受けることができます。 昨年、 この基金訓練 (現在の求職者支援制度) を活用して就労に向けた準備プログラムを開設し、 定時制高校を卒業した4名が卒業後すぐにこのコースに参加、 6か月のプログラムを通して座学から職場体験、 インターンシップを経てそれぞれの進路を決める事が出来ました。 以下に具体例を挙げます。

19歳男子
 学校では皆勤賞。 人との関わりは苦手であったり、 とっさの変化に弱かったり、 学校での人間関係も難しい。 やる気はあるが受け入れられない事にいらだちを感じている事も多かった。 学校訪問で少しずつ関係を作り、 K 2 での就労体験などを通じてスタッフとの関係ができ卒業後に基金訓練のコースへ。 彼のこだわりや特性に配慮した職場の中で少しずつ彼の役割ができてきた。 基金訓練の修了式で 「最初は本当にここに来るのが嫌だった!でも、 今は前よりも少しは自然に笑えるようになったと思う。 ありがとうございます。」 と挨拶してくれた。

19歳女子
 卒業を目前にしながら退学になりそうだとの先生からの相談、 本人は卒業したいが学校に足が向かない日が続いていた。 持病もあり生活支援が必要だったが、 K 2 が介入して医療との連携を図りつつ、 担任の先生と連携して本人をK 2 での日中活動に促した。 何度も先生が自宅を訪問しK 2 まで連れてきてくれた。 ボランティアで入った学童クラブで力を発揮し、 得意の手芸や気遣いのある行動でスタッフからも信頼を得るようになった。 体調の変化、 生活リズムの改善、 人から必要とされる事などが同時並行的に彼女を元気にしていき、 何とか卒業、 基金訓練では就労への力をつけると共に仲間もできて精神的にも落ち着いてきた。 K 2 については 「K 2 と出会ってなかったら卒業もできなかった。 以前の自分だったらお客さんに声をかけたりなどできなかったが、 買ってもらえる喜びを感じたり、 責任を持って何かをやりきる事を経験できた。 自分にとって居心地の良い場所。」 と語ってくれた。

 他 2 名もそれぞれ進路が決まり、 K 2 との関わりを持ちながら働き始めています。 彼らは皆、 「高校は楽しかった」 というプラスの経験と高校の先生方との信頼関係がしっかりとできていたので、 私達を受け入れ、 支援につながる事が出来ました。 家庭環境や抱えている問題は非常に重く、 いくつもの自立への障害がありますが、 私達にとっても熱意のある先生というパートナーがいたからこそできた支援です。

新たな学校との取り組み
 今年度より県立横浜修悠館高校において 「キャリア活動T」 という授業を担当させていただいています。 これまでの取り組みとは違い、 授業を受け持つという事は大きなチャレンジでした。 これまでは課題のある生徒を説得して支援につなぐという方法しかできなかった事から、 授業という枠組みの中で生徒さんも単位をもらうというインセンティブがあり、 私達は授業を通して生徒さんたちにアクセスできるという強みがあります。 通信制高校ですので、 授業を選択してくれるのか?選択しても実際に授業に来てくれるのか?グループワークなどにのってきてくれるか?就労体験に参加してくれるか?毎回心配をしながら授業に臨みましたが、 思いのほか多くの生徒さんが授業に参加し、 夏休みにはインターンシップにも参加する生徒さんが19名中 8 名も出てきたのです。
 まだこの授業は半期が過ぎたところですが、 一番最初の授業では一番後ろで様子を見ていた女の子が、 半期の最後の授業ではかなり前のほうに席が移動していました。 そして、 その日の午後、 K 2 に戻ると、 なんと彼女が遊びに来てくれていたのです。 この夏休みにはインターンシップにも参加しています。 学校に来ることも一時は危ぶまれていた彼女がだんだんと表情が変わり、 笑顔が増え、 活発になってきました。 彼女はもうすぐ卒業を迎えますが、 その時までに私達との関係をより強固にして、 学校からの次の居場所になることをまずは目標にしたいと思います。

 日本では長い間、 学校を出た後は会社が若者達を育ててきましたが、 今はそこに頼る事は難しい世の中です。 若者達が学校から社会に放り出された時、 失敗してものぼれるハシゴを用意してあげる事。 その為に私達、 民間の支援団体と学校が共働してできる事はまだまだあると思っています。


     
  (いわもと まみ 湘南・横浜若者サポートステーション)

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