教育をめぐるこの一年 

新聞報道を通して


 紙面の都合上いくつかの項目にまとめて1年を振り返った。 どの新聞にも取り上げられた内容は特に出典を示さず、 日付のみ示した。 特集や出典を明示した方が良いと思われる記事のみ 朝日新聞:A、 神奈川新聞:K、 産経新聞:S、 毎日新聞:M、 読売新聞:Y で示した。
  1. 東日本大震災をめぐって
    5/1時点で2万人を越える児童・生徒が他校に転出。神奈川県には729名の生徒が避難(文科省調査6/1)。その被災生徒交流の場の立ち上げ、教員派遣、避難生徒の学習支援、県内の高校生自身の活動(募金、支援メッセージの送付、現地を訪ねての交流等)等様々な支援活動が行われた。
    給食の安全基準をめぐる文科省の発表が混乱(12/3)。弁当持参を要望する保護者も続出(S1/20)。秦野市では東海大学と連携し、すべての小学校・保育園の測定を始める(K3/2)。日光の汚染問題で、相模原市で修学旅行実施への不安が保護者からあがっている(K12/16、連載3/6〜3/8)
    文科省が「放射線副読本」を配布(10/14)。原発事故について本文でふれていない事や被曝の影響が曖昧(Y10/14)、「『神話』でなく『科学』を」(K社説10/18)等問題点が指摘されている。


  2. 教科書採択問題
    横浜市では、市教委が非公開とした「教科書調査員」名簿公開を実現(6/4)、教育委員会では前回は無記名であった投票が記名投票で行われたが、育鵬社の歴史・公民を採択(8/5)。また藤沢市教育委員会が育鵬社の歴史・公民を採択(7/29)。県立の中高一貫校である平塚中等教育学校でも育鵬社の歴史を採択し(8/3)、育鵬社は神奈川県では中学生の43%が使用する最大シェアの教科書となった。横浜でも藤沢でも「現場の意見に真摯に耳を傾けるべきではなかったか」(K社説8/7)と、現場の意見を反映している資料が生かされなかった経緯が明らかになっている。
    沖縄県では「八重山採択地区協議会」が育鵬社版の公民を選定(8/24)。竹富町は手順がおかしいと反発、不採択を決定。教科書無償措置法と地方教育行政法の矛盾が露呈した形となった。そもそも広域採択を見直し、「教師が研究を重ねて、保護者の意見を交えながら学校ごとに教科書を丁寧に選」ぶことが、目指すべき方向ではないか(A社説9/16)という指摘が肝要だ。

  3. 教育関連の判決多数―日の丸・君が代裁判等で最高裁判決続く
    戒告処分や再雇用拒否という形で不利益を受けることが違憲・違法であると争われた4例は、いずれも処分は合法とされ、判決の中で「君が代起立命令は合憲」との判断が示されたが、「反対意見」や「補足意見」が多数付された(5/30、6/6、6/14、6/21)。これを奥平康弘氏は理不尽で強圧的な行政の後始末を押し付けられた司法の悲鳴に近いと論じた(A6/28)。また7/7にも不起立呼びかけを威力業務妨害に問うことが、表現の自由の侵害に当たるかという裁判で、合憲判断が示された。1/16には、職務命令違反による都教委の懲戒処分の是非を問う裁判で「戒告は裁量権の範囲だが、停職・減給は慎重に」という最高裁判断が示され、「行き過ぎ処分に歯止め」(A社説1/18)がかかった形になった。2/9、都教委の「6・23通知」について従う義務がないことの確認、懲戒処分の差し止め請求ができるかを争った裁判で教職員側の敗訴が確定した。この判決でも「反対意見」「補足意見」が5名中4名から付された(2/10)。
    その他職員会議での挙手や採決を禁じた都教委の通知は,教育への不当な介入に当たるとし、損害賠償を求めた元校長土肥信雄さん敗訴(東京地裁 1/31判決)。都立七尾養護学校の性教育を視察し批判した都議らの行為は「教育に対する不当な支配だ」との主張を東京高裁が認める判決(9/17)など,注目すべき判断が多数示された。
    神奈川県では、国家斉唱や国旗掲揚時の起立指導徹底を憲法違反だとして,斉唱や起立の義務がないことの確認を求めた裁判で,最高裁は上告を受理しない決定をし、「争うような具体的なことがない」と訴えを却下した高裁判決が確定した(6/23)。また県教委が不起立教職員名を収集することは,思想信条に関する情報の取り扱いを原則禁止する個人情報保護条例に違反するとした訴訟に、横浜地裁は「不起立情報は思想信条情報に当たるが,条例違反にはならない」などとして訴えを棄却した(9/1)


