特集U
大震災の後で
 
  若いころ私は東北地方で暮らしておりました。 3 月11日の夜、 仙台に住む知人に電話をかけ、 メールを送り続けました。 とうぜん通じません。 連絡がつくまでには時間がかかりました。 幸いにもみな無事でした。 だが伝えられる状況は辛く悲しいものでした。 ある友人のメールは無事を知らせた後にこんな言葉が続けられていました。 「巨大な地震の後、 暗い道を歩いて家へと向かいました。 いつのまにか私もその中にいる長い列ができていました。 その上に絶え間なく雪が降りはじめました。 余震が続いています。 悲しく、 恨めしく、 そしてなぜかは分からないのですが激しい怒りがわいてきました。 怒る相手なんかいないのに」。
 あの地震の中で、 あるいはその後で、 多くのひとが様々な体験をしました。 現地に行って活動したひともいます。 神奈川で被災者を受け入れる活動をしたひともいます。 そんな一人ひとりの体験や思いを共有することなど、 たやすくできるはずもありません。 そして 「分かった」 などとかんたんに言って欲しくはないとも思うでしょう。 しかし、 言いがたいこと、 伝えがたいことを、 少しでも言葉で表し記録していくことは、 巨大な事件を体験した人間の義務のひとつだと思います。 それによって記憶は残され、 何ものかを共有することができるようになるはずです。 そんな意味でこの特集を組みました。
                                 

(教育研究所員 本 間 正 吾)
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