特集U
なんてたって福島が一番気掛かりだ!
 
梅 本 霊 邦

 こりゃあ大変なことになった。 テレビ画面に流される映像を見ながら言葉を失った。
 さっそく岩手県社会福祉協議会宛にはメールを送り、 被災地での救援活動への参加を申し出た。
 岩手県社会福祉協議会から即日届いた返信は、 「今後当会のHPで案内があると思いますのでその節は宜しくお願い致します」 と短く簡潔であった。
 そのうちマスコミが 「自己完結型」 という言葉を頻りに使うようになった。 ライフラインが断絶した被災地で衣食住及び移動のすべてを自力で賄えることを基本の条件に、 完全自立的な災害支援のみが受入れられることを意味していた。 岩手県内被災地が県外からボランティアを受入れるとの公募はその後まったくなかった。 どの災害ボランティアセンターのホームページを開いても、 募集は被災地県内に居住し自宅から 「通勤」 可能なボランティアに限定されていた。
 その一方で、 東北の太平洋沿岸各被災地の想像を絶する惨状と被災者の置かれた過酷な境遇が、 テレビでは連日報道されていた。
 神奈川県災害救援ボランティア支援センター (実に仰々しい、 いかにも官僚的な名前倒れする名称である) から 「東北地方太平洋沖地震災害救援ボランティア関連情報」 のメールが送られて来たのは、 発災からすでに 3 週近くが経過していた 3 月30日のことだった。
 情報の要旨は、 行っても被災地に迷惑をかけるから行くな、 であった。 神奈川県としてボランティアをどう支援したいのか、 その意思はまったく示されていなかった。
 ボランティアを受入れる被災した側の自治体は 「来るな!」、 ボランティアを送り出す支援する側の自治体は 「行くな!」 で、 実質どっちも被災地に向かおうする一般個人ボランティアに 「ダメ」 を出す無為無策には苛立ちを禁じ得なかった。 己の経験や技術、 体力を緊急の災害支援に有効に活かせないことに、 私はもどかしさを覚えた。
 そうこうするうちウェブ上で宮城県亘理町の災害ボランティアセンターがいち早く、 県外からの一般個人ボランティアを公募していることを知った。 宿泊所を自力で確保してくれれば歓迎するとのことだった。
 宮城県角田市に在住の友人で小さな田舎寺の住職を勤める学生時代の友人に宿所の提供を依頼すると、 隣接する亘理町なら車で20分ほどの距離だ、 地震で壊れた上下水道が復旧していないので何かと不便だが、 それでよければ…と快諾を得た。
 ところが、 マスコミの喧伝する 「自己完結型」 を意識して被災地支援に必要と思われる装備をあれこれ揃えてみると、 自力で背負って運べる重量・体積をはるかに超えてしまった。 そもそも仙台までの東北新幹線は復旧しておらず、 東北本線の在来線を使っても仙台以南の沿岸被災地にすんなり入れる見込みはなかった。 幸いにも、 角田市周辺では燃料としてのガソリンの供給は不十分ながらも一応確保されている、 道路事情も一応復旧したとの情報が友人から得られた。 が、 装備を積載できる車がない。 レンタカーを長期借りる資金もない。
 思案投げ首、 退職直前まで私が勤めた高校のPTA役員だった三浦の野菜農家に軽トラックの借用を相談した。 野菜の運搬に使っている軽トラックなら今のところ空いているからと、 快く貸していただくことになった。 これで一気に問題解決、 「いざ出陣」 となった。
 果たして、 4 月 8 日から 7 月30日まで断続的に延べ60日を宮城県亘理町や隣接する山元町、 さらに南に行って福島県新地町や相馬市、 南相馬市でのボランティア活動に思う存分従事することができた。 ひとえに宿所を提供してくれた友人と軽トラックを提供してくれた野菜農家のおかげだ。 ただただ感謝!
 亘理町での活動の内容は、 主に民家の内部や敷地に滞留する津波デブリ (流倒木、 ビニールハウスの部材など雑多な漂着ゴミや汚泥) の除去及び民家の修復作業 (専門の職人が民家のリフォームに着手するための条件整備) で、 いわゆる 3 Kの力仕事にほかならない。
 私の果した役割は、 津波が残した余りにも巨大な、 まるで山のようにうずたかく積もった瓦礫の裾野で、 ちっぽけな石ころや木屑鉄屑を手作業でバケツに拾っている程度のことに過ぎない。 己の行為を過大に評価するつもりは毛頭ない。 が、 きれいに片付いた民家の有様を目の当たりにしたときの被災した家主とその家族の顔にほっと浮かぶ安堵の表情に、 実際私は大いに励まされ、 やってよかったと満足もしている。
 被災地支援を通して、 この社会のいろいろな問題と課題が見えてきた。 それらすべてを網羅し論ずる紙面はここにはない。 欲求不満を堪えつつ筆を置く。 が、 何と言っても福島が今一番の気掛かりだ。
 No Nuke! Power to the People!
  
(うめもと れいほう 元県立高校教員)
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