  4. 大阪の教育問題
    大阪府内の公立学校教職員に君が代の起立斉唱を義務づける「君が代起立条例」が橋下徹知事率いる大阪維新の会の主導で成立(6/4)。また大阪府の9月議会に教育行政への政治関与を明記し、評価の低い教員の処分規定、競争・成果主義を導入し、定員割れが続くと廃校などの規定も盛り込まれた「教育基本条例」、職務命令違反をした職員などを分限免職にできる「職員基本条例」を提出。その後大阪府知事・大阪市長選挙で大阪維新の会が圧勝し、誕生した松井知事と橋下市長は、府議会、市議会に同趣旨の条例案を提出。府議会は3/23本会議で教育基本2条例(教育行政基本条例、府立学校条例)と「職員基本条例」を可決、4月より施行される(3/23)。

  5. 新入試制度発表・新校設置・定員など
    2013年入試から前・後期入試を一本化し、全受験生に学力検査と面接を課す、共通問題は従来以上に思考力や判断力、表現力をはかる内容にする、独自問題は廃止する等を主な内容とする新入試制度を発表(10/15)。全国で進んでいる公立高校で学力試験を必須とする流れの中での変更である。
    また元港南台高校の跡地を利用して、2014年の「昼間の定時制」新設が発表された(12/11)。相模向陽舘高校の「人気」への対応とされている。
    2012年度入試について、全日制入学定員を基本比率で割り出した公立中学校卒業予定者の60%の人数に120名を上乗せすることが、県公私立高校設置者会議で決定した(9/8)
    「定時制不本意入学対策」とされる(8/30K)

  6. 高校無償化
    授業料無償化の適用が実現していない朝鮮学校問題は、退陣前の菅首相が適用手続きの再開を指示(8/30)したが、「審査再開の根拠が不明瞭だ」(Y社説9/9)などの反発も招き、都道府県の補助金にも波及。「無償化反対19都道府県 朝鮮学校補助金1.5億円減 進む支給見直し、生徒離れ」(S10/24)という流れの中で、神奈川県は、「補助金は出す」(11/12K)としている。「朝鮮学校無償化 放置し続けていいのか」(K社説3/13)「無償化の結論を出すとき」(A社説3/3)にも関わらず解決しない。

  7. 新教育課程:PISA型学力、武道必修化 全国テスト、
    新課程の実施に伴い、ゆとり教育の検証や「学力」観の模索が行われた(A6/1〜6/5)(Y9/14〜9/24)。「武道」必修の新課程で多くの中学が柔道を選択する予定で、「柔道は延期すべきだ」(M社説2/12)など事故への不安も強く必修化を不安視する声が上がっている。
    2011年度の全国学力テストは,抽出方式で当初4月実施予定だったが、東日本大震災の影響で延期し、9月末に希望する学校で実施、「小・中校76%で利用」(10/18)。

  8. その他
    2012年4月の神奈川県独自の日本史必修化を前に、「モデル校20校」で先行実施(5/13Y)(9/26K)。必修化の実際は、日本史Aが県立高全143校中92校で、日本史Bが14校、独自郷土史は3校、独自近現代史は4校(S3/6)となっている。
    小田原市で10月中旬に通知票記載ミスが発覚、その後南足柄市、横浜市でも同様のミスが起こっていたことが判明(11/19)。
    センター試験の「地理歴史」「公民」の試験方法が変わったことが周知されておらず、多くの会場で混乱、全国48会場4565人に影響が生じた(1/16)
    東大のワーキンググループが秋入学への全面移行求める中間報告をまとめ(1/19),大きな反響を呼んだ。(2/5S、2/17A等)。
 
(文責 県民図書室 樋浦敬子)

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