特集T 公立高校入学者選抜制度
中学校教員の立場から
 
平 山 俊 広
 中学校の学区の地域性や、 生徒の実態等により、 さまざまな進路指導等のパターンがあることに留意して聞いてください。
 高校入試を含めた進路選択が、 多くの中学生にとって初めて直面する、 人生の中の大きな試練であり、 その経験をとおして生徒自身が大きく成長していく面もあると思っています。 中学校では相当な時間をかけて丁寧に進路指導をしています。 また、 中学校の教員としても、 3 年生の担任として進路指導を経験することによって、 初めて一人前になるといわれているくらい、 非常に責任の重い仕事だと思っています。 今日は改善方針案について、 一中学教員として特に印象に残った部分について話します。
  1. 前期選抜と後期選抜の一本化について
     現行の入試制度の中で、 一番課題だと考えているのは、 日程が非常に長いということです。 多くの生徒が、 公立高校だけでなく、 私立高校も含めて考えると、 入試スケジュールは、 私立の推薦入試から始まって公立の定時、 通信までを含めると、 1 月の上旬から 3 月の下旬までと、 非常に長い期間行われていることになります。
     3 年生の 1 月から 3 月というのは、 中学校生活の集大成の時期ですが、 実際にはその時期に、 週に 1 回しか授業がないという教科もあり、 授業の成立が非常に困難という実態があります。
     また、 早い生徒は 1 月上旬に自分の進路が決まってしまう一方で、 遅い生徒は卒業した後にならないと決まらないといった実態があります。 その期間、 教室の中では、 合格した生徒と、 これからの生徒の温度差が非常に大きくなってしまい、 3 月の卒業に向けて、 心構えをつくっていくというのが非常に難しいという課題があります。
     改善案で、 日程の長期化が改善されることを、 私は評価をしていきたいと思います。 ただし、 この改善案は公立高校の部分だけですので、 私立の日程が変わらなければ、 当然、 短縮という意味がなくなってしまいます。 入試日程全体の短縮化に向けて、 今後、 県教委にはたらき掛けをお願いしたいな、 と思っています。
  2. 全員に学力検査を課すということについて
     中学校の教員の多くが、 卒業の直前まできちんと学習をさせたい、 授業に取り組ませたいという思いを持っています。 全員に学力検査を課すという考えは、 基本的には賛成です。 ただし、 現状として、 学力的な課題から、 後期選抜ではなく前期選抜での合格を主眼として進路指導を行っているという中学校も多くあり、 全員に学力検査を課して合格できるのかという、 不安の声も聞いています。
     また、 高校による独自問題を作成しないことから、 学力検査の難度が高くなってしまうのではないかという懸念も持っています。 これまでどおり、 広く浅くという観点、 基礎・基本的な知識・技能を測るという部分を、 学力検査の中では配慮していただきたいと思っています。
  3. 全員に面接を課すということについて
     前期・後期の一体化という趣旨を踏まえる以上は、 全員に面接を課すことについては、 理解できます。 ただし、 面接で実際にどんなことが聞かれるのか、 それがどう評価されて点数化されるのかが、 教員としても、 生徒としても恐らく不安が大きいのではないかと思います。
     その評価の観点や基準について、 県教委や各高校から、 中学校や生徒、 保護者に対して事前の丁寧な説明をお願いしたいと思います。
     面接の際に参考資料として活用されるための自己の特性・長所などを記載した書類の扱いですが、 現行の前期選抜では自己PR書を生徒が書いて提出します。 これは、 文章で記述することになっています。 生徒が書いたものなので、 本来、 中学校のほうでどうこうというのはおかしいかも知れませんが、 実際は調査書の記載事項との整合性等を確認するために、 自己PR書の内容はチェックをせざるを得ないところがあります。 これは、 生徒にとっても非常に負担が大きい部分がありますので、 できれば文章ではなくて、 箇条書きのような、 項目を記述する形式が望ましいと思っています。 さらに、 その書類に記載した内容自体が合否の判定材料にならないということについては、 あらかじめ周知をお願いしたいところです。
  4. 定時制、 通信制の分割選抜について
     現在、 学力的な課題あるいは家庭の経済的な事情から、 私立高校への進学が最初から希望できないという子どもが増えています。 定時制や通信制がそういった子どもたちの進学保障のよりどころとなっている実態があるわけです。 分割選抜によって、 全日制が不合格でも、 定時制や通信制を受検するチャンスがあり、 公立高校で学ぶ機会が保障されるという点では評価ができると思います。 ただ、 全日制を希望しながら定時制を視野に入れた生徒の受検機会の保障を考えると、 分割選抜の後半の比率をもう少し上げてほしいという思いがあります。
  5. 選考方法の合計数値の算出について
     今度の改善案では調査書の比率が、 制度上、 高校によっては、 割合として 2 とすることも可能であるのですが、 これについては不安があります。
     現行の入試制度の中で、 調査書の比率はおおよそ 4 から 6 になっていますが、 現在でも受検期になると、 登校しないで家で勉強する、 あるいは塾に朝から通って勉強する生徒、 あるいは家庭が少なからず存在するという実態があります。 今後、 塾の過熱化、 あるいは中学校の学習の軽視ということにつながらないように、 調査書の比率はもっと大事にしていただきたいと思っています。
  6. 調査書の記載事項について
     まだ具体的なことは公表されていませんが、 記載事項の点数化というのが現在の制度の中にあります。 制度の設計当初の理念として、 中学校での活動を大事にするということから始まったことだということは理解しています。
     ですが、 現状では、 そういった理念から乖離して、 ゆがんでしまった実態というのがあります。 点数化によって、 さまざまなアンバランスが生じ、 不公平な実態があると思います。 これまでどおり中学校における活動を評価していただきたいというのは当然ですが、 直接点数化しない制度設計をお願いしたいと思っています。
  7. 学校外の活動について
     地域におけるボランティア等の活動、 地域のスポーツクラブにおける活動、 資格・検定等も現行の入試制度の中では調査書の中に記載していますが、 これらを中学校の責任として調査書に記載するというのは無理があると思います。 調査書にではなく、 面接の際の参考資料として自己の特性・長所を記載する書類への記入という形のほうが望ましいと思っています。
  8. 観点別評価の記載について
     クリエイティブスクールの受検の際に、 選考材料として取り入れるというお話でしたけれども、 観点別評価は、 調査書へ記載するのではなく、 クリエイティブスクール受検の際に所定の用紙、 別紙に記載して提出をする形のほうが望ましいと思っています。
  9. 支援を必要とする受検生の受検上の配慮について
     これまで行ってきた受検上の配慮や、 選考上の配慮は継続となっていますが、 さまざまな支援を必要とする生徒が増えているという実態があります。 そのような実態を踏まえ、 さらなる配慮について検討をお願いしたいと思います。 特に共通して面接が行われることについて、 さまざまな不安を持っている生徒も多いです。 積極的な配慮をお願いしたいと思います。

  (ひらやま としひろ 相模原市立中学校教員)

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