特集T 公立高校入学者選抜制度 |
―入学者選抜制度改善方針(案)をめぐって― |
教育研究所 |
2011年7月31日、 当研究所は、 神奈川県教育文化研究所とともに、 県PTA協議会後援を受けて、 「公立高校の入試制度の 改善 を考える県民シンポジウム」
を開催した。 神奈川県教委が同年7月に発表した 「入学者選抜制度改善方針 (案)」 に基づき、 新入選制度の課題について考えていくための企画である。 県教委は2010年7月、 「入学者選抜制度検討協議会」 を発足させ、 2011年3月に最終報告を出した。 主な方向性は、 (1)選抜を一体化する (2)共通の学力検査と学習意欲をはかる検査 (面接、 作文等) を導入する (3)独自問題は今回の改善の趣旨を踏まえて検討する (4)調査書の記載事項の扱い方には一層の工夫と改善が求められる (5)定時制・通信制については全日制と同じ方向で改善を行うが、 公立高校での学びを幅広く提供するため、 定・通の課程を含めて受け入れる、 といったものだった。 その後、 具体的に提示された制度設計案では、以下のような内容を示している。 (9・10ページの図を参照) 全日制・定時制・通信制で同日程での共通の選抜を実施。 ただし、 定通課程の一部では共通選抜のあとにも選抜機会を設定。 検査については 「共通検査」 (学力検査と面接) と必要に応じて実施する 「特色検査」 を実施。 通信制は 「作文または面接」 とする。 「学力検査」 「面接」 「調査書の学習の記録」 の割合については、 各校が一定の幅の中で設定。 実施時期は2013年度入学者選抜から。 シンポジウムでは、 立場の違う4名がそれぞれ問題提起を行い、 会場からの質疑・意見を求めながら、議論を行った。 制度をつくる立場、 中学生を送り出す立場、 受け入れる立場と、 当然のことではあるが、 立場が違えば、 見解の相違も生じる。 会場からの意見も含めて、 論点となった点をあげておきたい。 特色づくりと、 神奈川のこれまでの入試のあり方、 新学習指導要領・新しい学力観に基づき作成された案ということであるが、 そうだとすれば、 強い特色を有する学校の実施する 「特色検査」 はどのような検査になるのか、 また、 「面接」 は中学生の何をはかることが可能なのか、 県民からは問われていくことになるだろう。 「面接」 については、多くの発言があった。 細やかな人物評価を一層求める立場と、 面接ではかれるものに限界を感じる人との間の亀裂は大きい。 「面接」 の際の資料として 「調査書の記載事項」 や 「自己PR書」 などを活かすべきか否かということについても、 集会参加者の見解は同じではない。 そもそも、 10分程度の 「面接」 で、 人物の何が測れ、 それを入試資料の中でどのくらいの割合にして選抜するかということに正解はない。 しかし、 選抜の基準としては、 面接・調査書・学力検査の配分を明確にして中学生に示す必要があり、 そこに高校間の格差が反映されていくことも考えられる。 入試が、 人の成長、 発達に寄与するか、 という点も今回のシンポジウムの発言の中で相違があった点である。 「入試のための学力や意欲」 が中学から高校への接続の時点で、 学習に対する主体的な意欲をそぐ皮肉な結果になっているのではないかという発言もあり、 こういった 「入学試験」 が根本的に持っている意義についても、 浮き彫りになった。 入学者選抜のための検査によって、 「学力」 や 「意欲」 をはかることができるのか、 わたしたちはこれまでその本質を問うことなく、 具体的な方法の善し悪しを論じていたのではないか。 そういう観点から、 今回の 「入学者選抜制度改善方針」 は考えられるべきかもしれない。 そして、 現在、 片隅に追いやられているようにも見える定時制・通信制の入試のあり方に対する問題も再度、 広く議論していくべきであろう。 また、 より切実な問題として、 新しい制度が現在の中学2年生からの実施となることへの、 保護者側・中学側の不安も大きかった。 十分な広報という問題の他、 中学教員からは、 新学習指導要領と移行措置とのズレの中で、 一部教科に混乱を来すのではないかという指摘も行われた。 いずれにしても、 現時点で、改革時期にあたる中学生自身が、 先の見えない不安の中にいることは事実である。 中学生にとっては、 公平でわかりやすい仕組みであり、 それまでの努力が報われることや安心して受検できることが重要なのである。 中学校生活が入試 「制度」 のためにゆがめられてはならないし、 高校も 「制度」 のために振り回されてはならないのである。 両者にとって、 主役はそこで学ぶ中学生・高校生である。 制度設計者である県教委や実際の要綱を作成する高等学校は、 これらの点を踏まえて検討を進めるべきであろう。 この特集では、 シンポジウムの記録の他に、 参加者の感想、 入試制度を歴史的に鳥瞰する論文を掲載した。 今後、 長いスパンで入試制度を検討する資料として活用されることを願っている。 |
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